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ハンターギルド

 アレンはサラの肩を叩くと、カウンターに声をかけた。


「テッド」

「なんだ」


 さっきとは打って変わって愛想のない声だ。


「俺、薬草採ってきたんだ」

「なんだと?」


 テッドの目の色が変わった。


「カウンターの上に並べてみろ」


 そういって数歩下がった。魔力持ちの人はそんなに圧があるのだろうか。


「うん!」


 アレンはニコッと笑うと一〇本ごと一〇束を、ポーチから出して丁寧に並べていく。


「これは新鮮な。そうか、お前叔父さんからポーチもらってたって話だもんな」


 テッドは真剣な顔でチェックしていく。


「一本も間違いがない。百本、五〇〇〇ギルだ」


 そして穴の開いた銀貨を五枚、カウンターに置くと、


「おーい」


 と後ろに声をかけた。アレンは銀貨をさっとすくうとポーチにしまった。


「なんだなんだ」


 そう言って出てきた人たちは薬師のようで、薬草をさらうように取り上げるとすぐ後ろに戻っていった。


「新鮮な薬草は助かるぜ」

「サラも取ってきたよな」

「うん」

「ああん?」


 先ほどとは全然違う態度に、サラは驚いたし腹も立った。


「見せてみろ」


 横柄な態度だったが、売らないことには話にならない。とりあえずアレンと一緒に取った分を並べていく。


 テッドは驚いた顔をしたが、さっと見ただけで横を向いた。


「薬草じゃないのが混じってる。全部で五〇〇ギルだな」

「待てよ!」


 ショックで一瞬何も言えなかったサラの代わりにアレンが大きな声を上げた。


「俺に薬草の場所と採り方を教えてくれたのはサラだぞ! 俺の取った薬草が正しいのなら、サラのだってちゃんとしてるはずだ」


「うるせえよ。くず交じりでも五〇〇ギルで買ってやろうとしてるのに」


 テッドはそういって薬草をちらりと見たが、それはくずを見る目ではなかった。


 何かわからないけど、気に入らないことがあって、私に意地悪をしてるんだ。サラはそう悟ったので、静かにこう返した。


「わかりました。持って帰ります」

「なんだと」


 あっけにとられたテッドにかすめ取られないように、サラはカウンターから急いで薬草を集めた。


「ま、待て」

「サラ! お前、姉ちゃんがお金置いていかなくて、一文無しなんだろ!」


 アレンが焦って余計なことを言った。テッドはそれを聞いてにやりとした。


「五〇〇あれば一日分のパンが買えるぜ。それになあ、アレン、この薬草、どっから採ってきた。今、薬草足りないの知ってんだろ。みんなで採りに行くから、話せよ」

「テッド、あんた」


 アレンが信じられないという目をした。


 サラだってわかる。


 もし自分が採集の仕事をしていて、貴重なものが生えている場所があったら、その場所は絶対に教えない。ハンターだって自分の狩場のポイントは教えたりしないだろう。


 もし、緊急事態で、採取場所を教えてほしいのなら、きちんとした謝礼を積むなど、それなりの返礼をすべきなのである。


 クリス以外を信用するな。


 ネリーの声が頭に響く。


 もう一人、アレンを信用してしまったけれども。


 サラはまっすぐにテッドを見た。


「薬草は、必要なものだから、どんなに品薄でも余っていても、薬師ギルドは決まった価格で引き取ることになってるってネリーが言ってた。私の薬草は間違えてなんかいない。アレン」

「うん。行こう」

「ま、まて!」


 引き留められても急いで薬師ギルドを出ると、明るい日差しに泉の水がキラキラと輝いていた。


 そのまま二人でとぼとぼと歩く。


 薬草で稼ごうと思っていたから、それがだめとなるとどうしたらいいんだろう。


「とりあえず、ギルドに行こう」

「そうだ。ネリーのこと、聞けるかもしれない」


 今度はしっかりと道を覚えよう。サラは気持ちを引き締め、しっかりと前を向いた。


 アレンは一瞬ちらりと後ろを向いたが、少し悩んで、サラの手をつかんだ。


「さあ、急いでいこう」

「うん!」


 その手は心強かった。



 もう一度、中央門のところに戻って、今度は反対側に行くとすぐに、大きな建物があった。やはり二階建てだが、さっきの薬師の工房よりずっと幅広く、奥行きもありそうだ。


「ここがギルド。正確に言うとハンターギルドだ。受付があるから、そこで聞いてみよう。今暇な時間だから、きっと教えてくれるさ」

「うん」


 さっき、人の悪意に触れたばかりのサラはかなり緊張していたが、アレンに連れられて、やはり両開きのギルドの扉を押した。


「よう、アレン! 金はたまったか!」


 ここでも声がかかった。


「もう少しなんだよ」

「今日は雑用探しか?」

「それもあるけど」


 アレンはサラを見た。サラはうなずいた。


「そこの受付がいい」

「うん。あの」


 ギルドは広いホールになっていて、カウンターがずらりと並び、そこに受付の仕事だろう人がちらほらと座っている。男性も女性もいるが、みんな中年以上の落ち着いた人ばかりだった。


 アレンの指したのは、一番手前のカウンターだった。


「あの、人を捜しているんです」

「依頼かい?」

「依頼?」


 依頼とは何だろう。サラはアレンのほうを振り向いた。


「違うんだ。こいつ、姉ちゃんが町に行ったっきり帰ってこなくて、それで見かけた人がいないか聞きに来たんだよ」

「それならギルドはお門違いだろう」


 がっかりして一瞬うつむいたサラを見ると受付の人は、ちょっと横を向いて大きな声を出した。


「あー、それで、姉ちゃんっていうのはどんな外見なんだ」


 仕事ではない、世間話だというていで話をしてくれようとしているのだとサラは理解した。


「きれいな赤い髪を長く伸ばして、邪魔だから一つにまとめているんですけど、きれいな緑の目で、背が高くてスタイルもよくて」


「あー、あんたが姉ちゃんを好きなのはよくわかった。年の頃と名前は?」


「二〇代半ばくらいです。それから名前はネリー」

「うーん」


 受付の人はうなると、さりげなく周りを見渡した。話を聞いていた人は、みんな首を左右に振っている。


「見た目だけなら女神に似てるんだが、年回りと名前が違うんだよな」


 ほかに特徴はなかっただろうか。


「あの、強くて、優しくて、無口だけど話すと面白くて、頼りがいがあるけど少し間抜けで」


 だんだんと涙声になっていく。


「私の採った薬草を売りに来てくれて、なにかあったら薬師ギルドのクリスに頼りなさいって言ってたのに」


 受付の人はアレンに小声で確認した。


「薬師ギルドは」

「行ったけどクリスはいないって。薬草を値切られそうになってとりあえずこっちに来てみたんだ」

「あー、クリスは今はいねえなあ、確かに。クリス様教徒の反感を買ったか」


 受付の人は天井を見上げた。


「とりあえずその、薬草を見せてみろ。身分証がないと売り買いはできねえんだが」


 サラはアレンを見た。アレンはうなずいた。

 サラはカウンターに薬草を並べた。


「これは。大きさも形もそろっていて、質もいい。これを値切ったって?」

「全部で五〇〇ギルだってさ」


 アレンが吐き捨てるように言った。


「ちっ。ただでさえ薬草が不足してる時に、なにやってんだ、あいつら。お前、ギルドに登録は」


 サラは首を横に振った。


「金は」


 それも横に振るしかない。


「お前は、無一文で、せめて薬草を売ろうとしたら騙されかけたのか」


 その言葉には、確かに憐れみも入っていたけれど、騙されるほうが悪いという響きも混じっていた。世知辛いなあとサラは心の中でため息をついた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ネリーが本名か偽名かわからんけど、みょうじだか通称の方も教えておけばこんなことには……。 [一言] 反クリス派かと思えば信者が何やってるんだか……。
[一言] とりあえずテッドさんは職務規定違反で処分待ったなし
[一言] 平和ボケもたいがにしとかねぇと自殺志願者としか思えんよな
2022/02/04 22:24 退会済み
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