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西門へ


(ギルドにて)


「おい」

「うめえうめえ」

「うめえじゃねえよ。うまいけどよ」


ヴィンスは ギルド長にため息をついた。


「ギルド弁当の数倍はうまいな」

「うまいっていう話はもういいんだ」

「あ?」


 この間抜けがギルド長と思うと、ため息の出るヴィンスだったが、なんといっても魔力量が多く、ハンターとしては優秀なのだから仕方がない。


「あの子。サラといったか」

「ああ、料理上手だな」

「そうじゃなくて。おかしいとは思わないか」

「……思ってはいたさ」


 ギルド長は弁当の蓋を律義に閉じた。


「そもそも、魔力量の段違いに多いアレンのそばに平然といただろ」

「嬉しそうだったなアレン」

「そうだな」


 魔力量の多い自分たちは、同じく魔力量の多いアレンがどんな子供時代を送っているのか想像がつく。だから、叔父がなくなって一人きりになった時も、なんとか自立できるよう見守っているのだ。それに、魔力が多ければ優秀なハンターになる。


「それだけじゃねえ。ヴィンス、お前のことも俺のこともまったく気にした様子がない」

「それに、一文無しと言いながら収納ポーチに、収納リュックだ」

「リュックもか」

「しかも、ワイバーン三頭の奴だ、あれは」


 一千万ギルは、ハンターでもそうは出せない。


「まあ、ワイバーンをちょいちょい納品していく女神もいるがな」

「ネフェルタリか。無理やり王都に連れていかれたが、迷惑なこったぜ」

「まったくだ。まさか状態異常にしてまで王都に連れていくとは思わなかったぜ」

「渡りの竜なんざ、魔法師のほうがよっぽど役に立つだろうに。毎年のことなんだから、王都だけで対策しろっての」


 身体強化しても人がジャンプできる高さなど限度がある。魔法師に竜を落とさせて、そこで剣士に叩かせるのが一番効率が良いのだが。


「王都には招かれ人も何人もいるだろうに。むしろこっちに人を送ってきてほしいって言ってるんだがな」

「娯楽の少ないローザに来るハンターは少ない、けど魔石と素材は収めてほしいって、わがままにもほどがある」


 中年二人が額を突き合わせてため息をついている様子などうっとうしい以外の何物でもない。


「それもだが、薬師ギルドだよ、問題は」

「クリスがいねえときに限ってよ、まったく」


 買い取りだけなら、手数料分はひかれるがハンターギルドでもできる。また、基本的には狩ったり採ったりした獲物は本人以外は売れないことになっているが、見えないところで本人同士が納得し、代理で売ったとしてもとがめることはできない。


 ただ、薬草類については、年寄りや幼いもの、女性でも採取できるので、ギルドに登録していなくても、薬師ギルドでは公平に買取をしているはずなのだ。


 その薬師ギルドの公平性がなくなっているかもなどと考えるのも面倒だが。


「ここで薬草を持ち込むやつはあんまりいねえからな」

「作るの専門で、買い取りの意義を軽視してしまってるってことだな」


 もう少し様子を見るしかない。


   ☆


 薬草をちゃんと買い取りしてもらえないのは誤算だった。


 サラはローザの町の中央門をうつむいてとぼとぼと通り抜けた。来るときは希望に満ちて上を向いていたのに、残念なことだ。


 もっとも、サラは薬草のことに関しては落ち込んでいない。


 生きるというだけなら、食料は三か月分以上ある。いや、実は五か月分くらいはある。サラは腰のポーチにそっと触れた。


 小屋にはネリーと二人、三か月分しかストックしていなかったが、個人のポーチにもいろいろ貯めてあるのだ。


 なぜかって? そこに袋があれば、物を入れる。それだけである。しかし、料理をしてためるという楽しみがここで役立つことになるとは思わなかった。


 もし薬草が売れないのであれば、アレンのように、町の雑用をしながらお金をゆっくり貯めていけばいい。食料がなくなる五か月の間に、ギルドの登録料をためればいいだけのことだ。


 住むところは町の外でも大丈夫。結界箱があるし、バリアだってある。


 落ち込んでいるのは、ネリーの行方がわからなかったことだ。


 サラだって、何かがおかしかったことはわかってはいたのだ。


 なぜネリーが女物の服を買ってきてくれなかったか。


 なぜ、一度にたくさんの食料を仕入れてくれなかったのか。


 それは、サラの存在を秘密にしておきたかったからに違いない。


 なぜ秘密にしたかったのかはわからない。サラが招かれ人だからなのか、それともネリーが特殊な人材だからなのか。


 強いとは言え、女性一人を魔物のあふれる山に一人きりで管理人としておくなんて、どう考えても普通ではなかった。


 でも、聞けなかった。聞いたら今の幸せな生活が終わってしまいそうだったから。


 おそらく、サラの知っているネリーは、町の人には違う顔なのだと思う。


 そこを突き詰める前に、まず生き延びなければならない。


 さあ、気持ちを切り替えよう。サラは顔を上げた。


 強くならなければ、小屋を一歩も出られなかった、魔物のいる世界。


 そんな世界で、人のいる町に来たら途端に楽になるなんて、そんな夢のような話などなくて当たり前なのだ。


 中央門は町の真南に位置する。サラは門を出ると、まず右手、つまり西側に向かった。結界から出ないよう、西門まで続いていると思われる街道をてくてくと歩いていく。西側も東側と同じように、門のすぐ横から小さな町のようになっている。違うのは、門からまっすぐ南に続く街道沿いに、平屋の大きな建物が建っているくらいだ。そこが中央ダンジョンなのだろう。


 壁沿いに目をやれば、テントを張ったような簡易な屋台が並び、食べ物や雑貨を売っている。のぞいてみたいが、今はお金が少ししかないから、あきらめるしかない。


 そこを通り過ぎると、今度は普通の家がぽつりぽつりと立っている。


「壁はダンジョンがあふれた時のためにあるはずなのに、こんなところに家を建てて大丈夫なのかな」


 サラは不思議に思う。そこを通り過ぎると、あとはやはり東側と同じように、壁と草原が続くだけである。 


 となれば、やることは決まっている。薬草を探してみよう。


 サラはすっとその場にしゃがみこんだ。目線が低いほうが薬草が見つけやすい。


 右にも、左にも。東側と同じように、薬草は群れて生えていた。


 自分は無理そうだけれども、とサラは考えた。アレンなら、これを取って売ることができるだろう。


 もっとも、あの人たちがとってしまうかもしれないけれども。


 サラは、サラが急にしゃがみこんだので挙動不審になっている後ろの人をちらりと見た。


 ギルドを出た時からずっとついてきている。おそらく薬師ギルドの人だろう。


 サラかアレンをつけてくれば、薬草を見つけられると思ったのに違いない。


 サラは立ち上がった。


 どうせ自分が売れないのなら、採りたい人が採ればいい。さっきハンターギルドの人は、薬草が不足していると言っていた。小さい子どもの後をつけてくるほど薬草がほしいのであれば、自由に採取すればいいのである。


 サラはそのまま西門までてくてくと歩いた。ついてきている人は、いつの間にかいなくなっていた。


 西門の近くと思われるところに来ると、やはりまず小さな家が立ち並び、その後に中央門より小規模な屋台村があり、そしてダンジョンと思われる建物があった。


「東門と大体おんなじ距離だ。あ、いっけない。早く中央門まで戻らないと、日が暮れちゃう!」


 サラは急ぎ足で中央門まで向かった。中央門までたどり着いたのは、日暮れぎりぎりの時間だった。


今年はお世話になりました。

来年もよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 気付ける。 [気になる点] サラの名。 珍しいか、特別な何かかありそうな感。 [一言] ……『絶』! とか、魔力を漏らさない結界(身体強化)とかを思い付けば……。 それとも、逆に圧が溜ま…
[一言] ネフェルタリ…「美人」の名を持つネリーは実はすごく美人さんなのでは。
[一言] うう…。話が遅い…。ネリーまだ…?金髪の子供どうでもいい…。
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