なんとかなる……かな
25日、「転生少女はまず一歩からはじめたい」3巻発売です。
今回はwebの内容にいくつか語り切れなかったエピソードを足していますよ!
「テッド」
クリスの声にテッドは驚いたように振り向いた。
「再赴任初日だからと、クライブは屋敷に帰ってのんびり休憩といったところか。馬鹿なことを」
クリスの言葉に、ロニーがうつむいた。受付の騒ぎを聞いていたからだろう。
「テッド。騎士隊がヌマガエルの討伐に来たようだ」
「騎士隊が」
短い間にテッドの表情が次々と変わり、最後にサラの方を何かを確認するように見た。サラが麻痺薬を使われたときと同じかという視線に、サラは頷いた。
「つまり、解麻痺薬が必要ってことですね。だけど、最初の在庫のチェックでは解麻痺薬など数えるほどしかなかったはずです」
うつむいていたロニーが顔を上げた。
「ここはダンジョンのほうにも麻痺毒を使う魔物はいなくて、解麻痺薬なんてお守りみたいな扱いなんです。なぜ騎士隊が来ると解麻痺薬がいるんです?」
「騎士隊はおそらく、一度に大量に麻痺薬を散布する作戦を立てているはずだ。だが魔法師でも大規模魔法をためらうあのカエルとハンターの混在の中、麻痺薬など使われたら、ハンターのほうにも必ず被害が出ると予測した」
「そんな。聞いたこともありません。それに麻痺薬は危険だからよほど大型の魔物でないと使わないはずなのに」
「新開発だそうだ」
クリスは肩をすくめ、一度ポーチにしまった自分の調薬の道具を出し始めた。
「幸い、サラが採取した麻痺草が使わずにとってある。あれを使えば解麻痺薬もできるはずだ。テッド」
「はい!」
二人はローザのギルドでも熱心に解麻痺の薬を作っていた。
「知らないふりをしていたが、町長から直接解任されるまではまだ私が責任者だ。受付には、直接ハンターを解毒する許可を出す。ロニーとサラはこちらで手伝いを」
「「「はい!」」」
おそらく前ギルド長に解毒薬を売るな、解毒も必要ないと言われていたのだろう。受付もほっとした顔で店のカウンターに戻っていった。
解毒で薬師ギルドに寄ったハンターによると、騎士団は今日はようすを見ただけで、明日の午前中に作戦を決行するらしい。
「ハンターは沼の手前で待機。麻痺薬を行き渡らせたら、そこから狩りを始めてよいってことで、狩り放題だって喜んでるやつもいるけどな」
解毒の付き添いで来たハンターは顎に手を当てて首をひねっている。
「ローザならともかく、カメリアを拠点にしていて麻痺薬を扱ったことのあるハンターがそういるとは思えないんだが。あれは使った後確か麻痺薬を洗い流さなければならないはずだが、わかっているんだろうか」
正しく危険を理解している人もいる。だが、数の減らないヌマガエルにはもう皆うんざりしていて、どんな対策でもいいからやってほしいというのが本音だった。
作った解麻痺薬は、大半を薬師ギルドに残したが、いくらかはサラとクリスが買い上げた。
「サラ、戻って来たよ!」
元気なアレンの声が響くころには、帰る用意ができていた。
クリスと前ギルド長の事情を聞いたネリーは、泊まるところがなくなって申し訳ないと謝るクリスに、屈託のない笑顔を見せた。
「荷物は手元にあるし、まったくかまわない。温かい季節だし、町の入口の広場で泊まれば何の問題もないだろう。宿がなくてあそこに泊まっている冒険者はけっこう多いぞ」
サラは薬師ギルドにこもりがちだが、アレンとネリーは毎日ちゃんと狩りに出ているから、町の外の情勢にも詳しいのだ。
テッドとロニーと別れて、四人は町の入口へと向かう。
「そういえばサラ。あいつ来てたぞ」
「あいつ?」
あいつと言われてもすぐにはピンとこない。
「あいつ。騎士隊の。確か実家が伯爵で宰相の家の」
「……リアム?」
「それだ」
現状を認識してげんなりする。
「騎士隊が来たってわかったとき、俺たちは目立たないように移動したからたぶん気づかれてないと思う。ちゃんと騎士隊の仕事で来てるみたいだから心配ないのかもしれないけど、見つからないようにしとこうぜ」
そんな話をしているうちに、目的の広場に着いた。時間が遅かったせいか、場所を見つけるのに少し苦労するほどハンターがたくさん滞在していたのにサラは驚いた。
「宿がないってわざわざ言われたのはこういうことなんだ」
それでも、野営は慣れている。最初にテントを用意すると、すぐに食事だ。
「あー、町で食べてくればよかったな」
頭をかくネリーに、サラは胸を張った。
「今日は私に任せて」
「サラの料理はいつでもおいしいけど、疲れてないか?」
心配するアレンの前で、サラは指を振った。
「大丈夫、作らないから。お昼に買っておいたの。ほら」
サラは収納ポーチから、昼に屋台で買って薬師ギルドまで届けてもらっていた品を出して次々と並べた。多めに前払いして、配達をお願いしておいたのだ。
「これ、たぶんなにかのフライ。串焼き。サンドイッチ。果物。なにかをもっちり焼いたやつ。それから、いろいろ」
とにかく片っ端から屋台に声をかけて回ったので、中身がさっぱりわからない。
「どれもそんなに高くなかったから、きっと地元の庶民向けの物だよ」
「つまりヌマガエルか」
「……うん」
楽しみなのだが、ドキドキもする、そんな微妙な気持ちのサラである。
「では、さっそくいただくか」
「うむ。サラ、ありがとう」
年上組はなんの遠慮もなく食べ始めた。サラだって負けるつもりはない。
魔物の素材があるせいか、油には事欠かないこの世界では、油をたくさん使った揚げ焼きは珍しくなく、したがってフライも唐揚げも存在する。
だが最初はまず素材を生かした串焼きからだろう。サラは一切れがサラの一口より大きい、見た目には鶏のような肉がいくつもさしてある串に思い切りかぶりつく。
「おいしい! それに柔らかい。安いのに!」
炙った肉の端が少し焦げてカリッと違う触感なのも楽しい。
「安いのにって」
アレンが笑うが、とても大事なことである。
「だってこれで二〇〇ギルだよ? ローザでは二〇〇ギルじゃ肉なんて一切れくらいしか食べられなかったよ」
「ローザは物価が高いからな。他のところはこんなもんだぞ」
勢いよく肉を噛みちぎりながらアレンが教えてくれた。
「コカトリスより淡白かな。でもくせがないからいくらでも食べられそう」
「コカトリスと比べるのはサラくらいだって」
野営の場所に明るい笑い声が響く。サラの予想した通り、ヌマガエルはあっさりした鶏肉のような味だった。しかも骨は外してあるのでとても食べやすかった。
食べきれなかった分をしまい直して、寝る準備に入る。明かりを消すと、夜空が見えた。サラはなんだかテントに入るのが惜しいような気がして、ネリーに声をかけた。
「ネリー。今日は魔の山の野営の時みたいに、テントの外で寝ない?」
「ふむ」
ネリーは広場を見渡し、特に危険もないだろうというように頷いた。
「わざわざ寝顔を見にくるような暇な奴もいないだろう。久しぶりに夜空を眺めながら寝るか」
「うん!」
「じゃ俺も」
「私もそうするか」
結局テントで周りを囲うようにしながら、皆で並んで横になった。まだ周りでは起きている人もいるようだが、明日も狩りだからか、騒いでいる人もおらず、静かである。
「星は同じかな。魔の山のほうがくっきり見えた気がする」
「季節もあるぜ。冬のほうが星がきれいなんだ」
両端にはサラとアレンを守るようにネリーとクリスがいる。
明日から自分たちはどうなるのだろうとサラは思った。
クリスはもうカメリアに用はない。サラとネリー、それにアレンはカメリアにいてもよかったが、騎士隊の登場でそれも怪しくなった。騎士隊が帰るまでカメリアでひっそり暮らすか、別の町に逃げてしまうか。
余りにも目まぐるしくて、そんなことを話し合う時間などなかったのだ。
それでも、もう一人ではない。
なんとかなるよねと、明るい気持ちで目を閉じた。
次は25日水曜日に更新です!
「転生幼女」6巻は9月15日発売です!




