薬師ギルドに逆戻り
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面白いですよ!
「その通りだが」
無視をせず返事までして、さらに『なにか』まではつけなかったところを進歩というべきか。そして代わりにアレンが返事をした。
「あ、俺たち、さっきカメリアに着いたばかりなんです。ローザからやってきました」
「ローザから。それは珍しいな」
確かにサラの足の速さでも二週間かかったから、ローザからカメリアはけっこう距離がある。
「俺はアレン。そっちがサラ」
サラはぺこりと頭を下げた。
「で、こっちが保護者のネリー。俺たち、ハンターなんだ」
アレンが胸を張った。ネリーは頷いているだけである。それどころか、これでもういいだろうといううんざりした顔を隠せていない。
空気を読む日本人であったサラは、ネリーのうんざりした顔と、そのネリーに苛立っているギルドの人に挟まれて胸がバクバクする思いである。しかしアレンは空気なんて読まない。
「で、そういうあんたは誰なんだ?」
これである。ギルドの人はコホンと咳払いした。見ない顔ということはお互いさまであって、自分だって知られているわけがないということに気づいたのだろう。
「私はデリック。ここのギルド長だ」
なんとなくそんな気はしていたが、やはりその人はギルド長だった。ギルド長なんだから裏で仕事をしていればいいのにという気持ちと、ちょっとおそれ多い気持ちでサラの気持ちは一歩引いていたが、アレンはにかっと笑った。さすがちょっとの間でもローザのギルド長の家に下宿していただけのことはある。
「俺たち、たぶんしばらくカメリアにいることになると思うんだ。よろしくお願いします!」
「あ、ああ。よろしく」
さわやかな挨拶に抵抗できる人はいない。満足そうに笑みを深めたアレンはすぐにネリーのほうに向きなおった。
「じゃあ、今度は宿だね」
「ああ。では失礼する」
「待て待て。ああ、ネリーと言ったか、君はその、子どもたちのお母さん、いや、お姉さんか」
また待てと言われて、さすがにサラもアレンも若干うんざりした顔になった。さっき保護者だとアレンが紹介していたではないか。サラはネリーが苛立っているに違いないと思い、ハラハラしてネリーを見上げ、驚いた。
「フッ」
ネリーは口の端を上げてにんまりと微笑んでいた。
「そうか、お母さんに見えるか。フフフ。まあ、お姉さんでも悪くない。フフッ」
「ネリー?」
「うむ。ゴホン」
ネリーははっとして咳払いをした。
「あー、残念ながら、非常に残念ながら私は母でも姉でもなく、この子どもたちの保護者だ。正確に言うとサラの保護者で、アレンは弟子ということになる」
「そ、そうか。つまり、この二人の面倒はあなたが見るということでいいんだな」
「もちろんだ。ついでだが、宿を教えてくれ」
ネリーがついに面倒になって、受付に行かずに済まそうとしている。
「それなんだが。ないぞ」
「ない?」
デリックの言葉にサラは驚き、ほんの少しがっかりした。野営が嫌いというわけではないし、途中の町でも宿には泊まったが、やはりちゃんとしたベッドで寝るのは素晴らしいと思うのだ。
「この時期のカメリアはハンターで込み合う。宿などとうにいっぱいだ。それでも時折あんたたちのような計画性のないものがやってきて宿がないと文句を言うのでな」
それこそが受付の仕事だと思うのだが、受付を困らせるハンターが多いのでギルド長自直々に出張ってきたということなのだろう。ご苦労なことである。
宿がないなら仕方がない。確か町の入り口近くの街道沿いに野営の出来る場所があったはずだ。それなら込み合うギルドにいつまでもいる必要はない。三人の考えることは同じだ。
「そうか」
ネリーの一言と共に、サラたちはすたすたと歩きだした。
「待て待て! そこは粘るところではないのか? 子連れだから何とかできないかって」
これで待ては三回目だぞとサラは今度こそうんざりした。話はまとめてすればいいのに。ネリーも無表情で振り返った。
「なんとかなるのか?」
「い、いや、ならないが」
「なら仕方があるまい」
ネリーはかわいそうなものを見るような目でデリックを見たので、デリックは明らかに戸惑っている。
「なぜ私が気の毒そうな目で見られねばならん」
「そこまで言うなら」
ネリーはため息をついた。ちっとも話がかみ合っていない。
「言っていないが」
「おすすめの食堂を教えてくれ」
引き留められたついでに用事をもう一つ済ませようとしたネリーである。
「そ、それなら、このギルドの斜め向かいにある『跳ねガエル亭』のカエル料理がお勧めだ」
「そうか。感謝する」
今度こそ三人は振り返りもせずにすたすたと歩き去ったが、サラが入口で振り返ると、呆然としたデリックがこちらを見ていたので、にっこりと笑顔を見せておいた。
少ししつこかったし、少しくどかったが、見かけない面子がいたので話しかけてはみたものの、相手からはことごとく想定外の返事が返ってきて調子を狂わされたのだろう。サラはちょっとだけ気の毒に思った。だが、本当に気の毒なのは泊まる宿のない自分たちなのである。
「カエル料理かあ。楽しみだな」
「サラ、カエルは無理って言ってなかったか」
アレンが怪訝そうだ。
「そんなこと言ったら、コカトリスもガーゴイルも無理でしょ。どれも見た目が怖いもの。でも、狩るのは無理でも、食べるのは食べられるし、おいしいものはおいしい」
サラは胸の前でぐっと手を握った。
「前の世界では、確か鶏肉に似ていておいしいっていう話だけ聞いたことがあるの。丸焼きとかでなければ大丈夫」
「丸焼きなんて聞いたこともないよ!」
「私もだな」
どうやら丸焼きはないようなので一安心である。
「屋敷が用意されていても、食事までは用意されてはいまい。クリスにも声をかけてみるか」
「ネリー、それは気遣いのできる人の言葉だよ!」
「そうか、フフッ。私も進歩したものだな」
ネリーをほめそやすサラと照れるネリーをアレンが苦笑しながら見ているが、斜め向かいの食堂の場所だけ確認して、三人で薬師ギルドに戻った。
次は土曜日の更新です。
コミカライズから来た方へ。筆者の別の小説の紹介です。
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・異世界でのんびり癒し手はじめます(転生した少女が世話人と共に毎日をしっかり生きていく話)
・聖女二人の異世界ぶらり旅(仲良しOL二人組が異世界で大暴れ)
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