一緒に戦ったよね?
「何を言ってるんですか。一緒に渡り竜を狩った仲じゃないですか」
「渡り竜?」
ネリーはハルトをしげしげと眺めた。
「ああ、あの時の招かれ人か」
招かれ人! サラは驚き、同時に納得した。リア充とか、この世界の言葉じゃないと思ったもの。
「魔法一つで渡り竜のとどめをさせる俺を忘れてたなんて、そんなことないですよね」
「忘れてたというか、別にどうでもいいというか」
ネリーがボソッとつぶやいた言葉は、聞こえなかったのか無視したのか瞬殺されていた。渡り竜にとどめを刺すというところでギルドがざわついたが、ワイバーンと渡り竜はどう違うのだろうとサラはそちらのほうが気になった。
ハルトは続けた。
「姉さんが渡り竜の季節が終わる前に王都から帰ったから、討伐部隊は大騒ぎでしたよ。もっとも、俺たちがいたから特にどうということもなかったですけどね」
「そうか。ご苦労だったな」
こんな気のないいたわりの言葉があるだろうか。思わず苦笑しそうになったサラだったが、それよりも、ハルトの言った「姉さん」が、本当の姉に対する呼びかけではなく、年上の知り合いに対する呼びかけだったということにほっとしたのだった。
だが、結局アレンとは全く話ができていない。
「ネリー。私、アレンともう少し話をしていきたいんだけど」
「そうか」
ネリーは優しい顔でサラを見ると、かまわないというように両手を広げて見せた。
「アレン?」
「うん。ギルドの食堂を使わせてもらおうぜ」
目的であるギルドへお土産を渡すというミッションは済んだので、サラはアレンと連れ立って食堂の端っこの席に座った。
「元気にしてた?」
「ああ。最初の頃は、ギルド長と一緒にダンジョンに行かせてもらってたんだ」
キラキラと目を輝かせるアレンを見ると、サラには今一つその力がわからないギルド長が、アレンの憧れの人なんだとわかる。
「じゃあ、ハンターの狩りの仕方とか教わったの?」
基礎からやり直しだとか言われて、徹底的にしごかれたのではないか。
「いや、それが」
アレンが見せたのは苦笑だった。
「ハンターに必要なのは、まず体力だって言われてさ。身体強化をかけながら、とにかくダンジョンを駆け回らされた。ギルド長なんて息も切らさないんだぜ」
「アレン、同世代では体力あるほうなのに」
「うん。けど、魔の山に休まず一日で行けるかって言われたらさ、確かにそれは無理だから」
「そりゃ無理でしょ」
サラはあきれた。身体強化特化のネリーだからできることなのだから。
「じゃあサラ、今回は何日で来れたんだよ」
「ええと」
サラはちょっと目をそらせた。
前は五日かかっていたことをアレンは知っている。
正直に二日って言ったら、アレンはショックを受けるだろうか。でもごまかしても仕方がないし。
「ええと。二日」
「二日? 前は五日って言ってなかったか?」
やっぱり覚えていた。
「うん。ほら、ネリーが訓練すれば早くローザの町に着けるようになるって言うからさ」
「くっそー。やっぱり俺、全然追いつけてないじゃないか」
アレンは悔しそうに天を仰いだ。
「言い訳するわけじゃないけど、途中からハルトと一緒に組まされて、訓練できてないから」
「言い訳だな、少年」
四人掛けの席に向かい合っていたサラとアレンの間に挟まるように、ネリーが腰かけた。
片方の口の端が上がっていて、なんだか楽しそうだ。
「ネリー。いや、ネフェルタリ、さん」
サラがネリーと言っていたから、アレンの中ではネフェルタリではなくネリーになっているようで、慌てて訂正している。
「ネリーでいい」
ネリーはさっと手を振ってそんなアレンの迷いを振り払った。
「身体強化型のハンターは、魔法師と組むこともよくある。魔法師は癖の多い奴が多いが、そいつらとも連携して成果をあげなければならないことも多いからな」
「いやだなあ。確かに俺は魔法師だけど、まるで俺が癖が強いみたいな言い方しなくても。俺と一緒だと獲物がよく獲れるって、王都では組みたい奴ばかりだったって言うのに」
座っていいとも言っていないのに、ネリーの向かい側の席にハルトが座った。
「なに、お世辞だろう」
ネリーはにべもない。
「ところで、ネリー姉さん」
「ネリーと呼んでいいとは言ってない」
姉さんと呼んでもいいとも言っていないよねとサラは心の中で付け足した。
しかし、ハルトは引かなかった。
「いつ魔の山に戻るんです?」
ネリーはここで初めて胡散臭そうな顔でハルトを見た。
「それを聞いてどうする」
「やだなあ。俺も行きます」
サラとアレンは驚いて黙り込み、ネリーは自分のこめかみに手を当てた。そして叫んだ。
「ヴィンス!」
「俺かよ。ジェイにしろよ」
ギルド長に押し付けようとしたものの、結局は面倒くさそうにやってきたのはヴィンスだった。
「ハルト、お前王都に帰れ。面倒なんだよ」
その直接的な言い方に、サラは思わずクスッとしてしまった。
「いやだ。魔の山に行くんだ。王都は面白くない」
ハルトはぷいっと横を向いた。
「何度も言っただろう。魔の山は、招かれ人とはいえ一四かそこらの子どもが遊びに行く所じゃねえ。せめて魔の山まで三日で行ける保護者を連れてこい」
「俺についてこられる大人なんてほとんどいない」
つまりは、ぼっちということか。サラの視線に気づいたのか、ハルトは少し慌てたようだ。
「違うからな! ぼっちとかじゃないぞ」
「ぼっち?」
アレンが首を傾げたが、ハルトはそれどころではなさそうだ。
「ほんとはブラッドリーも来るはずだったんだけど、指名依頼が入って、それで。気の毒そうな顔をするな!」
別にしてないし。サラもふいと横を向いた。
だいたい、なんで魔の山に来たいのかわからないし。
ふと視線を感じると、ネリーがサラのほうを見ていた。
「どうしたの?」
「うん。サラ」
ネリーは何かを考える顔をしている。
「山小屋の部屋は余ってた気がするが」
「気がするじゃなくて、余ってるよ。まったく、ネリーは自分の部屋と居間以外興味ないんだから」
サラはちょっとあきれてしまった。
「何人なら滞在できる?」
サラは頭に山小屋を思い浮かべた。
「すぐ使える客室は一つだけで、掃除をすれば使える部屋がもう一つ。あと、どうしてもっていう場合は屋根裏部屋があるかなあ。ただし寝具の用意はなかったような気がする」
「ふむ、さすがだな」
つまり、すぐ滞在できるのは二人。準備をすれば五、六人というところである。
「ヴィンス」
「なんだ。ネフェルタリ」
「魔の山の小屋は私のものではない。私も仮に滞在しているだけだ。よって、魔の山に来ようというものを私が断る権利はない」
「なら!」
ハルトが椅子をガタッとさせて立ち上がった。
しかしネリーは涼しい顔でこう言い出した。
「ただし、サラより移動が遅い奴が魔の山に来るなんて、ちゃんちゃらおかしいとは思うぞ」
何を言うのだ。サラは焦って目が泳いでしまった。だって、全員の注目がサラに集まってしまったではないか。
今週、9月25日、「転生少女はまず一歩からはじめたい」が発売されますが、なんと!
「転生幼女」とコラボします!
「転生少女」を買うと「転生幼女」のssが入っているというコラボです。
といっても、「転生少女」の世界にほんのちょっとお邪魔する「転生幼女」のかわいくて短いssが入っている、というものです。
「転生少女」の書籍のほうも、ニコとリアのように、アレンとサラが二人で乗り切る試練が新しく入ってます。面白いですので、ぜひどうぞ!