誰だお前
「アレン!」
「サラ! 元気そうだな!」
アレンはサラが元気だったかと聞こうとしていたようだが、サラの笑顔を見てまずほっとしたような顔をした。
「アレンも。なんていうか」
サラはアレンを上から下まで眺めた。なんだか小奇麗になったような気がする。
アレンはちょっと困ったような顔をして頭をかいた。
「今、俺さ、ギルド長の家に下宿してて」
「もう野宿じゃないんだね」
「うん。俺は野宿でもよかったんだけど。いくら自分が強いからといって、寝てる時までは身体強化したままではいられないだろうってギルド長が言うからさ」
「よかったねえ」
何が変わったのかといえば、衣類がきれいに洗濯されて、髪の毛が整えられているのだ。きっと、そういうところに気を使ってくれる人がいるのに違いない。
久しぶりの再会に二人がニコニコと顔を見合わせていると、アレンの後ろのほうから収納ポーチを開けて閉めるような、ガチャガチャという音がした。
アレンははっと何かに気が付いたような顔をすると、後ろを振り向き、一歩横にずれた。気が付かなかったが、そこには人がいたようだ。
「こいつ、今俺とパーティを組んでいる奴なんだ」
「まあ、頼まれて仕方なく」
右腰に手を当てた体はこちらを向いているのに、顔は微妙に横を向いていて目が合わない。黒髪だということはわかるのだが、前髪が長くて目の色まではわからなかった。
アレンと同じか、少し年上かという年頃の少年だった。
同じ年頃の子どもはほとんど見たことがなかったので、サラはちょっと嬉しいような気がしたが、あまり良い態度ではない。
「こっちだって仕方なくなんだから、お互い様だぞ」
アレンがあきれたようにそう言うと、こういう奴だというようにサラに眉をあげて見せた。
まあ、向こうがなんとなく失礼だからといって、サラが失礼にするわけにもいかない。サラは丁寧に挨拶した。
「はじめまして。アレンの友達のサラです」
「ああ。俺はハルト」
その少年は一応そう名乗ると、長い前髪の下からサラをちらりと見た。
「庶民か」
「ん?」
今、サラのことを見て庶民だと言ったか?
サラは自分の格好を見直した。
こないだネリーと会った嬉しさで、うっかり服を買うのを忘れていたので、いつものように大人用のチュニックを着ている。もちろん、清潔である。
そして庶民である。
サラはハルトと名乗った少年を上から下まで眺めた。
仕立てのよさそうな上下に、なんだかわからないポケットがたくさんついている長めの上着。
ベルトの左には真っ黒な短剣が差してあり、腰のベルトの他にもレッグポーチがついている。ポーチはどれも収納ポーチだろう。確かに、金持ちっぽくはある。
サラはもう一度自分を見直した。ハルトという少年に比べたら、普通としか言いようがない。
「しょみん……」
「お前! ほんっとに失礼な奴だな! それが初対面の女子に言うことか!」
アレンがハルトの肩をバンと叩いた。
「はあ? だって庶民は庶民だろ。それに、え?」
今度はハルトという少年とはっきりと目が合った。
「女子?」
「あちゃあ」
後の言葉は受付から聞こえてきた。
この世界に来てからも、貴族だとか庶民だとかほとんど考えたことのなかったサラにとって、自分は何かといえば、日本にいた時のまま、庶民である。それは特にお金持ちでも政治家でもないという程度の意味で、したがって、庶民と言われても別に悪口とは感じない。
格好で言えば、男の子みたいな格好をしているから、男の子と思われてて仕方ないかなあと思っている。
だから別に友達でも何でもないハルトに対して思ったのは、空気の読めない奴だなということくらいだった。
しかし、アレンは違った。
「何でお前はそう人の気持ちがわかんないんだよ! いちいち気に障ることばかり言ってさ」
「ってことはさ」
「ほら、俺の話を全く聞いてない!」
「アレン、お前」
確かに全く話がかみ合っていない。
「リア充なのか?」
「はあ?」
アレンがぽかんと口を開けた。
「この町には同年代のハンターがいないからってお前と組まされたけど、女子の友達がいるとかそれ、ちょっと違くないか」
「何言ってんだお前。サラはハンターじゃないし、女子だろうが男子だろうが友達がいて何が問題だ」
「かー、これだからリア充は! 無自覚かよ!」
なんだこの拗らせ男子は。サラはあっけにとられた。
そしてサラを置き去りにして進められる展開にちょっとついて行ける気がしなかった。
「サラ!」
「ネリー」
この時、ネリーがギルドの裏から出てきて、サラはほっとした。アレンに会えたのは嬉しいけど、アレンとろくに話せてもいないし、変な少年はいるしでちょっと気持ちが疲れていたのだ。
サラはとりあえずネリーのところに行こうとした。しかし、そのサラの前を少年が走っていった。
「ああ! ネフェルタリ姉さん!」
「「「姉さん?」」」
あっちこっちから同じ声が上がった。
サラはあっけにとられて立ちすくんだ。ネリーからは、ネリーの実家が貴族でお兄さんが二人いることは聞いているが、弟がいるとは聞いていない。
「ネフェルタリ姉さんに会うためにローザに来たのに、ギルドの人たちが魔の山に行く許可は出せないって言うから、ずっとここで待ってたんだ」
なんだ、そういう事情か。
などと納得できるわけがなかった。
しかし、サラには見せなかった笑顔でネリーを見上げるハルトという少年に、ネリーは表情を動かさなかった。
少しの間少年を眺めると、ネリーはおもむろに口を開いた。
「誰だ、お前」
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