ギルドの宿にて
【今までのあらすじ】
魔力を吸うために存在してくれればいいと言われ転生したサラは、ハンターのネリーに拾われ、魔の山でオオカミたちと楽しく暮らしていた。しかし、ある時ネリーがローザの町に行ったまま戻ってこなくなった。サラはなんでも跳ね返すバリアの力を使って無事ローザの町に辿りつくが、そこにはネリーはいなかった。厳しい生活をかいくぐって無事身分証を手に入れたサラは、紆余曲折の末ネリーと再会する。
これは、それからのサラとネリーのお話である。
サラの寝起きはよい。というより、この世界に来てからよくなった。日本にいた時はいつも疲れていて、朝さわやかに起きられることなどめったになかった。寝るのにも体力が必要だということを、丈夫な人は知らないんだろうなと思っていたくらいだ。
「うーん、いい朝」
サラは体を起こすと、改めて部屋を眺めてみた。
白く塗られた壁、簡素だが丈夫なベッドが二つに、書き物机といす二つ。作り付けの丈夫なクローゼット。お風呂にトイレ付きである。そっけないが、これでもギルドが運営する宿では一番いい部屋なのだそうだ。
「うーん」
隣のベッドでは、寝起きのあまりよくないネリーの赤い髪だけが布団からはみ出している。この分ではまだ起きないだろう。サラはベッドから勢いをつけて降りると、窓から外を眺めた。宿はギルドの二階部分にあるので、窓からは第三層の街並みが見えた。
「今日はまず薬草を納めに薬師ギルドに行って、それから町で買い物をする。今日こそ女の子の服を買うんだ」
正直なところ、サラと同じ年頃の少女は町ではほとんど見かけたことがないので、どんな服装をしているのかいまいちわかっていないのだが、少なくともギルドの受付のミーナはシンプルな長めのスカートをはいているし、町の店や屋台のおかみさんたちにもスカートの人が多かったと思う。もちろん、ネリーのようにズボンを履いている人もいた。
「少なくとも、買うお金はある、うん」
サラはちょっと遠い目をした。そもそもサラは魔の山にいた二年の間に、コツコツと薬草を採ってお金を稼いでいたのだ。たまにサラのバリアにぶつかってきたうっかり者の魔物も売ってもらっていたし、ネリーに預けていたお金は相当な額になっていた。
「このお金があればローザの町であんなに苦労しなかったのに……」
「す、すまん。今考えると、売るたびにいちいちサラに渡すか、台所の収納袋に入れておけばよかったんだな。サラがローザの町で一人で暮らすことは全く想定していなかったから」
「ほんとだよ。でも待って。そもそもの原因はテッドじゃなかった?」
ネリーがお金を渡してくれた時のことを思い出すと、力が抜ける思いである。
テッドが意地悪して薬草を買ってくれなかったこと、それからおそらくそれを知っていた薬師ギルドが何もしなかったことを思い出すと本当に腹が立つ。
「でもまあ、もう終わったことだから」
サラは割り切りも早かった。
「今日は服を買って、それからネリーと二人で町をぶらぶらして、もう一泊したら明日は魔の山に帰る」
予定を再確認して着替えたころにやっとネリーも起きてきたので、二人で一階に降りていった。
「ギルドで働いてたけど、二階に宿があるとは知らなかったよ」
「私は泊まったことがあるから知っていた」
おしゃべりしながら食堂に行くと、受付も厨房も、サラが働いていた時間帯とは違う人達が働いていた。朝食を取った後ものんびりとギルドを眺めていると、やがていつものメンバーが次々とやってきて交代した。
「朝の担当、昼の担当って決まってるんだね。すごいなあ」
「朝早くから夜遅くまであいているからな、ギルドは」
普段と違うギルドの姿が垣間見えてわくわくした。ネリーは感心するサラを優しい目で見た。
「さて、そろそろ薬師ギルドもやっているだろう。行くか」
「薬師ギルドは朝早くからはやっていないんだね」
思わず突っ込んでしまったサラだが、やはりというか、働き者という感じはしない。
「いや、正しい働き方なんだよね」
つい嫌な目で見てしまうのはやめようと決意したところで、受付から焦ったような声がかかった。
「おいおい、いたんなら声をかけてくれよ」
ヴィンスである。ギルドに住んでいるのかと思うほどいつでもギルドにいるヴィンスだが、ちゃんと出勤してきているのだと微笑ましく眺めていたのだったが、サラとネリーに気づいていなかったようである。
「そんな義理はない」
きっぱりと言い切るネリーはサラを連れてさっさとギルドから出ようとした。
「待て待て待て。今日はアレだろ、ちびっこ共の訓練に立ち会うって話じゃなかったか」
「そんな話はなかった。サラがダンジョンに入らないのにどうして他のハンターの面倒を見る必要がある。それに今日はサラと買い物をする日にしたしな」
サラがダンジョンに入るならという言い分もたいがいである。サラはアレンの面倒は見てあげてほしいと思わないでもなかったが、アレンもギルド長に見てもらって強くなっているらしいから大丈夫だろう。
サラがネリーを見上げると、ネリーもサラを見下ろしてにっこりした。
「いや、ほら、一日。一日だけだから。何なら俺も行くから。アレンはともかく、あの話の通じない招かれ人は俺の手に余るんだよ」
「私の手にも余る」
「サラ、」
「私もちょっと……」
「そんなこと言わずにさ」
ヴィンスが困っているのは珍しいが、サラもなんとなく招かれ人のハルトは苦手であった。しかし、逃げる前にギルドのドアがバーンと開いた。
「サラ!」
「アレン!」
サラの顔に満面の笑みが浮かんだ。訓練に立ち会うかどうかはともかく、アレンに会えるのはいつでも嬉しい。
「今日は楽しみだな! 俺に体力がついたとこ、サラに見せるのが楽しみだぜ!」
「ええ? 私、ついていかな」
「まあ、ちょっと長い距離歩くことなんて俺にとってはたいしたことないけどね」
当然ハルトも付いてきていた。ハルトもギルド長の家に泊まっているのだろうか。そのギルド長が、アレンとハルトの後からぬっと顔を出した。
「さ、じゃあ今日はどこまで行けるかな。とりあえず一日、行けるところまで行く。で、一泊して、次の日帰ってくるでいいな」
「よくないよね? なんでそんなこと決まってるの?」
思わず突っ込んだサラは悪くないはずだ。
「なあネリー。魔の山はお前が数か月いなくても大丈夫だったんだから、帰るのが数日遅れるくらいいいだろ? ハルトはともかく、アレンにはサラもお世話になってるし」
「まあ、サラが世話になったのはありがたいと思っているが」
しかし、まずネリーが説得されてしまった。
「なあサラ、ダンジョンには入りたくないんだよな。でもさあ、東の草原はダンジョンじゃないだろ? かわいいツノウサギとワタヒツジくらいしかいないしさあ」
「かわいくはないです」
サラはきっぱりと否定した。モフモフしていたらなんでもかわいいわけではないのだ。しかし、アレンに、
「俺、少しは強くなったところ、サラに見ていてほしいんだ」
と悲しそうに言われたら頷くしかない。
「でも! とにかく薬師ギルドに薬草を卸しに行ってからです」
「もちろんだ! 東門への途中だし、ちょうどいいな」
さあ行くぞというギルド長に、服を見に行ってからとはもう言い出せない雰囲気であった。
「戻ってきたら絶対に行こう」
「うん」
ネリーの言葉を支えに、サラは一行に加わるのだった。
不定期の可能もありますが、更新再開です。
そして「転生少女はまず一歩からはじめたい」2巻、2月25日発売です! ほぼ8割書き下ろしで、ウェブにつながるようになっています。面白いですよ!




