ネリーを守るのは私
早速次の日には、サラはネリーと一緒に魔の山に帰ることになった。さすがにこれ以上魔の山をそのままにしておくのは不安が残るとギルド長が言ったからだ。
「サラ、気を付けるんだぞ」
アレンも見送りに出てくれた。ちなみに、昨日の夜は、ネリーとアレンと三人で町の外で寝た。
自分も一緒にと言ったクリスをネリーが一蹴していて面白かったのは秘密である。
「大丈夫だよ。私のバリアはワイバーンも弾くから」
「おいおい。ほんとに最初から言っといてくれよ」
やっぱり見送りに出ていたギルド長がやれやれと肩をすくめた。
「いつでも厨房で雇う。給料は上げる」
「売店もフルタイムで雇うわよ」
「マイズ、ミーナ、お世話になりました」
マイズもミーナも見送りに出てきてくれた。
「薬師ギルドはいつでも待っている」
「それはいらないです」
薬師ギルドの面々も見送りに来てくれた。
「じゃあ、サラ、行くぞ」
「うん」
「皆、世話になった」
ネリーはそう言って頭を下げると、さっと中央門に向かった。サラが隣を歩く。それは、いつもそうしていたんだろうなと思う自然なものだった。しかし、そのネリーの足が突然止まった。
「ちっ。しつこい奴らめ」
ネリーの視線の先を見ると、いつか見たことのある騎士服の人たちがいた。もっとも、騎士たちに知っている人はいない。前来た人たちとは別の人のようだ。
「ネフェルタリ。王都から戻っていいと許可は出ていない。直ちに戻るように」
「渡り竜はもうほとんどいないはずだ。私一人いなくても何とかなるだろう。私に騎士隊一〇人差し向けるくらいなら、それを渡り竜退治に向ければいいだけのことだ」
見送っていた面々が慌てて追いかけてきたとき、そんなやり取りが聞こえた。
「正論だな」
ヴィンスがうなずいている。
「依頼はまだ完遂されていない」
「そもそも私は受けていない。善意で協力していただけだ」
「ならば連れていくまで」
その人が合図すると、中の一人が懐から小さい瓶を取り出した。
「また麻痺薬か。今度はどうやって飲ませる」
ネリーがせせら笑った。
「招かれ人から知恵を授かってきた。こうだ!」
瓶はネリーのほうに向かって高く投げられ、魔法師と思われる一人がそれに向けて石礫のようなものを飛ばした。
それは瓶に当たり、もう一人が唱えた風の魔法で霧状になった麻痺薬がネリーに降り注ぐ。
「飲まなくても霧状にして吸い込めば、効果はあるとな。ハハハ」
高笑いしていると騎士ではなく、悪役のように見える。サラはあきれた。
「馬鹿な! 少女が一緒だぞ!」
後ろからクリスの叫び声がする。
ネリーは一歩も動かず、一言こう言った。
「サラ」
「うん。バリア!」
その瞬間、ネリーだけでなく、町の人を守るようにサラのバリアが展開された。
霧となった麻痺薬はそのまま投げた騎士隊のほうに跳ね返った。
「うっ。なんだ。霧が戻ってきた? 馬鹿な……」
素早くよけた何人かの他は、麻痺薬を吸った騎士隊は動けなくなった。
「今、招かれ人って言った?」
騎士隊に、サラの声がかかった。
「なんだ、お前」
「招かれ人と聞こえた気がして」
「そ、そうだ。人に効率的に効かせるには、そうすればいいと」
「そう。最低」
そういえば招かれ人は結構いるとネリーが言っていた。だけど、その人達が結果的にネリーを害そうとするなら、それはサラの敵である。
「霧を跳ね返したのはお前か。どんな技をつかった」
「教える義理はないでしょう。さ、ネリー、帰ろう」
「そうだな、サラ」
ネリーは満足そうにうなずくと、サラと並んで、まるで騎士隊などいないかのように歩き去ろうとした。
「待て!」
思わず二人に剣を向けた騎士は、近くに寄る間もなく強い力で跳ね飛ばされた。
「な、なんだ?」
「いい?」
しりもちをついて呆然としている騎士に、少女の声が聞こえた。
「ネリーに向けたどんな攻撃だって、私が許さないんだから」
そう言われてネフェルタリを見ると、さっきから指先一つも動かしていない。ということは、騎士の受けた攻撃はつまり、少女からということになる。
「私のバリアは、どんな攻撃も魔法も跳ね返す。そして、効力が切れることは一切ない」
「ばかな。どんな魔法師だって、魔力がそれほどもつわけがない。ま、まさか」
「魔力が途切れることなんてないよ。だって私」
サラは騎士たちをにらみつけた。
「招かれ人なんだから」
そう言い残すと、手も足も出ない騎士たちを残して、ネリーとサラはさっさと城門を出ていった。
「サラ、かっこいいな。俺もがんばろう」
アレンがキラキラした目で見送る横で、
「それ、言っといてくれよ。最初からさあ。めちゃくちゃ重要じゃん」
ギルド長は肩を落とした。
騎士隊はすごすごと王都に戻るしかなかった。
「授かった知恵は、結局防がれまして」
「バリアって言ったの、その子」
「は、はい」
「だっさ。何歳で転生したんだよ。そう、招かれ人なのに、ただハンターのそばでぬくぬく暮らしてるだけなんだ、へえ」
「いえ、住んでいるところがダンジョンで、その」
「もういいよ」
まだ少年の年のその子に言われて、報告に来た騎士は引っ込んだ。
「何のために転生したんだよ、無限の魔力を自由に使うためだろ。スローライフとか、ないだろ」
「何しようが、自由なんだろ、招かれ人はさ」
少年に話しかけたのはもう少し年上の少年だ。どうやら仲間らしい。
「気に入らないね。ちょっと見に行ってみようか。ローザとやらにさ」
王都には飽きたところだったのだとその少年は笑った。
さて、サラはネリーとぬくぬく暮らすことができるのだろうか。
「ネリー! 行ってらっしゃい」
「行ってくる」
「ガウ」
「オオカミは、いらない」
続きはまた今度。
第一部 終わり
これにて第一部、おしまいです。
どんな力があっても、普通に暮らしていたら、日常に埋没してしまう。ちょっとおかしいなと思っても、みんなたいして興味がないので深く考えない。そこから生じるすれ違いを書いてみたかったんです。
とても楽しかったです。
一か月ちょっと、お付き合いありがとうございました。
※書籍化決定しました!
「転生幼女」
「異世界でのんびり癒し手はじめます」
この二つの連載に戻りますが、また時間ができたら、第二部をまとめてお届けできるといいなと思います。気長にお待ちいただけると幸いです!
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