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大人ってしょうがない

「サラ、せっかくだから、昼に温かいスープはどうだ?」


 珍しいネリーの提案にサラは素直に頷いた。


「ちょうどポーチに鍋ごと入れているやつがあるから大丈夫。じゃあネリーの携帯コンロも貸してくれる? お茶も沸かしたいから」

「わかった」


 興味津々の皆の視線の中、ほとんど使ったことのなさそうなネリーの携帯コンロと自分の携帯コンロを並べ、収納ポーチからまず大きな鍋を出した。中身はコカトリスのトマトスープだ。アツアツのままだと取り出すときに危ないので、いったん冷ましてある。後で小分けにしようと思ってそのまま入れておいたものだ。


 それを火にかけ、もうひとつのコンロにお湯を沸かす用意だけしておく。お茶は食後にいれればいいだろう。


 その準備を見ながら、みんなそれぞれのお昼ご飯とカップを出した。ハルトもみんなの様子を見て、ひとテンポ遅れて同じことをしている。サラは温めたスープを一人ずつについでいった。なんとなく給食当番のようで、懐かしい。


「サラ、お前弁当の温めとか仕事にしてるんだから、スープもその調子で温めたらいいんじゃないのか?」


 ヴィンスに言われてサラは苦笑した。


「それはそうなんですけど、やっぱりせっかくのキャンプ道具だから、使いたいじゃないですか」

「だよな! 俺も帰ったら買う」


 激しく頷くハルトを横目で見て、アレンは首を横に振った。


「俺は面倒くさいからしたくないな」

「俺もだ」


 残り全員、面倒くさい派だった。ネリーも小さく手を上げていて、サラは思わずクスッと笑ってしまった。


「外に泊まるって、面白いのに」

「だよな! 俺も町に帰らなくてよかった」


 さっきまで町に戻ろうと言っていたハルトがこれである。


「うまっ! 相変わらずサラの料理はうまいなあ」

「前食ったのは弁当だったが、このスープもいける。まさか、入ってるこの肉は……」


 もくもくと食べているクリスとアレンと違い、ギルド中年組は賑やかである。


「あ、コカトリスです」

「そうだよなー、そんな気はしたんだ、あの弁当の時も」


 ヴィンスが遠い目をした。


「ネリー、お前さあ、こんな若いうちから贅沢させるなよ」

「すまん。魔の山では新鮮な肉と言えばコカトリスやガーゴイルなものでな」

「ガーゴイル? ガーゴイルって言ったか? ゴールデントラウトと言い、まるで魔の山はおいしくて楽しい楽園みたいなところに聞こえるじゃねえか。あ、サラ、スープお代わりあるか」

「俺も」

「私も」

「はいはい」


 全員お代わりである。サラはスープのお代わりをつぎながら、収納ポーチの中身を頭の中で確認した。


「ガーゴイルなら、ローストしたやつがポーチに入ってますよ。ガーゴイルってごろごろ転がるからおかしいですよね」

「おかしいのはお前だぞ、サラ」


 ヴィンスがスープの肉をもぐもぐしながらサラにスプーンを向けた。行儀が悪い。


「いいか。ガーゴイルはごろごろ転がるがそれがハンターにぶつかって大変危険な魔物なのであって、決して面白おかしいものではない。それからガーゴイルのローストは普通ポーチには入っていない」

「そうなんですか」


 お代わりで空になったスープの鍋を洗ってからしまうかどうか悩んでいたサラは、適当に返事を返した。そもそも魔の山でのネリーの暮らしがどうやら常識外れであるということは、薄々理解はしている。


「お昼はおなか一杯になったから、ガーゴイルは夕ご飯の時に出しましょうか」

「……ぜひ、そうしてくれ」

「了解です」


 食後のお茶を出しているときにギルド長がアッという顔をした。


「そういえば奥さんからさあ、リンゴのパイを持たされてたの忘れてた」

「ジェイ! そんな大事なことを忘れるなんて! お腹いっぱいになっちまったじゃねえか!」


 ヴィンスが怒っている理由を、クリスが冷静に説明してくれた。


「ジェイの奥さんのパイは絶品だからな。今は満腹だから、おやつにいただきたい」

「いいぞー」

「おやつってクリス……。お前その顔で……」


 ヴィンスに突っ込まれているが、クールなイケメンであっても甘いものが好きでもいいのではないかと思うサラである。少年組は少年組で仲良く午後の相談をしている。


「ハルト、午後は一緒に薬草を採るか? 足がガクガクしててもそのくらいはできるだろ」

「ガクガクしてないし。そのくらい平気だし」


 要は、やるということである。足はガクガクしているようだが、目は輝いている。サラは一人頷いた。アレンは薬草採取はあくまで仕事であって心は浮き立たないと言っていたが、薬草採取はうきうきする楽しい仕事なのだ。やってみたらハルトだってその良さがわかるはず。


 サラがアレンをいいなあと思うのは、こういう時、サラを頼らないところだ。薬草のことならサラに聞いたほうが早いのに、自分でできる範囲のことをしようとする。


「私も付き合おう」


 クリスもすっと立ち上がった。残りの三人は寝転がったり後ろに肘をついていたりと大変くつろいでいる。サラは若干冷たい目でそれを見ながら、こう提案した。


「バリアを張ろうか?」

「そうだな。薬草を覚えるまではそれに集中したほうがいいかもしれないな」


 アレンの判断により、サラがバリアを張ることになった。


 四人が十分活動できるくらいの範囲にバリアを広げる。バリアの外側にツノウサギがぶつかっているが、バリアを広めにとっているので全然怖くない。


「はいどうぞー」

「これは」


 アレンとハルトが何の疑いもなくバリアの中で喜々として薬草を探しているのに対し、クリスはバリアの範囲に慎重に入ってきた。もちろん身体強化をしたままだ。


「結界を人為的に作るのか。これは便利なものだ」


 そうつぶやいて、サラのバリアを出入りしてみている。


「盾の魔法を、全方位に、か」

「待った! それなら俺もやる。お前、薬師なのに魔法師なめんなよ」


 ヴィンスが跳ね起きてクリスの隣に立った。


「身体強化だってお手の物だし、クリスは優秀すぎるんだよ。ジェイなんて目じゃないほど優秀なハンターになれるのに、なんで薬師なんてやってるんだか」

「薬師が面白いからに決まっているだろう」

「俺、結構優秀だからね!」


 離れたところからギルド長が叫んでいる。


 クリスが優秀な薬師ギルド長として慕われているというのは知っていたが、そんなに全方位に優秀な人だとは知らなかったサラは驚いた。しかしそんなサラなど気にも留めず、クリスはサラのバリアとその外側のはざまにいて、なおかつ自分の魔力と向き合っているようだ。


「盾の魔法は容易だが、それを敵もいないのに全方位に張るなど、魔力の無駄遣いだ。招かれ人ならではの発想だな。だが面白い」

「わかってんだよ、そんなことはよ」


 どうやらヴィンスともとても仲がいい。そんなクリスにサラが言いたいことはただ一つだ。


「全然薬草採りに付き合ってないんですけど」


 大人ってどうしようもない。

「転生少女はまず一歩からはじめたい」2巻、2月25日発売です!

「転生幼女はあきらめない」は5巻が2月15日発売です。

もう発売されている書店もあるようです。


同月発売記念コラボをやります。バレンタインの時期なので、

「転生幼女」には、サラの「魔の山でハッピーバレンタイン」

「まず一歩」には、リアの「兄さまにハッピーバレンタイン」

と、お互いのssが入ります! 詳しくは活動報告へどうぞ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 違うことをしていても、一緒に居るだけで、付き合ってはいるのです。 ごめん、お付き合いは無理。(……いや、無理かどうかはしらんけど)
[一言] マクロスのピンポイントバリアを思い浮かべてしまいました。
[良い点] 話を聞かないだけじゃないです。 本質はもっと深い。 それらを抽象的な指摘にせず、 具体的な群像として彫り出し 面白おかしい読み物にしてしまう。 技量。
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