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そこにいたのは

 次の日、サラとネリーは、足早にローザに戻る一行を見送ると、いつものように魔の山へ向かった。


「これから少し山小屋の模様替えをしなくちゃだね」


 サラはこれからすべきことをうきうきと数え上げた。


「ハルトとアレンだけじゃなく、付き添いの大人も来るでしょ。お客が来ている間は私はネリーと一緒の部屋でいい?」

「もちろんだ」


 ネリーの部屋もサラの部屋も、もともとベッドが二つ置いてある二人部屋仕様なのだ。そして二人部屋が三つあるから、もともとは6人泊まれる作りなのである。


「それで客室が二つ用意できるから、一つはハルトとアレン用、もう一つは大人用で」

「うむ。確か屋根裏も、非常用の客室になっていたと思うが」

「あの開けたことのない屋根裏が?」


 サラは屋根裏に上がる階段があるのは知っていたが、てっきりただの荷物置き場だろうと思っていた。


「うーん、お布団とかはあるのかな」

「確か小さい収納袋があったような気がするぞ」


 何年も住んでいるのに相変わらず家のことに興味がなく、知識も曖昧なネリーである。そんな話をしながらあっという間に魔の山の入口に着き、いつものように集まって来たツノウサギをうんざりと眺めながら歩いていると、ふとネリーが立ち止まった。


「ネリー?」

「うん。ああー」


 しまったという顔をしたネリーは、いきなり勢いよく頭を下げた。


「すまんサラ」

「な、なに?」


 焦るサラに、ネリーは困った顔を向けた。


「服を買い忘れた」

「あー!」


 一旦ローザの町に戻って買い物に行こうと思っていたのに、すっかり忘れて普通に帰ってきてしまっていたのだ。


「ネリーのせいじゃないよ。私も忘れてたし、何より今回は急に話を持ってきたギルド長のせいだよ……」

「いや、私が思い出せばよかったのに。そうだ、今度行った時に店ごと買えば、しばらくは買い忘れても大丈夫なんじゃないか?」


 買い物が面倒だという気持ちがありありと前面に出ている。


「服には流行というものがあってね、というか、店ごとじゃなくまず一枚から欲しいんだよね」


 そうは言っても、くよくよしていても仕方がないとサラは割りきった。


「今度ローザに行った時は、薬師ギルドやハンターギルドに行く前に、服屋さんに寄る。誰にも邪魔させない。これですべて解決!」


 ふんと気合を入れるサラにネリーは優しく微笑んだ。


「そうだな。今度は忘れないようにしような」

「ネリーはお店に入っても気を使わなくてすむよう、クリスがやってるみたいに魔力を抑える訓練をしないとね」

「うむ」


 魔力の圧が高いと生きづらいのは、アレンを見ていてもわかったが、アレンにしろギルド長やヴィンスにしろ、町の人の間で普通に暮らしている。薬師ギルド長のクリスに至っては、周りに人が集まってうっとうしいほどだ。


「面倒くさいからって、魔力を出しっぱなしにしているからお店に入りにくいんだからね」

「はい」


 神妙に頷いたネリーと共に魔の山に戻るサラである。




 高山オオカミに迎えられて魔の山の小屋に戻ったサラは、さっそく屋根裏部屋の検分をした。少しほこりっぽかったが荷物などはなく、何もない広い部屋だった。隅っこに置いてある収納袋には、ベッドの木枠が4つと4組のふとんが入っていたが、床になっている部分も丈夫だし、床に寝るのでよければさらに数人は大丈夫そうであった。


「何かあった時のことを考えると、客室だけだと6人だけど、屋根裏で更に4人、あちこちにごろ寝をすれば全部で20人くらいは泊まれるのか。いやいや、そんなにたくさん泊まることを考えてもしようがない。ハルトとアレン、付き添いの大人二人で四人くらい泊まれればいいかな」


 サラはぶつぶつ言いながら、客が来たらどうなるかの配置を考えていた。ローザの町へ行きたくて焦っていたころの自分からだいぶレベルアップしたなと思いながら。


 収納袋から出してみた布団はすぐに使えそうだったので、そのまま元に戻した。客室はすぐに使えるようになっているし、あとは二人が修行して魔の山に来られるようになるのを、サラなりの生活をして待つだけでいい。


「私は二年かかったけど、アレンたちはどのくらいかかるだろ」


 もちろん、最弱だったサラと比べたらスタート地点はかなり前のほうだ。


「今度ローザに行くのが楽しみだな」


 ネリーが戻ってきてからサラは毎日が楽しい。もちろん、アレンと一緒に過ごしたローザの町でのあれこれも楽しかったが、常にネリーの安否が気にかかっていたから、それが日常にどこか暗い影を落としていたのだ。


 客用に部屋を調えたり、日課の薬草採取にいそしんだり、ネリーの狩りについて行ったりしているうちにローザの町まで行く10日間はあっという間に過ぎた。サラはいつものように収納リュックをしっかりと背負った。遠くに見えるローザの町に向かってかけ声をかける。


「今度こそ服を買うぞ!」

「よし!」


 二人で気合をいれてローザに向かい、高山オオカミに見送られて草原の入口の広場まで来てキャンプをしようとしたら、そこには先客が3人いた。一人はぐったりと仰向けに倒れこみ、まぶしいのか片手で日差しを遮っており、残りの二人はあきれたようにそれを見守っている。


「サラ!」

「サラと姉さん!」

「姉さんではない。ネリーだ」


 見覚えのある二人はアレンとハルトである。アレンはともかく、ハルトがたった10日間ちょっとで、草原の端っこまで来られるようになったのは驚きであった。しかし倒れているのは誰だ。


「アレン! ハルト! それと?」

「チッ」


 このあたりでこんな失礼な態度を取る人は一人しかいない。


「テッド? なんで?」

「……うるさい……」

「大人は? 保護者はいないの?」


 サラは辺りを見回した。どう見ても3人しかいない。


「どう見ても……、俺が……、保護者だろうが……」


 確かに20歳は越えているはずだが、どこからどう見ても保護者の器ではない。そもそも、アレンの圧を嫌がるくらいなのだから、魔力量もそれほど多くないはずだ。草原に出てくること自体が自殺行為ではないのか。


「ええ? 保護者って、面倒見るどころか、一番疲れてるじゃない」

「疲れてない。空を見ているだけだ」


 テッドと話していてもらちが明かない。


「アレン?」

「ええと、その」


 どうやら事情がありそうだ。




更新をうっかり一回飛ばしてすみませんでした。

「転生少女はまず一歩からはじめたい」2巻、2月25日発売ですが、近くの本屋さんに行ったら

なかったので、代わりに鬼滅を一気買いしてきた作者です。

特典情報は、詳しくはMFブックスのニュースのページで。

メロンブックスさん、ゲーマーズさん、とらのあなさんでss付きです。


「転生幼女はあきらめない」は5巻が2月15日発売しています。

同月発売記念コラボをやってます。バレンタインの時期なので、

「転生幼女」には、サラの「魔の山でハッピーバレンタイン」

「まず一歩」には、リアの「兄さまにハッピーバレンタイン」

と、お互いのssが入ります! これも詳しくは活動報告へどうぞ!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] どうでもいいから忘れるなんて理論が通用するなら、財布を忘れるサザエさんは存在しないんですよ! たぶんご近所に言えばお金かおかずかを貸してもらえるが‥。 [一言] テッドはいいところ…
[一言] 基本的に忘れるってことはどうでもいい事だから買わなくても問題ないわな(笑)
2022/02/04 23:00 退会済み
管理
[気になる点] ローザでの忘れ物は服だけではないよね!! 薬師ギルドでの薬草代の回収も忘れてる(笑)
感想一覧
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