初めての仕事
「売れなくてもさ、収納しておけるんだから、薬草採っとこうぜ」
「うん」
次の日、パンだけの朝食をとると、サラは普通に、アレンは薬草一覧を見ながら薬草を採りつつ、サラは昨日、あとをつけられた話をした。
「やっぱり一人にしないほうがよかったか」
「いや、一人でも大丈夫だから、私」
「そんな奴らには薬草の場所を知られないようにしようぜ」
アレンが一人憤っている。
「別に知られても私はかまわないよ」
「サラ? なんで?」
「なんでって」
こんな道端に生えているもの、いつか誰かが気づくだろうし、結局ポーションがないと困るのは薬師ではなくハンターだろうとサラは指摘した。
「サラはいい人すぎる」
「どうせ薬草買ってもらえないなら、だれのものになっても同じだよ」
「年寄りかよ」
ネリーはローザの町に行けと言った。ということは、ローザの町にいればいずれネリーとつながるはずなのだ。サラは、ネリーが帰ってくるまでこの町で粘る以外のことに頭を使いたくなかった。
「それにね、私あきらめてない。今日も薬草を売りに行くよ」
「昨日あんな目にあったのにか?」
サラは半目になってアレンを見た。
「ねえ、薬師の人、悪いことしてるんだよね?」
「ああ! あんな奴らだと思わなかった!」
サラはにやりとした。
「だったら、罪を重ねてもらいましょうか」
「お、おう?」
そうして二人は薬草を握りしめて、いや、本当は収納袋に大切にしまって、中央門に走っていった。今日は口を開けたりはしていない。
そしてそのまま薬師ギルドまで一気に走った。
「おーい、テッド」
「よう、アレン。チッ」
入り口からアレンが声をかけると、テッドはアレンを認め声をかけたが、隣のサラを見て舌打ちした。本当に感じが悪い。
アレンが何も言わないうちからサラは大きな声で尋ねた。
「今日はクリスっていう人いますか」
「クリス様だ。いねえよ。帰れ」
テッドはふいと横を向いた。そこへアレンが歩み寄り、薬草を並べていく。
「今日も薬草をも取ってきたんだ!」
「お、おう。ちょっと下がれ」
そういうとテッドは丁寧に薬草をチェックし、満足そうに頷いた。
「薬草、10本ずつ10束、五〇〇〇ギルだ」
「え。ちゃんと買ってくれるの」
「当たり前だろ。ほら」
カウンターには穴の開いた銀貨が五つ。
そして薬草の声に、奥の工房から人が顔をのぞかせている。
銀貨を取ろうとカウンターにアレンが近づくと同時に、サラもカウンターに寄って薬草を並べた。
「お前の薬草は雑草交じりだ。五〇〇ギルなら買う」
テッドはそれを見もしないでそう言った。
「おい、テッド、何を言ってるんだ。良質できちんと採取された薬草だぞ」
「馬鹿! こっちに来るな!」
カウンターの後ろで薬師たちがドタバタしている間に、サラは薬草を静かに収納ポーチにしまい、今度は別の薬草を並べた。魔力草だ。
「な、お前、魔力草も、いや」
テッドの目がそれが欲しいと言っている。しかし苦しそうにそっぽをむくと、こう言った。
「それも雑草だ。さっきのと合わせて一〇〇〇なら買う」
「じゃあいいです」
サラは魔力草もさっさとしまった。
「さ、ギルド行こう」
「行こうぜ!」
「ま、待て」
待つわけがない。サラは案外しつこかったし、昨日の屈辱を何一つ忘れてはいなかった。もし薬草が売れなくても、毎日薬師ギルドに行ってテッドをイライラさせ、テッドの時間をつぶしてやろうという作戦なのだ。
「ふ、ふふっ!」
「ははっ! テッドの顔、面白かったな」
意味もなく笑いながら、中央門まで戻ってきた。
「アレン、薬草買ってもらってよかったね」
「ああ。きっと駄目だと思ってたから。これであと一万稼げば、ハンターギルドに登録できるぞ!」
「私もなにか雑用を探そう!」
アレンによると、ギルドは登録未満の子どもにも雑用はあっせんしてくれるというのだ。
「ただ、やっすいんだよな」
「アレンでも二か月かかったんだもんね」
「うん」
それでも、やるしかない。
サラは自分がアレンの先にたってハンターギルドのドアを開けた。
「よう、サラ、だっけか?」
「はい! えと、ヴィンス?」
正解だというように受付のヴィンスがうなずいた。
「ヴィンス! 今日は俺もサラも、何か雑用がないかと思ってきたんだ。あ、俺の薬草は買い取ってもらえた」
「それはよかったな。で、俺の、ということは」
「サラのは駄目だった」
「そうか」
それでも昨日のような怒りは、アレンからは感じられなかった。自分たちで納得しているならまあ様子を見ようとヴィンスは聞きたい気持ちを飲み込んだ。
「アレンはいつもの雑用でいいな」
「ああ」
「サラはお前、ちょっとこっちにこい」
「はい?」
アレンがサラと一緒に来ようとして止められている。
「お前は雑用行ってこい。サラは大丈夫だから」
アレンが振り向き振り向き出ていった。
ヴィンスはため息をついてやれやれと肩をすくめると、ギルドの食堂の椅子にサラを座らせた。
「さて、サラ。昨日の弁当はうまかった」
それはよかった。サラはにっこりと笑った。
「正直、あれがたくさんあるならあれを売れば元を取れる」
それならとサラが弁当を出そうとしたらあわてて止められた。
「たくさんあるんだな」
サラはうなずいた。ヴィンスはしかし、困ったように首を振った。
「正直毎日でも俺が買いたいくらいだ。しかし、そうするとハンターの目につくだろ、そして食わせろって言われるだろ、そしてギルドの弁当が売れなくなって、ハンターたちがあの弁当を常に売れとうるさくなるのは目に見えている」
そういうものだろうか。昨日見た屋台には、おいしいものはたくさん売っていたような気がするが。
「まあ、ちょうど食堂で人手が足りないところだったんだ。料理に興味があるなら食堂の手伝いはどうだ。毎日この時間に来て、食堂の下ごしらえを手伝って、ランチの時間が終わるまで。それで一日三〇〇〇ギル払う」
「毎日働いたら、一か月と少しで登録料になるのか」
思ったより良い条件である。
「計算はええな、おい」
ヴィンスは驚いたようにのけぞった。
「計算ができるなら、その後、ギルドの売店の手伝いとかもできるぞ」
「そこまで体力があるかどうか、自信がありません」
町に来るのに五日かかったくらいだもの、とサラはうつむいた。
「まあ、食堂の手伝いをやってみるこった。どうやら昨日より小ぎれいになっているようだし、今日から働いていくか」
「はい!」
薬草が売れなくても、何とかなりそうだとサラは胸をなでおろした。
明日は更新お休み。あさってからまた更新します。