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転生少女はまず一歩からはじめたい~魔物がいるとか聞いてない!~  作者: カヤ
すれ違う二人

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やることリスト

 だいぶ遅い時間になっていたので、屋敷に帰ってみると、アレンの夕食と食後のポーションはクリスが担当してくれた。サラは挨拶だけになってしまったが、


「クリスに、明日から起きていいって言われた。狩りは一ヶ月駄目だけど、日常生活は問題ないって」


 と大喜びだったのでよしとする。


 サラも急いで食事をすませると、先に食事を済ませてくつろいでいるウルヴァリエの家族と合流した。クリスとネリーが自室に引っ込んでいることも覚悟していたが、ライとエルムと共にくつろいでいて、ほっとすると同時にそれでいいのかとも思ってしまう。だが、これ幸いと質問をした。


「この先のアレンについて、どうしたらいいか相談があるんです」

「ほう」


 サラが自分からの相談することも珍しいので、クリスは興味深そうに身を乗り出した。


 そこでサラは、今日ハンターギルドに行って、特級ポーションを飲んだ人の経験談を聞いてきたと、その内容を話し始めた。


「一番印象に残ったのは、何もしなかった人が一番ちゃんと回復したということでした」


 自分のことを堅実で慎重だと言っていたハンターの話だ。


「でも、思ったより話を聞けたけれど、それでも四人だし、その中で元に戻った人はといえばたった一人です。もっとたくさんの人に聞いてみないとわからないけれど、でも、一ヶ月の療養期間に、身体強化と魔法を使わないようにするのが大事だと思うんです」

「なるほどな」

「だからと言って、普通に訓練を再開していいよって、アレンに言ってもいいものかどうか。もしこれが間違っていて、そもそも剣を振ったり筋力を鍛えたりすることで力が落ちてしまったらどうしようかと悩んでいるんです」

「ふむ」


 クリスはサラの話を聞くは聞いてくれたが、共感したようでない。むしろ何を悩んでいるのかという顔をしている。


「アレンに決めさせればよい」

「ええ……」


 そんなことをしたら、絶対鍛錬するというに決まっている。


「それで力が落ちたとして、サラのせいにする奴か?」

「そんなことはないと思います」


 アレンは素直で前向きな少年だ。


「アレンも子どもではない。瀕死になってしまったのも自分のせいだし、特級ポーションからどう回復するかも自分の責任だ。方針を決めるのは大事だが、母鳥のように世話をするのは薬師の役割ではないぞ」

「それは、そうかもしれません」


 クリスの言葉は思ったより辛辣で、心配しすぎかもしれないと自分でも気になっていた痛いところを突かれたというのが正直な気持ちだ。


 だがサラはそんな気持ちをぐっと抑える。


「アレンに話してみます」


 それが大事なことだ。


「ところで、明日のことなんだけど」


 サラはネリーのほうに向きなおった。


「どうした?」


 静かにクリスとのやり取りを聞いていたネリーが、怪訝そうにサラのほうを見る。


「ザッカリーに、深層での探索に参加するよう頼まれたの。といっても危険なものじゃなくて」


 なぜ言い訳しているのか自分でもわからないが、サラは危険のないことを強調する。


「ガーゴイルがいっぱいいる最深層で、バリアを使って安全にハンターを移動させるお仕事なんだけど」

「ほう。それで、やるのか?」


 やるのかと聞き返したネリーの目が輝いていたので、サラがダンジョンに入るのが嬉しいんだということが丸わかりである。


「やろうと思うの。カレンに許可はもらってきたし」

「では、明日は一緒に出勤だな」


 あれこれ言わずに、サラのやることを尊重してくれるネリーにほっとする。


「明日は二手に分かれるということは聞いたか?」


 こちらもニコニコと話を聞いていたライである。


「はい。ガーゴイルの数を減らす組と、穴の先を確かめる組と」


 サラの答えに、ライは満足そうである。


「私とエルム、そしてクリスとサラとで探索組だな」


 自分の収める領地のダンジョンに新しい階層ができるかもと聞いて、ライは我慢できなかったらしい。代わりにセディを地上に残すそうだ。


「兄様は総ギルド長なのに、父様のわがままのせいで地上組だ」


 ネリーがライをからかっているが、それならばエルムはどうなのだろう。


「俺は第一発見者なのに、探索をせずに怪我を運んだんだぞ。真っ先に参加する権利があるはずだ」


 サラの視線に気づいたのか、エルムが言い訳がましく口にした。兄に譲る気はないらしい。


「まあ、ウルヴァリエを全滅させるわけにもいなないから、誰かが残らないとな」


 これは武家のジョークだろうか。ライの冗談に笑えなかったのはサラだけである。


「あれ、ネリーはどうするの?」


 ライのいう探索組にはネリーがいなかったことに気づく。


「先がどうなっているのかも気になるが、この間確保できなかったガーゴイルの肉を確保するほうが大事だ。サラ、たくさん狩ってくるからな」


 そう語るネリーの顔は肉への期待でキラキラと輝いている。


「まあ、ネフならガーゴイル程度は大丈夫だろう。私も先のほうが気になるから探索組だ」


 聞いてもいないのにクリスまで主張する。


「あれ、私は別に探索組とかじゃなくて、皆さんを穴のところまで安全に運ぶだけのお仕事ですよ」


 探索組に混ぜないでほしいと思うサラには、にこやかな顔が向けられるだけだった。


 団らんから自分の部屋に戻ってきたサラは、すぐに休む気にはなれず、机に向かって紙とペンを取り出す。


「お休みのはずなのに、なんだかいろいろやった日だった」


 アレンが回復したのが嬉しかったけれど、安心したら、心に蓋をして隠していた不安や反省が飛び出てしまって、衝動的に行動を起こしてしまった。


「やるべきことが多すぎるから、流されないように、ちゃんと整理しておこう」


 サラはメモ用紙に向き合った。


「まず一番は、アレンのリハビリ計画。これは今日中にまとめたい」


 一つずつリストに上げていく。


「それから今日聞いた話のレポート。カレンやクリスには話したけれど、忘れないうちにちゃんと文字にしておきたいでしょ」


 特級ポーションを飲んだ人の経験談を聞けたのは大きかったけれど、四人分だけでは足りないとも思う。


「これは今回の件が落ち着いてから、もっと経験談を集めたいな。ほかにも飲んだ人がいないか、ハンターギルドで聞いてみるとして、ハイドレンジアだけでは少ないと思うから」


 声に出しながら、頭の中を整理していく。


「危険なダンジョンのあるのは、ローザと王都。王都は渡り竜の関係で、経験者が多い可能性があるから、王都は要チェック」


 誰かに聞ければいいのだがと考えて、サラははっと気が付いた。


「ノエル! ノエルに相談してみよう!」


 ノエルは年下だがサラよりよほど優秀だ。特薬草をお土産にして、特級ポーションの使用後について一緒に研究しようと言えば、興味を持ってくれるのではないか。


「王都についてはノエルに手紙、と。あとローザだとテッド……。うーん、これはちょっと後回しにしよう


 テッドとは和解したと言っても、まだ手紙を書くほど仲良くはない。


「でも、特級ポーションを作って、クリスに卒業試験には合格だって言われたって自慢したら、きっと悔しがると思うな。よし、これも落ち着いたらやろう」


 嫌がらせになるかもしれないが、それもまた楽しいと思いニヤニヤしてしまうサラである。


「それから、ええと」


 まだ考えなくてはいけないことがあったような気がするが、だんだんと瞼が重くなってきた。


「ダンジョンから一気に戻ってくるのも大変だったけど、自分で考えて行動するのも疲れちゃう」


 ネリーが一緒の部屋にいてくれたら、明日のためにもう寝たらいいと言ってくれるのにな、とほんの少し寂しい気持ちになる。


「体調管理も自分の仕事だ。明日のために、もう寝よう」


 なんにもなくて、でもとても長い一日がやっと終わる。ごそごそとベッドにもぐりこんだとたん、サラは夢の世界に旅立つのだった。


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― 新着の感想 ―
テッドへの嫌がらせがリストに入ってるの草すぎるし、ネリーはガーゴイル肉を集めるの優先してるのも草すぎる。
[一言] テッドの扱い雑だけどまっ良いか。テッドだしな。
[一言] 新婚さん達に子供出来たりしないのかな?でも晩婚だし無理かな?サラレポートは特級ポーションを使う場合の重要になりそうだな。国外にも早急に広がりそう
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