サラとギルド
次の日、一人で薬草と上薬草、魔力草をきっちり採取したサラは、それでもいつもの時間にギルドに向かった。人に教えながらでなければ採取も手早いものである。
「あれ、今日はいつもより人が少ないな」
ギルドは何となく閑散としていて、受付の人たちも心なしかぼんやりしている。
「おはようございます」
「よう、サラ」
「サラ! ギルド登録おめでとう! 昨日言えなかったから」
ヴィンスは気の抜けた挨拶だったが、ミーナからは暖かいお祝いの言葉をもらえた。
「今日、なんだか人が少なくないですか?」
「そうなの。クリスとギルド長が騎士隊を連れて北ダンジョンに向かったんだけど、厄介ごとに巻き込まれたくないからって、ハンターたちが出発を避けて早い時間にダンジョンに入っちゃって」
それでいつも以上に人がいないのだとニーナは言った。あんなに会わなければと思っていたクリスという人は、昨日の出会いでサラの中ではどうでもいい人になってしまっていたので、出かけたと聞いても、ふうんと思っただけだった。
その時、食堂からマイズが顔をのぞかせた。話を聞いていたらしい。
「それでも、夕飯時にはいつも通りハンターどもも戻ってくるからな。今日も芋剥き頼むぞ!」
「はい!」
「よし、ベルトを締めろ!」
今日も仕事がありそうだ。
お昼前、テッドが恐る恐る薬草を引き取りに来たりして、薬草だけで一万ギル稼いだサラである。今日は特に残業はなかったので、そのまま売店の仕事をし、夕方から増えてきたハンターにポーションと弁当を売る。初日から少しずつ、お弁当の出る量が増えてきているのは、
「もう温めなしの弁当は食いたくない。なんでお前、この時間しかいないんだよ」
という理由らしい。最初から温めて入れておいてもよいのだが、それを値段別に売り分けて、サラの取り分を取っておいてくれるなどということは、モッズおじさんにはとても頼めない。結果、温かいお弁当が欲しい人はサラのいる時間に来るしかないということになる。
身分証を手に入れても仕事の内容は変わらなかったが、安定して薬草を買ってもらえるとすれば、毎日一万五千ギルは手に入りそうだ。ネリーが帰ってくる頃には、暮らしていけるだけでなく、貯金もできているだろう。
時間になってモッズと交代しようとしていたら、ミーナが話しかけてきた。
「サラは下っ端のハンターよりはよほど稼いでるかもね。もっとも、ローザには下っ端のハンターなんていないんだけどね」
「そうなんですか」
「初心者はここから南にずっと下ったほうで修行するのよ。初心者用のダンジョンならそれこそ一二歳でもへっちゃらよ」
一二歳がどうであったらへっちゃらなのか今一つわからないサラだった。が、神妙に頷いておく。
「サラはハンター希望じゃないからなー」
ヴィンスが横から口を挟んだ。
「あら。そうなの? てっきりアレンと組むのかと」
「ハンターにはならないんです。ネリーが来るまで、待ってるだけだから」
「そうなの」
ハンターギルドの受付は、サラが来た初日のことをみんな覚えていた。そもそもまだほんの数日しかたっていない。
ローザの町は、大人の女性が働くとしたら、ハンターとしてダンジョンに潜るか、歓楽街で働くか、食堂などで給仕をするかしかない。ギルドで見かけない以上、ネリーというまだ二〇代の女性は、おそらく稼げなくて王都まで南下したのではないかというのがギルドのみんなの見方だ。そして王都暮らしを体験したら、普通の人はローザに戻ってこようとは思わないだろう。
むしろ、サラが野宿しながら一人暮らし出来ているのがおかしいのだ。
最初に仕事を紹介したのは、ギルドの労働分でちょうど一日の宿代と食事代になるから、お金を貯められなくても、少なくとも生き延びることはできるだろうというギルド側の配慮だった。
ちなみにアレンには少々のことではやられない力を持っているから、野宿を前提に、宿泊代を考慮しない仕事を紹介してある。
静かで黙々と働くサラは食堂では欠かせない戦力になっていたし、売店など初日から何も困らず任せられた。ここ二日くらいはサラの温め目当てでギルドに来る時間をずらすハンターさえ出てきたくらいだ。
だからギルドとしてはいつまで働いていてくれてもかまわない。
かまわないのだが、おそらく戻ってはこないだろうネリーという人のことを一心に待つサラに、皆同情を寄せていた。
慎重そうなサラが、アレンと組んでダンジョンに潜ってくれたら安心なのにとも思っていた。
ローザの町からハンターを始める少年はまずいない。ローザの町で一人で暮らそうとする少年もだ。なんとか無事に生活させようと、ギルドの面々それぞれがいろいろ考えて動いていたのだった。
アレンに続いてサラも身分証を取り、一人用のテントを手に入れた頃には、サラのギルド勤めもすっかり板についていた。
そんなある日、サラがモッズおじさんと売店の売り子を交代しようとしていたら、外が騒がしくなったと共に、ギルドの扉が乱暴にバタンと開かれた。
「薬師ギルドの人たちを! 仲間がやられた!」
飛び込んできたのは一〇人ほどのハンターの人たちだ。
いや、ハンターなら防具はばらばらだが、この人たちはみなおそろいの防具を身に着けている。汗で髪が張り付き、疲れた顔をしているが、心なしかイケメンのような気がする。
「これが騎士隊の人たち」
サラは目を丸くしてその人たちを眺めた。
服が破れていたり、血がついていたりするところはあるが、お互い支えあって立っている人たちはとりあえず皆自分の足で立っており、今にもどうにかなりそうな人は一人もいない。
薬師ギルドの人たちを呼ぶということは、回復しきっていないということなのだろう。
サラは売店の在庫を眺めた。サラが毎日上薬草を納めているからか、数は少ないが上級ポーションは毎日納められている。
ヴィンスが薬師ギルドに人を呼びにやり、ばたばたと指示を出している間にも、騎士たちは疲れて今にも倒れそうだ。
サラはまだ混んでいない食堂を眺め、椅子の数を確認すると、ヴィンスのほうにぱたぱたと走っていった。
「ヴィンス」
「なんだサラ。今忙しいんだが」
ヴィンスはちらりとサラを見ると、面倒くさそうに騎士たちのほうに顔を向けた。サラは小さい声でヴィンスに話しかけた。
「売店には上級ポーションが七つ。ポーションが三〇ほど残ってます。それから食堂の椅子が空いているから、とりあえず食堂の椅子に座らせたらどうですか」
「上級があるのは助かるが、薬師を呼んだということは、単純にポーションを飲ませるだけではすまねえってこった。北ダンジョンからここまで帰ってくるだけの力は残ってたんだ。あと10分くらい待てんだろ。だが、確かに椅子に移動させたほうがいいな。じゃまくせえ」
疲れ果ててけがをしているかもしれないのに、結構な言い草である。
「そもそも、同行したクリスとギルド長はどうした。騎士隊だけ帰ってくるとはどういうこった」
なにやら事情がありそうな様子だったが、サラは手伝うことも特になさそうだったので、比較的元気そうな人を食堂の椅子に導いて、さっさと帰ったのだった。
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