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転生少女はまず一歩からはじめたい~魔物がいるとか聞いてない!~  作者: カヤ
さあ、帰ろう

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どっちに行こう

「はああ? ハンター三人きりで、コカトリスの群れの中に置き去りか?」

「群れの中というか、群れを引き留めるから先に行けって言われて」


 しどろもどろの五人は、ヴィンスがなぜ焦り始めたのか理解できない様子だ。


「状況をちゃんと説明しろ! 自分たちだけ戻ってきて、ほっとしてる場合じゃねえ!」

「は、はい!」


 そのハンターたちによると、やはりサラたちが薬師たちを助けに行ったあたりでコカトリスに遭遇したらしい。


「魔の山の中腹より下よりのところで、はじめは数頭だったから、いい訓練になるって俺たち五人で戦わされてたんだが、森の中からどんどんコカトリスが出始めたんだ。ついにかわしきれなくなって毒に侵されて、すぐに結界箱の中に入って解毒してまた戦ってって繰り返しているうちに、ちょっと洒落にならんくらいに増え始めて」

「どのくらいの数だ」

「ざっと数十はいたと思う。解毒薬がなくなった時点で、お前らは魔の山を降りろ、時間は稼ぐと言われてそのままここまで来たんだが、実際コカトリスは追ってこなかったし、なあ」


 話しているハンターが仲間のほうに振り返ると、仲間たちもこくりと頷き返した。


「結界箱は設置してたから、ある程度片付いたらそこに引っ込んだんだろうって思ってさ。魔の山を降りろとしか言われてないし」


 ヴィンスに詰め寄られてもあまり危機感を感じられない中、クンツの声が響いた。


「やべえぞ」


 実際、昨日コカトリスと戦ったクンツだけに、その言葉には重みがあった。


「クンツ、昨日のコカトリスはどんな感じだった」

「やっぱりはじめは数頭だったらしいんだけど、すぐに増え始めて、一時は視界が真っ白になるくらいにコカトリスであふれてた。こっちは人海戦術でなんとかなったけど、たった三人じゃなんにもできやしないぞ」


 ヴィンスに答えるクンツの顔色は悪い。


「で、でも、ハイドたちは三人とも、赤の女神にも匹敵する実力の持ち主って言われてて、コカトリスだって、余裕でこぶしで殴り飛ばせるくらいなんだぞ」


 サラはネリーのほうを見た。

 確かに、サラもガーゴイルを殴り飛ばすネリーを見たこともあるし、魔の山でも実際にコカトリスを殴り飛ばしていた。

 だが、数の暴力を馬鹿にしてはいけないことも知っている。

 例えば、ネリーならワタヒツジを殴り飛ばすこともできるだろうが、群れの中に分け入るようなことは決してしないと聞いたことがある。

 一対多では、一瞬の油断が命取りになるからだそうだ。


「コカトリスの数にもよるが、ハイドがお前たちに山を降りろと言ったのなら、それは相当危ないということだ。つまり」


 腕を組んで話し始めたネリーのほうを見て、ハンターたちの口がそろった。


「まさか、赤の女神……」


 このハンターたちは若いから、ネリーを見たことはないかもしれない。

 だが、赤毛の女性のハンターというだけですぐに誰なのかわかったのだろう。


「助けを呼んで来いという余裕もなかった。ただお前たちを先に行かせるだけで精一杯だったとみるべきだな」


 ネリーというベテランの一声は、焦るヴィンスの姿よりハンターたちの心に響いたらしい。

 真っ青になっておびえ始めたハンターに、クリスの声が響いた。


「待て。まず解毒だ。診察を、サラ」

「はい」


 魔の山がどんなに危機的状況でも、サラたち薬師がやるべきことはこれである。


「す、すまねえ」


 怪我はポーションで治療済みだという。

 毒にやられていても、普通の人よりも速くすたすたと歩いてこられた彼らである。

 解毒薬を飲むとあっという間に回復した。


「とにかく、人手を募ってすぐに魔の山へ向かわせる。なんでこう、次から次へと厄介ごとばかり」


 不平をこぼしながらも、ヴィンスがすぐに対策をとろうと動き始めた瞬間、入り口からハンターが駆け込んできた。


「ヴィンスはいるか! コカトリスが三層でまた出たぞ!」

「おいおいおい! 魔の山か?」

「何を言ってるんだ。ダンジョンだよ!」

「うっそだろ! 昨日狩りつくしたんじゃなかったのかよ! 第二弾があるなんて聞いてねえ!」


 両手でバンとテーブルを叩いて立ち上がったヴィンスは、そのまま力なく座り込んだ。


「いったいどうしたら……」

「しっかりしなさい!」


 刻々と変わる状況に、静かに手助けに回っていたミーナがヴィンスを叱りつけた。

 そのままの勢いで、売店のお手伝いに向かって大きな声で叫んだ。


「ジェイを呼んできて! 町長のとこに行ってるはずよ!」 

「はいっ!」


 売店の売り子はそのままハンターギルドを飛び出していく。


「ダンジョンと魔の山の二か所での問題発生は正直初めてのことよ。考えましょう、いったいどうするか」

「どうするかって言ったってさ、どうするんだよ。助けなきゃならないのは変わりないだろ」


 昨日からの立て続けの問題発生で、ヴィンスが弱っているようだ。

 ミーナは静かに首を横に振った。


「選択肢は二つよ。どちらにも人を送るか、魔の山は諦めてダンジョンにだけ人を集めるか」

「そ、そんな」


 焦った声を出したのは、魔の山から戻ってきたハンターだ。

 先ほどまでは仲間の無事を疑ってもいなかったのに、現金なものである。


「ちょっと待ってくれ。少し問題を整理しないか」


 ここで声を上げたのはクンツだった。


「ダンジョンでコカトリスが出たって言うけど、それがどんなふうに問題なんだ? 今すぐにでもダンジョンからあふれそうなのか?」

「い、いや。だが、普段なら深層にいるコカトリスが三層にたくさんいて、四層より下にいた奴らはまったく戻ってこられなくなってる」

「助けが必要なハンターはいるか?」

「それはまだ、いない」


 事実を整理したことで、ギルドにほっとした空気が流れた。

 ここでサラがはいっと手を挙げた。


「ハンターたちを連れ戻すだけなら、私ができます。バリアがあるから、何組でも大丈夫ですよ。ただし、魔の山に行った方がいいならそっちに行きます」


 薬師の自分だが、バリアでも役に立てる。魔の山に行った方がいいのか、薬師としてのみ働いたほうがいいのか迷うところだが、その判断はハンターギルドに任せようと思うサラである。


「サラがハンターの移動を手伝えるなら、ダンジョンのコカトリスについては、時間をかけて数を減らしていけば大丈夫じゃないのか?」


 クンツの指摘に、ヴィンスの表情が元に戻った。


「そう、そうだな。いっぺんに二つのことが起こったから、冷静さを欠いちまったが、ダンジョンの魔物のイレギュラーなんてそれなりにあることだった。注意喚起をしたうえでハンターを集め、時間をかけて減らしていく。それでいいはずだ」


 後から出た問題の解決の方向性が決まって、ヴィンスが冷静さを取り戻した。

 その時点でクリスが手を挙げる。


「それでは、私は薬師ギルドに声をかけよう。昨日の今日で解毒薬が全然足りないはずだ。特級ポーションもない。サラの講習に集まってくれた生徒に毒草の採取以来を出し、解毒薬を中心にポーション類の増産体制をとるよう、進言してこよう」

「助かるぜ」


 ヴィンスの顔色がどんどんよくなっていく。


「じゃあ、俺とネリーは魔の山に行ってくる」


 今度はアレンがそう宣言した。

 相談した様子は一切なかったのに、アレンの隣でネリーが、それは当たり前だという顔をしている。さすが師匠と弟子である。

 そのネリーが口を開いた。


「ハイドのことは知っている。間違いなく強いが、魔の山の魔物はダンジョンとは数が違いすぎる。あそこで魔物が大発生するということは、ものすごく大量だということだ。あふれる可能性は低いが、救援に向かうのなら、急いだほうがいい」


 アレンとネリーは今にも駆け出しそうだ。


「おそらく、私とアレンだけでも力不足だ。力のあるハンターは、全員魔の山に回すくらいの問題だと考えてくれ」


 ここで今度はクンツが手を挙げた。


「じゃあ、俺はここに残る。俺の魔法は、安全地帯があったほうが生かせるからな」


 自分の力を冷静にとらえているクンツは本当に頼りになると思う。


「じゃあ俺らはハイドを助けに魔の山に向かう」


 解毒薬ですっかり回復したハンターたちも立ち上がった。

 だが、ネリーは首を横に振る。


「お前たちは残ってダンジョンで働け。少しはコカトリスを減らせるだろう」

「なんでだ!」

「足手まといだ」


 ネリーははっきりと言い切った。


「コカトリスが少し増えたくらいで毒を食らっている程度のハンターが、魔物が増えている魔の山で役に立つわけがないだろう」


 厳しい言葉に、ハンターたちは唇を噛む。


「じゃあ、私たちは出発する」 

「ちょっと待ったあ!」


 そこに飛び込んできたのはギルド長だった。

 少し遅れてテッドも駆け込んできた。ギルド長と違って肩で大きく息をしているのは仕方のないことだろう。


「俺を置き去りにして決めないでくれる? 一応責任者なんだからさあ」

「ジェイ……。遅いって。なんでいつも非常時にはいないんだよ」


 いつもの通り、少し気の抜けた頼りない口調のギルド長だが、その声を耳にしてヴィンスの顔に一気に血色が戻った。


「状況を報告!」


 既に魔の山に一歩を踏み出そうとしていたネリーとアレンもいったん、足を止める。

 短時間で報告を聞いたギルド長は、まずサラたちに頭を下げた。


「薬師たちの騒動の時にも迷惑をかけたが、今回もすまねえ。だが、助かる」


 サラたちを迷いなく戦力に加える判断力はさすがギルド長である。


「ハルトがいなくなってから、魔物を狩る量が減っていたのは確かだし、タイリクリクガメが来たせいかもしれないし、魔の山の気まぐれかもしれないし、結局原因はわからねえ。だが、魔の山があふれる可能性がないわけじゃない。こっちのダンジョンの対応は、テッドとヴィンスが指揮を執って計画的にやるとして、強い奴らは全員魔の山に送り込むことにする」

「俺が残るのかよ」


 ヴィンスががっくりと肩を落とすが、ヴィンスが適役なのは確かである。


「わかった。物資の手配は任せてくれ」


 一方でテッドが頼もしい。


「で、俺だけど、ネフェルタリと一緒に魔の山に向かう。ヴィンス、ダンジョン帰りのベテランを捕まえ次第、どんどん魔の山に送り込んでくれ。やばい気がするんだ」


 ギルド長本人がどんなに強いハンターでも、残って指揮を執るのが当たり前だ。だが、今回は現場に向かうという。

 そのことからも、今回の件について、ネリーと同じ危機感を持っていることが伝わってくる。


「サラ」

「はい!」


 ギルド長がサラを見るときの目にはいつも、親戚の子どもを見るような温かさや、ちょっとからかうようなおどけた雰囲気がある。

 だが、今のギルド長の目には、真面目な色しかなかった。


「できるだけ早く、こっちに来てほしい」


 サラのバリアにできることは、戦うことではなく守ること。薬師としてのサラにできることは、人々の命を守ること。

 クンツが今回、魔の山よりローザのダンジョンで自分が生かせると考えたように、サラもローザのダンジョンのほうが自分を生かせると判断した。

 だが、そういう問題だろうか。

 サラは思わずアレンのほうを見た。

 アレンはただ、右のこぶしをとんと胸に当てた。


「待ってる」


 その一言で、サラは理解した。

 サラが必要ないのなら、アレンはきっと、「頑張れよ」と言ったはずだ。

 今、サラが必要とされているのはローザのダンジョンの方だが、アレンは、魔の山も厳しいことになっていると考えているのだ。


「私のほうがもっと、待ちわびているからな」


 二人を邪魔するように、アレンの前にひょいと顔を出したのはネリーだ。

 そこに焦ったように出てきたのはクリスである。


「ネフ、私も行くからな。待ちわびるなら私にしてほしい」

「わかったわかった。待ってるから」


 行くとも言っていなかったクリスが慌てて出てきたことで場の雰囲気は和んだが、間を置かず魔の山組は出発してしまった。


「まず一歩」10巻、11月25日発売です。

活動報告に書影と近況をアップしました!


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― 新着の感想 ―
「危険が危ない」と知らせが届いた! 頭痛が痛いので、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応とるのだ(混乱中)www
サラちゃんのバリアは広範囲且つフレキシブルに展開できるから、全体の状況を把握するスキルまたは偵察ドローンのような道具があれば現場指揮官(少佐)にもなれるよね。
3階が溢れかえって4階より下のハンターが帰れない、その後魔の山に行かないといけない… 自分がサラなら、3階に通路型バリアを作って4階から2階に行けるようにするかな?ハンターは速やかに移動してもろて!!
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