お手上げな事態
【宣伝】マグコミさんにて本日12時にコミカライズ開始です!
「お前! サラ!」
「えっ? 急に何?」
さて、それでは話をしようとなったら、テッドがいきなりサラに詰め寄って来た。いや、詰め寄ろうとして、むしろ下がっていっている。患者に触れなかったとはいえ、自分にも毒の成分が付いているかもしれないことを警戒したのだろうと思う。
「出ていけって言っただろう。あんたもなんでサラを店から出さなかったんだ」
サラにだけでなく、ネリーにも突っかかっている。
「知らない町で、気の荒れたハンターたちのいる外に出したくなかったからだが」
「ぐっ。それはそうだけど……」
どうやら心配してくれていたようだとわかって、サラはちょっとだけほっこりした。
「俺にはなにもなしかよ」
アレンがちょっとむくれている。もっとも、出て行けと言われたら子ども扱いするなと腹を立てただろうけれども。
「ハンターは自分で対処できるだろう。サラは一応、その、一応?」
一応なんだというのだ。だが確かにサラは、ハンターギルドに所属しているがハンターではなく、ただの薬草採取人ではある。
「サラは俺より強いけどな」
「チッ。もういい」
テッドはプイと顔をそむけたが、サラはその態度はもうあまり気にならなくなっていた。サラとしては、いくらバリアで防御が強くても、カエルを怖がっているようでは話にならないと思っているので、自分が強いなどとはかけらも思っていないし。
その間にクリスは奥の工房にさっさと入り込み、話が終わるころには少し困惑した顔をしたまま戻って来ていた。
「カメリアはローザより大きい町で、薬師も10人以上いたはずだが、君以外どこでなにをしている。ギルド長は確かクライブだったと思うが」
「皆、王都に行ってしまいました」
「王都に。この、カエルが増える時期にか」
「はい」
ロニーは悲しそうにうつむくと、事情を語り始めた。
「そもそも、クリスさんを招こうとしたのはこの町の町長で、それは薬師ギルドに相談なく独断で決められたことなんです」
「確かに町長からの招聘だったが、まさか薬師ギルドの総意ではなかったということか」
「はい。町長としては、うちのギルド長にはそのまま薬師ギルド長でいてもらって、新たにクリスさんを呼んで薬師の育成部門を別に作る予定だったらしいです。でも、クリスさんは過去に王都のギルド長をやっているじゃないですか。それって薬師の最高位ですよね」
クリスの話とすり合わせると、薬師の最高位にいたのに、ネリーを追いかけてローザに来たということになる。それなのに薬師の仕事が忙しくて、ネリーにはほとんど会えていなかったのだ。そういえば、最初はよく魔の山に来ていたと聞いたような気がする。
「クリスは薬師としての役割をとても大切にしているんだね」
話に割り込むつもりはなかったのだが、サラの口から思わず言葉がこぼれ出ていた。
「だって、薬師の役割を大切にしているからローザでも忙しく働いていたし、薬師の育成が大切だと思うからわざわざカメリアまできたんでしょ。それってすごいことだと思う」
「お前、クリス様のことがわかってるじゃないか」
なぜテッドが嬉しそうなのか。
「皆が、お嬢さんのように考えるわけじゃないんです。クライブは、王都のギルド長をやったような人が来ると聞いてすごく警戒していました。そんな時、王都でも薬師不足だと聞いて、さっさとギルド長の職を辞して王都に行ってしまって。一緒に働いていた薬師たちも、今年のヌマガエルの多さに『解毒薬ばかり作らされるのにはうんざりだ』と言って付いていってしまいました」
「残っているのは」
「僕一人です。僕は王都が嫌でカメリアに来たから、王都には戻りたくないんだ」
ここにも王都が嫌いな人が一人いた。
「ギルド長に就任して薬師を育成するということ以外何の確認もせず来てしまったのは甘かったか」
クリスの言葉には後悔がにじんでいたが、ネットも通信網もない世界で、そんな事情を推察できるわけがない。カメリアの町長の根回しの悪さと、薬師の程度の低さが問題なのだ。
「だとしても、薬師希望の者がいるからこその薬師育成の要請だと思っていたが」
「そんなにいませんよ、薬師志望なんて。なんといっても王都に行かないと箔が付かないじゃないですか。面倒だし、いっぱしの薬師になるのには時間がかかりますもん」
「全く予想とは違っていたな」
さすがのクリスも呆然としていた。しかし、ネリーはあまり気にならなかったようだ。
「まあ、クリスは大変だろうが、私たちはハンターだし、何の手伝いもできなくてすまないな。さて、ハンターギルドの様子を見て、宿を決めてこようか」
「ちょっと待て、ネフ」
クリスは焦ったようにネリーを止めた。
「状況が変わった。百歩譲ってネフとアレンはいい」
ネリーとアレンはよいとはどういうことだ。サラはクリスの言っていることが理解できなかった。
「だが、サラは置いていってほしい」
「え?」
サラは思わず聞き返した。今、置いていってほしいと言われなかったか。
「サラの薬草採取の腕と薬草に対する勘は秀でている。今はその腕がほしい。いずれ調薬も頼むとして、しばらくは昼間は薬師ギルド預かりにさせてくれないか」
「さて、どうしたものか」
ネリーが少し困ったように顎に手を当ててサラを見ている。もしサラがハンターで、アレンのようにカエル狩りに意気込んでいたらネリーもすぐにこの申し出を断っただろう。しかし、サラはカメリアに来たら何をするかはあまり考えていなかった。
せいぜいがまず町のようすを見て、ぼちぼちと薬草採取をしようと思っていたくらいである。ネリーやアレンの狩りに同行しようとも思っていなかったから、もともと一人で活動する予定ではあったのだ。
ただ、町に来てすぐに、しかも他の人に自分のやることを決められるのはちょっと嫌だった。それにローザのハンターギルドで働いていたサラは、カメリアのハンターギルドを見てみたい気持ちも大きかった。
「えっと、つまり私に、魔力草と薬草の採取をしてほしいということですよね」
「最初はな。余裕が出てきたら調薬もやろう。やってみて合わないと感じたら別の道を考えたらいいのではないか」
サラはちょっとだけ考えると、カウンターの前に行き、腰の収納ポーチから薬草のかごを二つ出した。二つとも薬草でいっぱいだ。テッドもサラも、来る途中で薬草や魔力草などを、見つけたらこまめに採取して採っていたのだ。
「おお! 良質な薬草類がこんなにたくさん! 本当に助かります」
ロニーが目を輝かせ、薬草にそっと手を伸ばした。
「来る途中に採った薬草類です。代金とかごは後で取りに来ますね」
「サラ」
そう呼ばれただけだが、サラはクリスの、そのままここにいてほしいという圧力を感じた。上に立つ人だから自然にそうなるのだろう。サラはまっすぐにクリスの目を見た。
「クリス。私もともと、カメリアでもたぶん薬草を採って暮らすことになるんだろうなとは思っていたんです。それに、今大変な状況であることもわかっています。でも、薬師の手伝いをするならするで、そしてどういう形で手伝うかも、ちゃんと自分で決めたいんです」
そうはっきりと言い切った。
「だから今日はまず、ネリーとアレンと一緒にハンターギルドに行って、この町でも自分がどうするかしたいかを考えてきます」
「そうか」
クリスは大きく息を吐くと、もう一度繰り返した。
「そうか」
そしてふっと微笑むと、両手を広げた。あきらめたよというように。
「では、明日以降待っているぞ」
まったくあきらめていないクリスに、サラは思わず笑ってしまっていた。
「転生少女はまず一歩からはじめたい」
7月10日本日12時より、「転生幼女」と同じマグコミさんでコミカライズスタートです。
漫画家さんは岡村アユムさん。
初回は50ページ以上で読み応えあり。
表情豊かでとっても面白く仕上がっていますよ!
当分無料公開なので、ぜひ見に行ってみませんか。
また更新は今日と明日まで続けた後は、いつも通り水、土曜日更新に戻ります。
「転生幼女」はまだ書いていないので、こちらはお待ちくださいませ。
活動報告も書いてます!




