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転生少女はまず一歩からはじめたい~魔物がいるとか聞いてない!~  作者: カヤ
旅は道連れ

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今日のお仕事

「俺は今日はせっかくだから、薬師ギルドの受付ではなくてヌマガエルの狩りに行きたいんだ」


 アレンは自分のハンターとしての目的を忘れない。


「では私も弟子と共に狩りにいくか。だがサラはどうする」


 ネリーもアレンも、一緒に狩りに行こうよというキラキラした目でサラを見てくるので、サラはちょっと笑ってしまった。だが行かない。


「私が一番役に立ちそうなのは、薬草採取かな。魔力草はここら辺には生えていないってハンターギルドの人が言ってたけど、魔の山では岩場にあったし、ちょっと小高くて乾燥したところを探して町の外に出てみようと思うの。バリアをつかったら一人でも大丈夫だし」


 サラは自分の食い扶持は薬草採取で稼いでいるので、何がしたいかと言われれば結局は薬草採取なのだった。


「では食事をして一日を始めようか」


 朝食のために、昨日来てくれていた人がまた来ているらしい。サラとアレンはその人に家具の収納袋を預けて、ちょっと肩の荷を下ろした気持ちで屋敷を出ることができた。ギルドのある大通りまで出たら、クリスとテッドは薬師ギルドへ、サラたちは町の外へと別れることになる。


 町の入口で一度立ち止まると、サラはまずヌマガエルのいる方を向いた。そこからぐるりと一回転してみる。一面の草原が広がる中、沼とちょうど反対方向に、低い丘が連なっているところが見えた。


「よし、目的地、あの丘にする」

「じゃあ、俺たちはカエル方面だ」


 カエル方面という言葉がなんとなくおかしくて、サラは笑顔でアレンと別れた。ネリーは町のほうに目を向け、一瞬強い目で何かをにらんだように見えたが結局は何も言わず、サラには優しい顔を見せてアレンの後をゆったりと歩いていった。


 薬草類があまり生えていないというのならば探す時間を無駄にはできない。サラは身体強化をかけて大急ぎで丘に向かった。普通に歩いたら三時間くらいかかったかもしれない。しかしサラは三〇分ほどで丘に着いた。


「修業の成果ですよ」


 自分を褒めながら丘を眺める。なだらかな丘で大きな木は生えておらず、ところどころ岩が顔をのぞかせている。町の入口からは遠いけれど、ピクニックに来るにはよさそうなところである。


「なるべく乾燥しているところ、乾燥しているところ。あ、あった」


 あったのは魔力草ではなく薬草だが、今日の食い扶持を稼ぐためには薬草を採取することも大切だ。普通の薬草が生えていることに安心しながら、サラは丘の下から丁寧に採取を始めた。


 薬草をせっせと集めながら少し大きな岩の周りで魔力草を探す。一周したところで、サラは特徴的な葉っぱを見つけた。


「あった! ここ最初に見たところじゃない。私ったら何をやってるんだか。え?」


 自分に文句を言いながら魔力草に手を伸ばしたサラの手に影がかかった。サラは岩のそばで採取をするためにバリアを小さめに張っていたので、すぐそばまで誰か、あるいは何かが来ることはあり得る。しかし、ここは町のすぐそばでもないし、ツノウサギが群れるローザの草原でもない。一瞬でそこまで考えたサラは、気持ちバリアを強化しながらおそるおそる顔を上げた。


「そのままそこを動くなよ」


 小さくて低い声は昨日聞いたばかりだ。


「ギルド長……」


 名前がとっさに出てこない。だがサラに背を向けているその人も、名前を改めて教え直す余裕はなさそうだ。


「ウウー」

「ウウー」


 気が付くとたくさんのオオカミに囲まれていた。懐かしい黄褐色の高山オオカミではない。灰色の草原オオカミだ。大きさは森オオカミより少し小さいくらいだが、それでもサラの体よりずっと大きい。


 ヌマガエルの狩場で対オオカミ用のハンターを昨日見たことを思い出しながら、サラは自分のうかつさをほんの少し悔やんだ。とりあえず目の前の魔力草はかがんだまま採取してかごに入れ、ポーチにそっとしまった。それからそろそろと起き上がり、周りをそっと見渡す。サラの前には昨日見たギルド長がサラをかばうように立っている。そしてその周りを、十数頭のオオカミが取り囲んでいた。


「ちっ。数が多いな。一頭一頭はそんなに強くないんだが」


 つぶやくギルド長にオオカミが次々と飛びかかった。何かあったらバリアを広げようとサラも構えて待つが、さすがギルド長をやっているだけあって、こぶしで次々と殴り飛ばしていく。それでも抜けてきた一頭は、サラのバリアに弾かれて襲ってきた勢いのまま跳ね返ったところをギルド長に叩かれていた。


 やがてオオカミたちはかなわないと思ったのか、しっぽを足の間に挟んでこそこそと走り去っていった。ギルド長はため息をつくと、はらりと落ちた前髪に気が付いて丁寧に後ろになでつけてからサラの方に向き直った。


「君は一体何をやっているんだ。やけに足が速かったが、子どもがたった一人で来るところではないぞ、ここは。あの姉さんだったか母さんだったかは別方向に行ってしまうし、いったいなんなんだ」


 お姉さんでもお母さんでもないとネリーは言ったはずだが、この言葉でサラはギルド長の名前を思い出した。


「デリックさん」

「デリックでいい」


 ギルド長というと、ついローザのギルド長を思い出すので、サラにとってはありがたい話だ。


「えっと、魔力草を探しに」

「ないといっただろう。聞いてなかったのか」


 あきれたような声に、サラはポーチから薬草かごを取り出し、さっき採取したばかりの魔力草を見せた。


「一本だけありました」

「まさか。あれはどちらかというと乾いた土地にしか生えないはず。そういえばここは」


 デリックが周りを見渡した。


「他のところに比べたら多少は乾いているが、多少だぞ。基本的にここは湿気の多い土地柄だから、まさか魔力草が生えているとはな……」

「あ、あっちにも」


 デリックと一緒に周りを見渡していたサラは先ほど見逃していた魔力草をもう一本見つけた。


「ほら。ありました」

「ううむ」


 デリックはうなり声を上げて腕を組んだ。


「クリスとテッドが解毒薬を作るのに、少しでもたくさん魔力草が必要なんです。解毒薬の在庫がもうないんですって」

「昨日から薬師ギルドで何をやっているのかと思えば、やはり新しい薬師ギルド長の知り合いだったか。薬師のクリスと言えばベテランのハンター界隈でも知らない奴はいない。クリス一行とはっきり言ってくれれば監視などつけなかったのに」


 サラはあきれてデリックを見上げた。


「監視なんて付けてたんですか。こっちだって直接聞いてくれたらなんでも話したのに」

「聞きにくい雰囲気だっただろうが!」


 サラは肩をすくめるしかなかった。ネリーがとっつきにくいのは確かだが、大人同士なんだから頑張ってコミュニケーションをとってもらいたいものだ。


8月25日、3巻発売です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 詐欺に嵌める相手に探りや監視を付ける町長
[気になる点] 前から気になってたんだけど、 バリアの魔力とか吸って生えてる?
[一言] するってーと、ネリーさんが睨んだ(だけで終わった)のは……
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