ハンターギルドへ行こう
コミカライズを見てきた原作者です。
小説より丁寧に転生前を描いてくれていて、「なるほど!」となりました。
小説とはまた違う出だしが面白かったです。
なにより、ネリーやサラや高山オオカミが絵で動くんですよ……。
ぜひ、「マグコミ」でどうぞ!
サラに軽く頷くと、クリスはさっそく動き始めた。
「ではロニー。町長に、ローザからクリスが到着したと連絡を入れておいてくれ。それからハンターギルドに行って、次のことを伝言してほしい。今日の午後の時点で解毒薬が切れたこと、今作っているが魔力草と薬草がなくてはたくさんは作れないこと、魔力草と薬草を優先して納めるよう掲示してほしいということ」
「はい」
「それと、王都へ薬草、魔力草の発注は出しているか?」
「出してはいますが定期便で、去年と同じ量なんです」
「ヌマドクガエルの発生はまだひと月は続くだろう。今からでも追加発注をしておこう」
「はい!」
一人でどうしていいかわからなかったのだろう。ロニーは指示が出て涙を浮かべんばかりに喜んだ。
「テッド、私と一緒にすぐに解毒薬づくりに入るぞ」
「わかりました!」
こちらも嬉しそうだ。
「では、私たちはハンターギルドに向かう。今日どこに泊まるかは報告に来る」
「ああ。ネフ。くれぐれも魔力はほどほどに」
「心配するな。この青年だって平気だっただろう」
ネリーもアレンも魔力の圧は大分調節できるようになった。もう最初から遠巻きにされることはないだろう。
サラはアレンとネリーと共に薬師ギルドの外に出た。外はさっきのような人だかりはなかったが、貼り紙を見て肩を落としたり舌打ちしたりして去っていく人たちが何人もいた。
「クリスは若くして王都の薬師ギルド長になり活躍したが、あっさりと辞めてしまってずいぶんと惜しまれたと聞く。クリスさえ呼べば、その名前の効果で何とかなると思ったのだろうか」
「クリスってそんなにすごい人だったんだね」
サラにとってはちょっと変な人に過ぎないのだが、確かにテッドにもすごく慕われている。
「ローザでさえ薬師は五、六人はいたように思うが。カメリアは一つしかダンジョンがないとはいえ大きな町だから、一〇人以上はいたのではないか。それが一度にいなくなるとは、よほど待遇に不満があったのか……」
「クリスのことが心配だね」
「なに、大人だからな。自分で何とかするだろう」
声音に心配をにじませているのにこの言い草、ネリーもちょっと意地っ張りである。
「薬師ギルドだけを見ても全体は見えないからな。ヌマガエルが大発生していると聞いたが、それも込みでまずはハンターギルドのようすを見てこないと」
初めて訪れる地ではまずは情報を手に入れることが大事である。でもやっぱり、それはクリスのためでもあるのだった。
夕方でにぎやかな大通りをまっすぐに歩いていくと、薬師ギルドから一〇分ほどのところにハンターギルドがあった。
「ワイバーンの看板は共通なんだね」
「あれ、かっこいいよな」
「う、うん」
バリアで防いだとはいえ、何度かワイバーンに襲われたことのあるサラは微妙な気持ちでアレンに返事をした。大通りを同じ方向に歩いていた人の中にはハンターもいたようで、周りの人たちが次々にハンターギルドに流れ込んでいく。
「よし、入るか」
「よそのギルドは初めてだ!」
ハンターでもないのに意気込むサラにアレンが冷静な指摘をする。アレンはここに伯父さんと来たことがあるのだ。
「まだ二つ目のギルドってことだろ」
「ローザのギルドは、単なる一つ目じゃなくてホームって感じがするんだもの」
「ホームか。確かにローザはいいところだったな」
話しながら、他の人に紛れてギルドのドアを押すと、まず水辺の匂いがぷんと鼻についた。ギルドを見渡すとローザよりも一回り大きいが、左手に売店がありその奥に食堂、中央に受付のカウンターがある。だが特徴的なのは右手の低いカウンターだ。
「カ、カエル」
チャイロヌマドクガエルが収納ポーチから次々と出されては素早く鑑定され、カウンターの向こうで収納されていく。
「ギルドも特産物によってこのように工夫されるんだ。面白いものだぞ、サラ。さて、アレン」
「うん。掲示板を見に行こう」
「じゃあ私は売店を」
サラは掲示板を見に行くネリーとアレンとは別行動だ。やはり自分のよく知っているところからと思い売店に向かう。
パッと見た感じ、ローザの売店よりずいぶん大きく、棚にもいろいろな種類のものが売っていた。店員も二人いて、ワイバーンのマークのついた制服らしきものを着ている。
「ポーション類だけじゃなくて、ポーチやリュックも売ってるし、本もある。本は何だろう」
サラが背伸びをしているのは、売店にたくさんハンターがいて商品がよく見えないせいもある。
「暇だったうちの売店とは大違いだなあ」
一人つぶやくも、たくさんいるハンターに交じる勇気はなかったので、おとなしく売店を眺めると食堂のほうに移動した。夕方なので結構席が埋まっている。さりげなくチェックすると、やはりローザとは違うメニューもあるようだ。
「これは早く宿をとって夕食も食べてみないと」
サラは掲示板を眺め終えて、所在なげに立ち尽くしているネリーとアレンのもとに急いだ。他に掲示板を見ている人はいなかった。
「ヌマガエル大量発生中につき、買い取り額若干の上乗せという紙と、ヌマガエルの他の魔物も常時買い取っているという紙以外にはないようだ」
それしかないのであっという間に見終わったらしい。サラも掲示板を眺めてみた。
「解毒薬が足りないとか、魔力草を納めてほしいという依頼とかはないんだね」
「ああ。薬師一人ではそこまで頭が回らなかったのだろうよ。それに薬草関係は納めるならやはり薬師ギルドまでいくだろうしな」
掲示板がその程度なら、あとはさっさと宿をとるに限る。しかし三人で頷き、受付に向かおうとした時、突然後ろから声をかけられた。
「見ない顔だな。それにどこに納めるかも何も、魔力草などこのあたりには生えていないぞ」
「生えていない?」
確かに魔力草は珍しいが、ローザの町でも数は多くないながら見つけられたし、道中でも見つけたら採取していたくらいなので、不思議に思いサラは聞き返した。後ろにいた人はローザのギルド長と同じような格好をしており、ワイバーンのマークを胸につけていた。黒髪を後ろに丁寧になでつけており、一日の終わりだというのにほつれの一つもない。なんとなく吸血鬼みたいな生え際に目が吸い寄せられたサラである。
その人はサラの視線を感じたのか額に手を当てた。
「生えていない。髪のことではないぞ」
サラは思わず目をさまよわせた。そんなことは思ってもいなかったのだが、どうやら気にしているようなので最終的にはそっと目をそらせた。
「そうか。情報感謝する」
ネリーがさらりと返事をし、そのまま受付に向かおうとした。
「待て待て。私の言うことを聞いていなかったのか。見ない顔だなと言ったんだが」
サラは心の中でそっとため息をついた。もしネリーがコミュニケーション力のある人なら、見ない顔だなという言葉には、『お前は誰だ』という意味を読みとり、『ああ、ローザから来たネリーだ』くらいは返せたと思う。
しかし、ネリーにはコミュニケーション力はない。したがって、『見ない顔だな』に対しては、『そうか。その通りだがなにか』と思うだけなのだ。現に今も何も言わずに早く用を済ませようとしているところである。
次回更新は水曜日になります!