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転生少女はまず一歩からはじめたい~魔物がいるとか聞いてない!~  作者: カヤ
さあ、帰ろう

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目の前には

 焦るサラだったが、サラのバリアで、たくさんのハンターをダンジョンから連れ出すことができた。

 だが、既に日は落ち、おもったよりずっと時間が経ってしまっていた。


「サラ! 連れて帰ってきてくれたのね!」


 ハンターギルドでは、相変わらずミーナとヴィンスが忙しそうに手配をしている。


「俺たちはこのまま、サラと一緒に魔の山に行くが、なにか進展はあったのか?」

「助かるぜ!」


 サラが連れ帰ったハンターたちが、サラと一緒に魔の山に向かうことはすぐに決定事項となった。


「サラ、これが魔の山に持って行ってほしい物資だが、入るか?」


 ハンターギルドには、ダンジョンの拠点に持っていく物資と、魔の山に持っていく物資が分けて積み上げられていた。


「ええと、さすがにこれは……」


 収納袋の中に、収納袋は入らないので、サラが全部持っていくなら、腰にいくつもポーチをぶら下げていくことになる。


「ああ、俺らが持っていくよ。だが、ダンジョンには受付を派遣してただろ。魔の山のふもとあたりに、物資を管理する拠点を作っといてくれると助かるんだが」

「明日でよければ、俺が行きますよ」


 ハンターギルドの夜の部の受付の人が手を挙げてくれた。


「ヴィンス、ダンジョンから持ち込まれるコカトリスの数を見たでしょう。魔の山も同じだとしたら、個人の収納ポーチじゃすぐに限界が来ますよ。ギルドの収納ポーチをありったけ出しましょう」

「そうするか。魔の山のふもとまでなら、若いハンターでも往復できるし、なかなかいい考えだな」


 サラがそのやりとりを感心して眺めていると、厨房からマイズがのっしのっしと出て来て、食堂の椅子に座らされた。


「夕食を出すから、食べていけ。ただし、日替わり一択だ」

「ありがとうございます」


 今すぐにでも魔の山に駆け出していこうとしていたサラだが、よく考えたら昼食も飛ばしていたし、夕食に出された温かいツノウサギの煮込みは体に染み渡るおいしさだった。

 お茶のカップを抱えながらぼんやり見ている間に、魔の山に行くハンターたちも交互に食堂で夕食を済ませ、物資は次々とギルドのポーチに詰め込まれ、いつの間にか出発の準備は整っていた。


「サラ。本当は一晩、ゆっくり寝てから行けと言いたいんだが、無理なんだろ」


 サラは苦笑しながらヴィンスに頷いた。皆がサラのことをわかってくれている。

 だから、本音も躊躇なく口に出せた。


「なんで先にダンジョンに向かっちゃったんだろうと思ったくらい、アレンとネリーのことが心配で。本当は、魔の山に残されたハンター三人や、コカトリスが大発生して困っているローザのことを、心配しなくちゃいけないんでしょうけど」

「それのどこが悪いんだよ。みんな自分と、自分に近しい者のことで精一杯なんだよ、普通は」


 ヴィンスがやれやれと肩をすくめた。


「いいか、サラ。お前は既に、馬鹿なことした薬師たちを、ローザの誰よりも先に助け出してくれた。薬草採取の講習をして薬草を採れる奴を増やしてくれて、ハンターたちの育成にも力を貸してくれた。そして今、五〇人ものハンターをコカトリスの群れの中から連れ戻してくれたんだぞ」


 そう聞くと、サラもなかなか頑張っているなと思う。


「本心がどこにあろうと、サラがやってくれたことは、ローザのため以外の何物でもない。今回だって、サラが早く行ってくれればくれるほど、残ったハンターたちの生還の確率が上がる。たとえアレンとネリーのためだとしても、そのおかげでアレンとネリーが帰ってこられるんなら、それはみんなのためになる。それでいいじゃねえか」

「……はい」


 ヴィンスの言葉は、疲れたサラの心に染み渡った。


「気をつけて行ってこい」

「はい!」


 サラは元気に食堂の椅子から立ち上がった。

 身体強化を使って、中央門から町の外を回っていくのが速いだろうか。


「あ、クリスが一緒に行くから、薬師ギルドに寄ってくれってよ」


 先に言ってほしいと思うサラである。

 一緒に行くハンターは一〇人もいて心強い。


「クリス!」


 薬師ギルドの受付では、思わず大きな声を出してしまったサラである。


「サラ。来たか。解毒薬はできるだけ用意してもらったぞ」


 奥から出てきたクリスは、すでに出る準備は終わっているようだった。


「先に行ってくれててもよかったんですよ」

「そうしたい気持ちもあったが、できるだけの準備もしておきたかったんだ」


 クリスの後からぞろぞろと薬師たちが出てきた。


「テッドに、クラリッサも?」

「人手は多いほうがいい。テッドには物資の手配だけでなく、調薬も手伝ってもらっていた」


 最後にゆっくり出てきたのは、ギルド長のルロイだった。


「魔力は使っていないからね」


 サラに言われる前に言い訳をしているが、猫の手も借りたい状況なのだろうから、魔力を使ってさえいなければ問題ない。


「ローザのダンジョンにもコカトリスはたくさんいました。ベテランが魔の山に向かう以上、若い人が多くなるダンジョンのほうが、ポーションや解毒剤が必要になるかもしれません」

「心配するな。頼んだぞ」


 テッドに見送られ、夜の東の草原を駆け抜けた結果、魔の山のふもとに着いたのは真夜中を過ぎた頃だった。


「いやあ、サラの明かり、本当に便利だな。夜に草原を駆け抜けるなんてありえないと思っていたが、全然行けたな」


 こんな時間に移動したせいか、逆に興奮して、人を助けに行くとは思えないほどにぎやかな行程だった。


「だが、ここでいったん休憩だ」


 サラがすぐに魔の山に入ろうとしたのに気がついたのか、クリスに止められた。


「様子だけでも」

「コカトリスも夜は動かない」


 ガーゴイルもそうだが、基本的に暗いときに動く魔物はあまりいないのだそうだ。


「少しでも眠って、日の出には動けるようにしておこう」


 テントを張る時間も惜しんで、クリスに守られるようにしてマットの上に寝転んだら、よほど疲れていたのか、星を数える間もなく眠りに落ちていたサラである。


「サラ」

「うーん。はっ」


 そっと声を掛けられて、サラは慌てて起き上がると、ハンターたちも思い思いに起き上がって、朝の準備をしているところだった。

 空を見ると、まだ星は残っているが、山際の空は明るくなりかけていて、もうすぐ夜が明けそうだ。


「寝かせておいてやりたかったが、寝坊も嫌だろうと思ってな」

「クリス、ありがとう!」


 サラは起き上がると、自分の準備もそこそこに朝ごはんの支度を始めようとした。


「サラ、大丈夫だ。各自で朝食は用意してる。こんな時だ。簡単に済まそうぜ」


 お茶でなく、魔法で出した水に、肉を挟んだパン。

 それぞれが軽く食事を済ませると、誰ともなく一斉に立ち上がった。


「行くか」

「行きましょう」


 先に行こうとするハンターを制して、サラは自分が前に出た。


「バリアで行きます。最初は様子見から」


 クリスではなく、ハンターがサラと並んで先頭を行くことになった。


「魔の山は階層がない。コカトリスがあふれていたら、最初から出くわす可能性がある。慎重にな」

「はい」


 前回、薬師を救出に来た時、サラはすごい速さで移動していたので、サラにぶつかりそうな木も敵認定されてバリアで弾かれていた。だが、普段のバリアは、木や草は素通りする。

 サラはなるべく穏やかな気持ちで、魔の山へ一歩踏み出した。


「いない」

「いないですね」


 とりあえず、見渡す範囲には、コカトリスもいなかったし、たまにサラを迎えに来ているかのように見える高山オオカミもいなかった。


「静かだな」


 遅れて入ってきたクリスが、周りを見渡しながらつぶやく。

 確かに、目には見えなくても、森の木々や草の間にある、生き物や魔物の気配が感じられない気がする。


「明るくなってきた。急ぎましょう」


 この間コカトリスを見たのは山の中腹だったし、戻ってきたハンターたちも同じく中腹で巻き込まれたと言っていた。

 そこからさほど移動していないとすれば、かなりの距離を登らなければいけないことになる。

 それでも、森の中とはいえ見通しは悪くなく、サラのバリアもあって、日が昇りきる頃にはかなり上まで昇ることができていた。


「まだいない。いや、あれはなんだ!」


 ハンターの声に、進む先を精一杯見つめても、サラの目にはもやっとした何かにしか見えない。

 だが、クリスが小さく叫んだ。


「ネフが立っている!」

「ほんとに?」


 クリスのことだから、ネリーを見間違えることはない。そして立っているということはつまり、無事だということだ。


「アレンは?」

「赤毛の隣に、背の高い細い奴がいるぞ。そしてその隣におっさん」


 ネリー以外のことはてんで役に立たないクリスの代わりに、ハンターが教えてくれたが、おっさんはない。だって、それはギルド長のはずだからだ。


「すぐそばに、座り込んだ奴らが三人。つまり、全員無事ってことだ」


 サラだけでなく、全員が安堵の息を吐いた。


「だが、あれはやばい」


 先を確認しながらも一行は進んでいたので、サラの目にも先が見えてきた。

 体の大きいコカトリスはすぐにわかったが、コカトリスとネリーたちの間に、枯れ草のような黄褐色の帯のようなものがある。


「コカトリス、と、高山オオカミ? え、高山オオカミ?」


 思わず二回口に出してしまったのは、高山オオカミの数に驚いたからだ。


「大量発生していたのは、コカトリスじゃなかったのかよ」


 ハンターたちがそう漏らしたくらい、たくさんの高山オオカミだった。


「どこにこれだけの高山オオカミがいたんだろう」


 サラが住んでいた頃は、管理小屋の周りの群れは数グループいて、入れ替わっていたのは知っていた。毎日見ていれば違いもわかる。

 それでも一グループは多くても一〇頭いるかいないかだし、そもそも群れていない高山オオカミもいる。


 ネリーとアレンにギルド長、そしてハンター三人の前には、まるでワタヒツジの群れのようにたくさんの高山オオカミがいた。

 そしてその向こうには、高山オオカミとは比べ物にならないほどの数のコカトリスがうごめいている。


「まず一歩」10巻、11月25日発売です。

活動報告に書影と近況をアップしました!

次の更新は明後日です。

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― 新着の感想 ―
久しぶりに要らな~いされちゃうのかしらw
数年は魔の山に籠もって間引かないと片付かない感じ?
他の人も指摘してるけど、1話飛ばしていませんか。 「焦るサラだったが」で始まるのは、前話とつながってません。
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