西の町カメリア到着
お待たせしました。連載再開です!
そしてついにコミカライズ10日にスタート!
これまでのあらすじ:
小さい頃から体の弱かった社会人の一ノ蔵更紗は、ある日夢に出てきた女神により、それが魔力不足によるもので、このままでは命が長くないと知る。魔力の豊富な世界トリルガイアに10歳の姿で転生させられた更紗は、サラとしてハンターのネリーと共に暮らすようになる。そこはオオカミなど魔物があふれる世界だった。やがて豊富な魔力ですべての攻撃を跳ね返すバリアを身に着けたサラは、離れ離れになったネリーを探して世界に一歩を踏み出すことになる。いろいろあってネリーと再会したサラだが、ついに魔の山から引っ越しすることになった。行き先はカメリア。同行者はネリーの他に薬師のクリスとテッド、そしてハンターのアレン。サラの楽しい旅が始まる。
「む、むり」
巨大ガエルをみて戸惑うサラをよそに、他の面々は面白そうに目を輝かせている。
「こんなにたくさんのチャイロヌマドクガエルを見たのは初めてだ!」
「そんなに嬉しいものかなあ」
ワクワクを隠せないアレンにサラはちょっと引き気味だ。
「何言ってんだサラ。俺たちはハンターなんだぜ。あれをたくさん狩れば、生活が潤う。おいしい物がたくさん食べられるんだぞ。つまり、あれはカエルの形をしている金だ」
「なるほど」
サラは自分が現実的な性格だと思っている。カエルをお金と思ってもう一度見直そうと沼のほうを見たとたん、ハンターの一人がひゅんと空を飛んだ。
「ええ? 今、と、飛んだ?」
「ああ、舌でからめとられたんだな。でも大丈夫。あのカエルの大きさではハンターは飲み込めないし口には入らないから」
しかし空を飛んだハンターは、頭から胸までカエルの口の中だ。ツノウサギほどの大きさのカエルもいるが、中には人の半分くらいの大きさのものもいる。
「人間が体に入る大きさかどうかわからないなんて、カエルも間抜けだよな。ハハハ」
「そういう問題じゃないから。一瞬でもカエルの口の中なんて入りたくないよ、普通の人は」
さらに向こうでは、叫び声を上げながら顔を押さえて倒れこむハンターもいる。
「あ、あれはなに?」
「毒を吐かれたな。なに、そんな時はこの」
サラは見なくてもネリーの行動の予測がついた。今腰のポーチから解毒薬を出したに違いない。
「解毒薬があっても、解毒するまでは苦しむんだからね」
「う、うむ。そうか」
ネリーもアレンもハンターだから、どうも普通の人の感覚に欠けている。
「あーあ、毒を浴びてしまってはあのカエルの毒腺がやせてしまうではないか。毒を吐く前にさっさと倒してもらわねば困る」
「ここに臨時出張所を作ってもらってすぐに解毒薬を作ったら、新鮮でいい解毒薬ができるのではないですか」
「それには新鮮な魔力草と薬草も必要だ。それらをすべて採れたてで賄うことができればな」
クリスとテッドはさっきからアレン以上に浮かれていて、こちらはこちらで始末におえない。サラはちらっと後ろを振り返ってみたが、自分以外に普通の人がいるはずもなかった。
さっそく狩りに行きたくてうずうずしているアレンとその他をなだめながら、サラは皆を街道まで引っ張ってきた。しかし途中で、沼に行くまでは気づかなかった景色にいやおうなく気づいてしまった。
「狩りをしている人の周りに護衛みたいに立っている人たちがいるね」
カエルを狩ろうとしている人を守るというのは不思議である。
「もしかしてここら辺にもツノウサギがいるの? あまり見かけなかったように思うんだけど」
「ああ、ここら辺へんにいるのはツノウサギではなく、草原オオカミだな。途中ではあまり見かけなかったが」
「オオカミ……」
「魔の山ほど強いオオカミではないから、サラはまったく心配しなくてもいい。カエルが集まってくるこの時期は、オオカミにとってもいい時期なんだ」
草原にオオカミがいてもおかしくはないのだが、サラは魔の山にしかオオカミはいないと思い込んでいたから驚いた。
「まあ、魔の山のオオカミもかわいくないこともなかったし、とにかく滅多に見かけないものだから大丈夫か」
サラは一人頷くと皆を急がせた。早くしないとカメリアの町に着く前に夕方になってしまう。
そうして沼のところから町のほうに向かって足を急がせると、途中には畑があり、農作業をしている人がちらほら見えた。つまり、ツノウサギのような危険な魔物は町の近くにはあまりいないということなのだろう。これなら町の外に出て薬草を採取するのも楽に違いない。
そうして町が近づいてくると、サラは思わず足を止めた。
「壁がない」
当たり前なのだが、ローザの町を見慣れているととても無防備に感じてしまう。
「オオカミが周りにいるのに、こんなに無防備で大丈夫なのかな」
「むしろこんなに建物があって人のいるところには来ないと思うぞ」
「確かに」
街道から町の中心に向かって道がまっすぐに続いていて、特に門番もいない。町に出入りするのは商人と思われる人たちだが、まったくの自由である。そんな中ハンターと思われるネリーやいかにも薬師といういでたちのクリスに注目する人などおらず、その一員であるサラは何の警戒もせず町を見ることができた。
「あ、子どももいる!」
ローザでは子どもはおそらく第二層か第一層の居住区にしかいなかったので、サラはほとんど見かけたことがなかった。だがカメリアの町には、母親に連れられた小さい子からサラと同年代の子どもまであちこちにいた。
サラが気になったのは少女たちの格好である。大人より丈の短いスカートにブラウス、それにワンピースなど、ローザの町で買った服がそのまま通用しそうでサラはほっとした。
「私は薬師ギルドで住むところを確保してくれているはずだが、ネフも私と一緒に」
「いや、ハンターギルドで宿を探す」
あいかわらずクリスの視界にはサラもアレンも、それどころかテッドすら入っていないが、ネリーにはあっさり断られていてちょっといい気味である。しかしサラ自身も旅の間に採取した薬草を売りたいので、ハンターギルドよりは薬師ギルドのほうに興味がある。
「私も薬師ギルドをまず見てみたいんだけど、ネリーとアレンとは後で合流する?」
サラの質問にネリーは少しだけ考えるそぶりを見せたが、結論が出たらしくかすかに頷いた。
「確かにサラには薬師ギルドのほうが重要か。そうだな、初めての町だから、まず皆で薬師ギルドに行って、それから私たちはハンターギルドに向かうことにしようか」
「どこに泊まるか、この先の予定などは薬師ギルドに伝言してくれれば助かる」
クリスもほっとしたようだ。
「薬師ギルドは確か中央通りの、町の沼側寄り、ハンターギルドは反対寄りにあったはずだが、おお、ここだ。おや」
ローザの町と同じ、薬草の看板がぶら下がっているのがギルドだろう。しかしクリスが思わず声をあげたように、店の前には人だかりがしていた。ローザの町の静かな薬師ギルドとは大違いである。いったいなにが起きているのだろうか。
「転生少女はまず一歩からはじめたい」
7月10日より、「転生幼女」と同じマグコミさんでコミカライズスタートです。
漫画家さんは岡村アユムさん。
初回は50ページ以上で読み応えあり。
表情豊かでとっても面白く仕上がっていますよ!
当分無料公開なので、ぜひ見に行ってみませんか。
また更新は今日から三日間続けた後は、いつも通り水、土曜日更新に戻ります。
「転生幼女」はまだ書いていないので、こちらはお待ちくださいませ。
活動報告も書いてます!