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少女の行方

 次の日、いつものようにサラは薬草を採り、ギルドに出勤した。これまたいつものようにテッドがやってきて薬草を引き取り、食堂の仕事を終えて、サラが店番をしているところに、ギルドのドアがバタンと開いて、疲れ果てた様子のハンターが何人か入ってきた。


「いや、あれはギルド長に、クリスとかいう人。騎士服の人が一人に、ハンターたち」


 ということは、北ダンジョンに行ったとかいう一行が帰ってきたのだろう。


 ヴィンスが受付からガタンと立ち上がった。


「ギルド長! 例の少女は!」


 ギルド長は力なく首を振り、クリスという人は暗い顔でうつむいている。


「そうか……。まあ、とりあえず奥で休んでくれ」

「そこ、そもそも俺の部屋だから」


 ヴィンスが声をかけると、力なくギルド長が言葉を返す。それがいつものことらしく、ギルド内にはほっとしたような空気も流れた。


 サラは後ろを振り返り、売店の棚を確認した。


 サラが薬草を納めているせいか、ポーション類は補充されている。あの人たちが使うにしても十分だろう。


 なにがあったのか野次馬的興味はあるが、クリスという人がその中にいるというだけで、かかわりたくないという思いがする。


 サラは時間になるとモッズおじさんと交代して、さっさとギルドを退出したのだった。




「はい、おまちどおさま」


 マイズが給仕と一緒にギルド長室に温かい食事と飲み物を届けに行くと、そこはお通夜のように静まり返っていた。


 北ダンジョンに少女を迎えに行ったはずの、この面々がこれほど落ちこんでいるということは、まあそういうことなのだろうとマイズは思う。


 世知辛い中、必死に食らいついて生きているサラやアレンと同世代の少女だ。それを思うとかわいそうな気はしたが、ハンターを引退して料理人をやっているマイズといえど、身の回りの人の幸せを見守ることで精いっぱいだ。同情も対策も、係りの者に任せるしかない。しかし、


「だが、話を聞く限りでは、その拾い子が魔物にやられたという明確な証拠はないわけだろ」


 というヴィンスの言葉に、飲み物を並べている手が思わず止まった。


「現に姿がない。ドアに鍵もかかっておらず、収納袋には何か月分も食料が残されていた」


 クリスの言葉には力がない。


「食べ物が残されて、鍵がかかっていなかったということは、ちょっと出かけて帰ってくるつもりだったということだろう。部屋はきれいに整えられていて、ネフ以外に人がいたということはそれで確かだとわかる。しかし、家具やテーブルはうっすらとほこりをかぶっているうえ部屋は冷え切っていた」


 人がいたとしても何日も前だろうというのだ。


「しかも山小屋の周りには高山オオカミが絶え間なくうろついていて、我らがいても小屋から遠くには逃げようともしない。それこそ、北ダンジョンの入口で逃げ帰った騎士程度では小屋から一歩も出られないだろうな」

「逃げ帰ったのではない。クリス、あなたが帰らせたのではないか」

「帰さねば麻痺では済まなかったのは明らかだろう」


 クリスと騎士隊の若い隊長がにらみ合っているが、隊長の腰が引けている。


 マイズはため息をついた。


 この場にいる面々は、マイズも含めて全員魔力量が多い。ただし、ある程度熟練すれば、自分から発する魔力量を多少は調整することができる。特にクリスはそれがうまく、普段はほとんど魔力量の多さに気づかれないほどに圧を感じない。


 だから慕われてもいるのだが、今は疲れのせいか怒りのせいかそれが全開で、この中では比較的魔力量の少ない隊長はかなり圧に押されているようだ。


「クリス、抑えろよ」


 机の自分の椅子に座っていたギルド長に言われてクリスがはっとして圧を抑えた。


 途端に部屋の空気が楽になる。


 騎士隊の隊長がほっと息をつき、クリスはそっぽを向いている。


「まあ、ネフェルタリの帰りを待って外に出たところ、うっかり結界の外に踏み出しちまったってところだろうなあ」

「ネフになんと言ったらいいのか……」


 クリスは両手で顔を覆った。


「そこまでは俺たちの責任じゃねえ。クリスはそもそもネフェルタリの体調が心配で、善意で王都に付き添っただけだろう。俺たちは正直騎士隊の実力が不安で、これも善意で北ダンジョンまで付き合っただけ。報告は、そこの騎士隊の隊長さんがするべきこと。ネフェルタリへの説明は、王都側がするべきこと。それだけだ」


 隊長の顔が引きつったが、ギルド長の言ったことは正しい。マイズは給仕と顔を見合わせてうなずくと、静かにギルド長の部屋から出た。


「かわいそうなこったな」

「サラとおんなじくらいの少女ですかねえ。聞きたくなかったな」


 料理を運んだだけなのに、気の重い話を聞いてしまった厨房の二人だった。


「それにしても、昨日騎士さんたちが言ってたが、確かにこんだけ魔力持ちが集まってても、ギルドの空気、さわやかじゃないっすか」

「そういえばそんな気もするな。まあ、俺たちは仕事をするだけだがな。さ、夕飯までもうひと頑張りだ!」



 次の日、サラがギルドにやってくると、もう騎士隊は王都に出発した後で、ギルドには何となく気の抜けた雰囲気が漂っていた。


 ちょっと残念なような気もしたが、とにかく、一度は間近で騎士を見たので、サラは結構満足だった。そんな刺激的な日々よりなにより、サラはネリーが戻ってきて、また山で平凡な暮らしをしたかった。


 高山オオカミの声ですら懐かしいような気がする。


「ネリー」


 一年。一年待って戻って来なかったら、今度は王都にネリーを探しに行こう。それでもだめだったら?


「国中を探して歩こう。ネリーがどうなったかわかるまで」


 頑張ってお金を稼ごう。そのためなら、薬師ギルドに薬草だって売る。今以上に売る。そのほうがお金を貯めるのが早くなる。


「待ってて。きっと探すから」


 サラはギルドの片隅でひそかに決意を固めた。


今日、転生幼女3巻発売日です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まあ、忙しそうだし、日本人なら話しかけないね。 とりあえず王都はいつ滅ぶのかな。 [気になる点] テッドは絶対に報告しないはず! [一言] アレン「俺も王都について行ってやるぜ!」 「よ…
[一言] 互いに本名聞いておけば済んだ話。報連相は大事だよ
[一言] いくらクリスに不信感持っててもクリスはネリーへの今のところ唯一な手掛かりな訳なんだが…。 ていうかさ?い、つ、ま、で、こ、れ、つ、づ、く、の? はよ勘違い終われ
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