魔の山の管理人
「ていうか、テッドの新婚旅行が終わるまではローザにいるんだけどな」
「クンツ、かっこつかなかったな」
「それが俺さ」
次の日、ローザの町に入りながら、クンツとアレンが笑っている。
にぎやかな街を眺めながら、ハンターギルドに入ると、ヴィンスが満面の笑顔で迎えてくれた。
「一ヶ月半、助かったぜ! それと、ハンターどもの面倒を見てくれてありがとな」
「次の管理人は決まりましたか?」
「それがなー」
ヴィンスの笑顔が消えてしまった。
「サラがいてくれたら何度でも行くって言われたんだけどな。それじゃあ、サラがずっと管理人ってことになるだろうが」
サラは苦笑するしかない。
アレンとクンツがドサドサと目の前に収納袋を積む様子に目を丸くするヴィンスの前に、サラは身を乗り出した。
「さっそくなんですが。魔の山の管理について、提案があります」
「では、ギルド長室へどうぞ」
ニコニコしたミーナがすかさず裏へと案内してくれる。
「お前たちにとっては、魔の山の管理なんて屁でもねえのな」
「ギルド長、口が悪いですよ」
元気に帰ってきたサラたちの姿を見たからか、ギルド長の軽口も絶好調だ。
「で、提案ってなんだ?」
ヴィンスがソファから身を乗り出し、ミーナがメモを取る構えだ。
「まず、収納袋を用意して、管理人パックを作ってはどうでしょうか」
「管理人パック?」
ギルドの人たちが首をひねるのも当然である。
「ハンターの人たちは、狩りにばかりに目が行って、自分の生活がちゃんとしていない人が多い気がします。だから、収納袋に、例えば一週間分のバランスの取れた食事、着替え、タオルにシーツなどをあらかじめ用意して、それをどう使うか最初に説明を入れておくんです。最後はごみも全部収納袋に入れておしまいです」
「でもよー、バランスのとれた食事って、誰が考えるんだよ」
「奥様にお願いしたらどうですか?」
別に奥様じゃなくてもいいのだが。
「一週間分、どの店から何を買うか、リストにしてあらかじめ決めておけばいいんです。管理人が短期で魔の山に行くと決まれば、リストに沿って収納袋を用意し、順番に食事をし、最後にシーツを取り換えて戻ってくるように説明する」
「決まっちまえば楽か?」
ヴィンスが本気で考え始めた。これはいいしるしだ。
「一週間分でも、二週間分でもいいです。その人がどのくらいの頻度で、魔物を売りに来るかによると思うんですが、納品に来たら、収納袋を交換してやれば、また一週間なり二週間なり持つでしょうし、次の人も管理小屋を気持ちよく使えるでしょうし」
サラはひょいと肩をすくめた。
「魔の山に常駐の世話人なんて、絶対に無理ですから。私だって、そんなことするなら、薬草を採取してたいですもん」
ここでちゃんと言わないと、サラが面倒を見る羽目になる。それはごめんだ。
「それから、俺からも提案があるんですけど」
「アレンもか」
アレンからの提案は珍しい。
「もういくつか、管理小屋を建てませんか」
「確かになあ。管理小屋の定員六人って、微妙なんだよなあ」
ヴィンスは時々は管理小屋に行っているから、実態をよく知っている。
「魔の山のふもとに、ネリーとクリスが家を建てるって話は聞いてますか」
「おう、それだよ! いきなりそんな話になって、俺たちもびっくりだよ」
どうやらハンターギルドにも話は通っているようだ。
「クリスが、私設の薬師ギルドを作ろうとしていることは?」
「それは知らなかった。研究所か?」
ギルド長が首をひねっているところに、アレンがこう提案した。
「その隅に、ハンターギルドの出張所を置かせてもらったらいいんじゃないかな。なんなら、別に建物を作ってもいいと思う」
「出張所か。それだと、東の草原や魔の山の裾の方で狩りをする奴も増えるかもしれないな」
なかなか食いつきがいい。
「ネリーとクリスのおかげでふもとに拠点が一つできるかもしれない。それなら、そこから管理小屋までの間に、あと二つ管理小屋を作ったら、一気に管理小屋まで昇らなくても済むようになる」
「その距離なら、身体強化がそれほど得意じゃなくても、移動できる、か」
「でも、そもそも管理小屋を建てる職人はどうするの? ネリーとクリスの家だって、街道が通ったから実現しそうだって言うのに」
ミーナが悩ましそうにメモを抱きしめた。
それにはサラが手を上げた。
「計画を立ててくれさえすれば、私がバリアで連れていきますよ。もちろん、指名依頼してくださいね」
無償でやるほどお人よしではない。だが、魔の山への行き来が楽になることは、サラにとってもメリットがあるから、頼まれればやるつもりだ。
それに、魔法のあるこの世界では、道路を整備するのも、家を建てるのもとても速い。
サラが拘束される時間もそれほど長くないだろう。
「なあ、サラ。お前、招かれ人としての力を、できるだけ隠しておきたいんじゃなかったのか」
問いかけてくるヴィンスの目には、心配が見え隠れする。
「大丈夫です。招かれ人の力をどう使うかは、自分でちゃんと決められるようになったから。もう、誰かに利用されることを怖がらなくていいんです」
「それに、何か所か管理小屋を建てるとしてもだ。家を建てること自体にはそれほど時間はかからなくても、計画段階から資材をそろえ、職人を集めるとなると、そうとう時間がかかるぞ。その間、ずっとローザにいるつもりなのか?」
サラはアレンと顔を見合せ、頷いた。
「はい」
「ローザっていうか、魔の山かな。俺とサラで、しばらく魔の山の管理人を請け負うよ」
ギルド長室は静まり返り、やがてパサッとミーナのメモが床に落ちる音がした。
「「「な、なんだってー!」」」
ギルドの三人の声が、受付のあたりまで聞こえたとか聞こえなかったとか。
もちろん、サラとアレンの提案は大歓迎された。
「私たちが管理人をしている間に、管理人パックを確立しちゃいましょう」
収納袋の中に入れるのは一週間分がいいか、一〇日分にすべきか。狩りの魔物を入れる収納ポーチを貸し出すべきか否か。
「コカトリスのおかげで、ギルドも潤っているのは確かだが、初期投資がでかいなあ」
ヴィンスがうんうん唸っているが、本来ならもっと前にやっているべきだったことだとサラは思う。
「だが管理小屋については、もう少し時間がかかると思う」
測量に地ならしに、資材に職人。揃えなければならないものはたくさんある。
「じゃあさ、ヴィンス」
「なんだ?」
書類をテーブルに広げながらヴィンスが生返事をする。
「俺、待ってられないから、個人的に、魔の山に家を建ててもいいかなあ」
「まず一歩」10巻、11月25日発売です。
活動報告に書影と近況をアップしています。




