カエル狩り
本日8月25日、「転生少女はまず一歩からはじめたい」3巻発売です!
今回も挿絵が最高です!
人の動く気配で目が覚めると、周りのハンターたちが少しずつ朝の支度をはじめていた。アレンもサラと同じくらいに目を覚ましていたので二人はそっと起き上がった。が、クリスもネリーも熟睡していて、まったく起きる気配がない。
「寝てても身体強化しているとはいえ、ちょっと危機感なさすぎない?」
「大人って割とそうだよな」
アレンは叔父さんもそうだったと言って笑っている。その笑い声で、やっともぞもぞと大人二人が動き始めた。
昨日の屋台の残り物で朝食にする。
「今日はどうしよう」
サラはいつもはクリスと薬師ギルドに行っていたから、今日は特にやることがない。
「狩りに行こうぜ」
アレンには迷いがない。しかしサラは狩りには魅力を感じない。
「薬草採取にでも行こうかな」
「狩りに行こうぜー。カエル、うまかったじゃん」
サラは思わず動きを止めた。確かに、自分でさばけば、いや、大まかなところはいつものようにネリーにさばいてもらって、肉の塊だけもらえば店に買いに行かなくてもいいかもしれない。
「サラ、確かヌマガエルは専門の者が毒腺を取り除かないと、カエルの体全体に毒が回ってしまうことがあった気がするぞ」
ネリーが親切に教えてくれた。
「ええ……。じゃあ狩りに行く意味がないよ」
「あるって。俺のかっこいい姿を見るだけでもいいからさ」
その日の予定を決定づけたのは、アレンの粘りを面白そうに見ていたクリスだった。
「今日は騎士隊がおそらく麻痺薬を使う日だ。魔物に麻痺薬を使った場合、体表に残った麻痺薬でハンターが痺れてしまうことがあるのだ。解麻痺薬は本来そのためにある」
魔物の中に、毒と麻痺を持っているものが二種類いるのだとばかり思っていたサラは、解麻痺薬の本来の使いかたに驚きを隠せなかった。
「あの騎士隊がまともに麻痺薬を扱えるとは思えない。私は狩人の間で待機し、ようすを見ようと思う。そしてサラ」
「はい」
サラは今日も手伝いかと緊張した。
「今日は私たちは離れないほうがいいと思う。何かあった時に連絡が取れないと、お互いに不安になるだろう」
確かにそうだ。ということは、自動的に狩り組ということである。サラはこれも経験だと割り切ることにした。
「よし! では出発!」
アレンがとても元気である。
「俺たちはいつもど真ん中で狩りをしているんだ」
まるで案内してくれているかのようにサラに説明するアレンに、周りのハンターから声が飛ぶ。
「アレン! 今日は彼女連れか?」
「かっこいいとこ見せないとなあ」
サラは、男女がいるとすぐにそういうこと言い出すんだからと内心プリプリしながら、少なくとも、ローザと違ってここでは少女扱いなのでよしと思うことにした。
「違うよ。この子もハンターなんだ」
しかしアレンがとんでもないことを言い出したので、サラは焦って顔の前で手を横に振った。
「なっ! ち、ちが」
「だって、一緒にハンターギルドで身分証をもらっただろ」
周りから幼馴染かよという声が飛ぶが、こういうことは否定すればするほど真実味を帯びるので、サラは不満を飲み込んで愛想笑いをするにとどめた。
「だが、初心者には面倒なところだ。気にかけてやんな」
「おう!」
アレンがこの界隈で認められていることだけははっきりと分かったサラである。沼には、前に見た時よりもたくさんのハンターがいるような気がした。
「騎士隊が来ると追い出されるから、朝のうちに狩っておこうっていうたくましいハンターたちだよ。さ、じゃあサラはバリアを張ってそこで見てて」
「うん」
ここまでネリーもクリスもちょっと後ろから見守る保護者に徹している。サラはちょっと恨めしそうにネリーを見たが、ネリーは涼しい顔だ。仕方がない。あまり見たくなかったが、目の前には茶色のヌマガエルが群れになっていて、ハンターを見るとなわばりが侵されたと思うのか次々とやってくる。
クリスとネリーがさりげなくサラの後ろに着いたのを確認するとアレンはしっかりした足場の場所を確保し、やってくるカエルを次々と殴り倒している。毒腺を避けるためか下からえぐり上げるようにアレンがこぶしを振るうと、大きいカエルが面白いように宙を舞う。あっという間にアレンの周りにはカエルの山ができた。それをポーチに入れてはまた、カエルと向き合う。
「はあ、すごい」
「そうだな。アレンがこうだから、すぐに周りのハンターも一目置いたのさ」
それでいろいろなハンターから声をかけられていたようだ。そうしているうち、ネリーの向こうに騎士隊の小さい影が見えた。
「騎士隊の作戦が始まるってよ。ちょっとでも減らしてくれるとありがたいが」
ハンターは引き上げるようにという通達も同時にきたので、朝から頑張っていたハンターたちは素直に町のほうを目指している。サラたちはその人波に紛れるように、なるべく騎士隊から離れたところを歩いた。
町のほうと言っても、実際に町まで戻るわけではない。なんといっても、騎士隊の大規模な作戦を見てみたい。誰もがそう思ったようで、麻痺薬が絶対に流れてきそうもない場所まで下がると、ハンターたちはあちこちで待機し、くつろぎ始めた。サラたち一行も同じように騎士隊の動きを見張ることにした。
一番目のいいアレンが解説してくれる。
「風上で、風を背に受けるように部隊が配置されたと思う。あ、何か投げた」
その時、ハンターたちから大きなどよめきが湧いた。
「カエルが次々と動かなくなっていくぞ!」
騎士隊は風上から風下に移動しながら、次々と麻痺薬を散布している。最後に残っている魔法師は、空気中に残っている麻痺薬を風で吹き飛ばしているようだ。その後に今度は、ハンターとみられる人たちがヌマガエルの間に踏み込んだ。カエルに触れないように、とどめを刺しては収納袋をかざしてカエルを吸い込んでいるようすがとても面白い。
「騎士隊なんて王都にいるお飾りの役立たずだと思っていたが、案外やるじゃねえか」
ハンターの一人がつぶやいたが、サラもそう思った。
「果たしてそううまくいくかな」
サラの背後にクリスのつぶやきが落ちた。
「おそらくハンターギルドとの連携だろうが、それならなぜ薬師ギルドにも連絡を寄こさなかったのだ」
皮肉な声で静かに語るクリスは、この場に薬師が一人もいないことに憤っているようだった。
異変はカエルを回収していたハンターから始まった。ふらふらと体が揺れたかと思ったら、その場に崩れ落ちてしまった。それに気づいた仲間のハンターが駆け寄るが、すぐに同じようにふらついて次々と倒れていく。
今回、特製しおりが入っていますのでお楽しみに。
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コミカライズ二話も、マグコミさんで無料公開中!
ついでに9月15日に転生幼女6巻発売。




