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そう簡単に売ってやらない

帰りには二人で屋台でパンを買って帰る。


「お金減っちゃったら、明日大丈夫?」


 心配するサラに、アレンはにやりとした。


「そのお金を除いてあと一〇〇〇なんだ」


 ちゃんと別にしてあるらしい。異世界は子どももたくましいとサラは感心した。


 それから先はいつも通りだ。


 町の外の、住宅街の端っこの野原で野宿。


 朝起きたら薬草を採る。


「今日も薬師ギルドに行くのか?」

「もちろん!」


 二人で薬師ギルドまで走っていく。


 ギイーっと両開きのドアを開けると、今日はテッドの他に、何人か薬師らしき人がうろうろしていた。


「テッド。今日も薬草持ってきたぜ」

「よ、よう、アレン」


 入り口からアレンが声をかけると、テッドはアレンのほうを見ずに挨拶だけした。


 サラは恒例のように大きな声で尋ねた。


「今日はクリスっていう人いますか」

「クリス様は、今出かけてていないんだよ。急な出立で、いつ頃戻るのかもよくわからなくてね」


 今日は別の人が返事をしてくれた。そう言われたらサラだって仕方ないのかと思える。


「薬草、見てもらえる?」

「君がアレンか。もちろんだとも。そっちの君は? どうやら魔力草を持っていると聞いたんだけれど」


 サラとアレンは顔を見合わせた。


 テッドは気まずそうに横を向いたままだ。


アレンはカウンターに歩み寄り、薬草を並べていく。


その人は丁寧に薬草を調べ、頷いた。


「良質な薬草、一本も間違いがない。なんでちょうど一〇束なんだい?」


 言外にもう少し採取できただろうと言っている。


「俺、お金を稼いでるのはハンターになるためなんだ」

「そうか。強い魔力持ちだものな」


 だが、それともっと薬草を持ってこないのと何のかかわりがあると、その人は目で問いかけた。


「ハンターの身分証が手に入ったら、そっちで稼ぐし。それに薬草は全部取らずに半分は残しておけってサラが言うから」

「サラ。君がサラか。薬草を持ってきたのかい」


 サラは黙ってポーチから薬草を取り出して見せた。ただしカウンターには近寄っていない。その人も強い魔力持ちのようで、アレンが近寄っても避ける様子がなかった。もしカウンターに置いて、薬草だけ取られたら困る。


 サラもこの何日かでだいぶたくましくなっていた。


「テッド、お前のせいで警戒されたんだぞ。では少し離れようか。できれば魔力草も置いておくれ」


 その人はテッドのいるところまで慎重に下がった。テッドはさらに下がった。


 サラはそろそろと近寄ると、最近取ったばかりの薬草を一〇束、魔力草を五本、カウンターにそっと並べた。


「ふむ。採れたて。良質な薬草と魔力草」


 その人はそうつぶやくと、カウンターのアレンのほうに穴の開いた銀貨を五枚、サラのほうに一〇枚置いた。


 サラはもう一度アレンと顔を見合わせた。お金を取ったら、泥棒だと言いがかりをつけられたりしないかと不安だったのだ。


 アレンは大丈夫だと頷いてくれたけれど、サラはそろそろとカウンターに近寄る。つられてアレンもそろそろと近寄る。


 もう一度顔を合わせて、せーのでお金を取った。


「これでハンターギルドに登録できるよ!」

「よかったね!」


 それから二人で薬師ギルドを出ようとしたら、


「待ってくれ」


 と静かな声がかかった。


「君、サラ。昨日もその前も来てたよね。その分の薬草は?」


 まだあるだろうから出せというお達しである。


 サラは改めてその人を見た。奥のテッドにもちらりと目をやる。


 テッドは少し長めの金色の髪に、ちょっと垂れた青色の目をしたハンサムな若者だ。顔だけはいいから受け付けなんだろうとサラは思っていた。


 が、今日受け付けてくれた人は、三〇代だろうか。薄茶色の髪に、ヘーゼルの瞳、髪を短く整え落ち着いた感じの人である。


「サラ、確か薬師ギルドの副ギルド長の人だよ」


 隣でアレンがそうささやいた。そうは言われても、ここ何日かのテッドの扱いをとがめなかった人だ。さっきは思わず薬草を出したが、お金を稼ぐのを急がなくても、今の自分にはハンターギルドでのアルバイトがある。


 それに、テッドへの嫌がらせも昨日までの二日で十分に気が済んだ。


 サラはアレンの腕をつかむと、何も言わずにギルドを出た。


「おい、ちょっと待って!」


 という声が追いかけてきたが、無視して中央門のほうへ走り出す。


「サラ、いいのか?」


 誰かが追いかけてくる気配もなかったので、中央門が見えるあたりで止まったサラに、アレンが心配そうに尋ねた。


「いい。今ギルドで働いてるもん。昨日まであんなだったのに、急に買い取るって言われてもなんかいやだ」

「あー、まあな」

「それよりアレン」

「そうだ! 登録だ!」


 二人はまたハンターギルド目指し駆け出した。


「よう、アレン」

「ヴィンス、薬草が売れた!」

「よし、登録か!」


 サラもアレンと一緒にカウンターに急いだ。


 アレンがポーチからお金を出していく。一万ギルの大きな硬貨など持っていないから、全部一〇〇〇ギル硬貨だ。


「九万九千、一〇万と」


 この時間、あまり人のいないギルドに、それでもほっとしたような空気が流れた。


「よし、この紙に必要事項を記入しろ」


 こうしてハンターギルドの新しいハンターが誕生し、ギルドは暖かい拍手に包まれた。


 アレンは四角いカードのような身分証を右手に持って、嬉しそうにサラのほうを振り向いた。


「よし、サラ。薬草。代わりに売るよ!」

「早速規約を堂々と破ってるんじゃねえ! 陰でやれ!」


 陰ならいいのかという話であったが、みんな聞かないふりをしている。


「いいよ、アレン。私はゆっくり稼ぐから」

「そうか。それじゃ俺、ダンジョンに行ってくる」


 アレンはそのままギルドを飛び出していった。


「大丈夫かな」


 不安そうなサラにヴィンスが頷いて見せた。


「大丈夫だ。アレンはそこらのハンターよりよほど強いし、慎重だ。何より身体強化があるから、防御力に優れてる。後は年齢と金だけだったんだよ、本当に」


 ギルドの人がそう言うならいいんだろう。


 さて、サラはサラの仕事をしなければならない。


「マイズ。おはようございます!」

「ようし、ベルトを締めなおせ!」


 今日は昨日よりちょっといい日だ。



1月15日、「転生幼女」3巻発売です!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] コミカライズで作品を見て流れてきました。 漫画だとアレンがギルド登録したのって、魔の山に向かうクリスにポーション届けてからサラと一緒に登録だった気がするのですが、小説の方が早いんですね…
[気になる点] 信用の問題……! アレンのは普通に買ってんのに、目の前でボッタクるという無能を晒し続け交代させないクズ氏ギルドとは?! [一言] 魔力持ちの相手とか既に罰なのかもしれない。
[一言] ネリーも全幅の信頼を置いていたクリス氏の面子泥まみれじゃんw これはひどいw
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