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ハルトの告白

 魔法はイメージが大事だという教本の通り、カエルの卵という微妙なイメージでクリスもヴィンスもバリアを成功させた。ただし、やはり長時間展開するのは無理なようだ。


「身体強化は半日以上続けても大丈夫なのに、バリアは数分しか続けることができないのはなぜだ。魔力の消費にそこまでの差があるとは思えないのだが」

「そんな簡単にできるわけないだろ。訓練するしかないだろうが。これだから天才はいやなんだよ」


 そんなクリスとヴィンスは放置していて、サラとアレンとハルトは薬草採取にいそしんでいた。ハルトは一度薬草について教わってからは、サラの教本を借りて見直している他は質問もせず、静かに集中して薬草を探している。


 サラは意外だった。いつでもうるさくて少し自分勝手、それがハルトという少年だと思っていたからだ。


「さあ、おやつにしねえか」


 ギルド長の声に大人組が光の速さで広場に戻ってきた時も、


「俺、切り分けてみたい。あとコンロの使い方教えてくれ」


 とサラに付いて回り、不器用ながらもパイを切り分け、目を輝かせてコンロをいじってみている。その間、質問するほかは無駄口も叩かず、動きも静かだ。


「洗うのがカップだけなら、水を魔法で手から流しながらこうキュッキュッと」

「手のひらから水を出す感じだな」

「そう。終わったらこう、水分を蒸発させる感じで乾燥すると早いよ」

「それはちょっと難しい」


 サラとハルトの会話をクリスとヴィンスが唖然として聞いている。ネリーとアレンはサラで慣れているし、ギルド長も驚いてはいない。


「招かれ人の発想は奇想天外だな」

「それもなんで茶碗を洗うとかそういうとこに魔力が発揮されてるんだよ」


 ネリーに魔力の話を聞いた時、皆魔力を持ってはいるが、別に積極的には使わないとサラは聞いたような記憶がある。確かに、水は水道から出したほうが早いし、熱だって魔道具から発生させたほうが早い。だとしたら、細かいことに魔力を使うことはないのだろうと思う。


「大きな魔法で魔物を倒すことばかり考えていて、こういう身の回りのことはやったことがなかったんだ。魔力って、いろいろなことに応用できるんだな」

「うん。むしろ大きい魔法とか考えようとも思わなかったよ」


 人が違うと考えることも違う。ハルトは少し暗い顔をしてうつむいた。


「あのな、サラ。それに姉さん」

「姉さんではない。ネリーだ」

「うん。ネリー」


 サラはネリーのその言葉に思わず振り返った。それは拒否の言葉ではなく、ネリーと呼んでいいぞという許可の言葉のように感じたからだ。少しだけ口の端が上がっているネリーの表情を見ると、サラの勘は当たっていたようだ。


「俺、最初、王様の前に現れたんだ。招かれ人ってたいていそうなんだって。女神のような人が、魔力が多いから大切にされるだろうけど、日本にいた時と変わらず、ちゃんと決まりを守って生きていきましょうねって説明してくれた後に」

「え? 私、招かれたというか、放置されたの魔の山だけど。目の前には高山オオカミがいたけど。何の説明もありませんでしたけど」


 サラは自分との違いに気が遠くなりそうだった。なぜサラだけが違うのだ。


「そこからすぐに立派な部屋を用意してくれて」

「私は山小屋だったけど」

「いろいろこの世界のことを学ばせてくれて、それから後見してくれる人を決めて、屋敷を用意してくれた」

「もはや何を言っていいかわからないです」


 あきれたような口調になりながらも、サラは28歳の社会人だったし、ハルトは10歳の子どもだったことを考えれば仕方がないかなとも思えるのだった。10歳と言えばまだ親が必要な年齢であり、転生させられたのが魔の山とか、家事能力のない人の側とかではなくてよかったくらいだ。


「先のことはゆっくり決めていいと言われたけど、ダンジョンとか魔物とか、ハンターとか聞いたら、やっぱりそういう仕事に就きたくなって、12歳からハンターになったんだ」

「12歳でハンターになったのは私も同じだ」


 サラも頷いた。


「一人じゃ危ないからって、仲間も用意してもらって、そうしていろいろな魔法を使って、けっこう活躍していたと思う。そんな時、大型の魔物を離れたところからおとなしくさせる魔法はないかって聞かれて」

「うーん、スリープとかスタンとか?」


 サラの知識ではこのくらいがせいぜいである。その話に反応したのはヴィンスだった。


「サラ、お前もそんなにすぐに思いつくのか」

「うん。実際に魔法を使ったことはなかったけど、架空の物語はたくさんあったから」


 それぞれのお話にそれぞれの魔法名があった気がするが、いちいち思え覚えていない。


「でも精神干渉系の魔法は俺は使えなかった。魔法がどう相手の心に作用するかのイメージが、どうしてもできないんだ」

「それは私もだ。確かに難しいよね。それに、危険だし」

「うん。その危険に気がつかずに、『麻痺薬ならできる』って提案したのは俺なんだ。ブラッドリーはそういうことを聞かれても何も教えたりしないのに」

「あー」


 サラは騎士隊に襲われた時のことを思い出した。


「その考えを騎士隊が人に使ったんだ。騎士隊、弱いだけじゃなく最低だね、やっぱり」


 サラは改めて騎士隊に嫌悪感を抱いた。


「俺はネリーに麻痺薬を使うのを王都で見てしまった。ネリーはそれをうまくかわしていたから、その時もそこまで責任は感じてなかった。けど、後から、ネリーが子どもを置いて連れ去られてきたって聞いたんだ。それって俺のせいだろ」

「うーん、なんといっていいか」


 サラはその話を聞いても、ハルトに怒りは感じなかった。ただ、騎士隊の後ろに、招かれ人をいいように使おうとする勢力があることを感じて嫌な気持ちにはなった。


「ここにきて、その子どもがサラだって聞いて。一見のんきで気楽に見えるけど、12歳のお前が一人で取り残されたんだと思ったら、本当に俺のしたことは……」

「のんきでも気楽でもないからね、私は」


 そこは大事なので指摘しておく。ハルトは一度目を上げて、ネリーのほうをしっかりと見ると、深く頭を下げた。


「ごめんなさい! 俺のせいで、薬を使われて、つらい思いをさせました! 本当に、ごめんなさい……」


 ネリーは何とも言えない顔をすると、ふっと微笑んだ。


「私はいい。取り残されてつらい思いをしたのはサラのほうだからな」


 ハルトは今度はサラに頭を下げた。


「サラ。すまない。俺が軽はずみな提案をしたから」

「謝罪は受け取るけど、もういいよ」

「よくないんだ。よくないんだよ」


 ハルトの声は思ったより深刻だった。


「俺は、麻痺薬のことを反省したけど、それでも、何なら話してもよくて何なら駄目なのか、全然わからないんだ。このまま王都にいて周りにちやほやされ続けたら、またなにか、人に害を及ぼすようなことを言ってしまいかねない。だから俺」

「逃げてきた、んだろ」


 黙り込んだハルトの代わりに言葉を発したのはアレンだった。



「転生少女はまず一歩からはじめたい」2巻、2月25日発売です!

特典情報が出たので、詳しくはMFブックスのニュースのページで。

メロンブックスさん、ゲーマーズさん、とらのあなさんでss付きです。


「転生幼女はあきらめない」は5巻が2月15日発売しています。

同月発売記念コラボをやってます。バレンタインの時期なので、

「転生幼女」には、サラの「魔の山でハッピーバレンタイン」

「まず一歩」には、リアの「兄さまにハッピーバレンタイン」

と、お互いのssが入ります! 詳しくは活動報告へどうぞ!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大型の魔獣に!と言われたら大人でも……。 とはいえ『対ネフェルタリ精神呪法』なんて、概念聞いただけでホイホイ(年単位の研究)使えるもんなのかな? それなら『悪人を大人しい善人にした…
[一言] クソガキだけど、染まってない分良心が残ってたか
[一言] 十歳で転生してチヤホヤされ続け、それでここまで配慮出来るとは超人レベルですな。 十歳までの親の情緒教育がよほどしっかりしていたのでしょうね。
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