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サラ、提案する

「ヨゼフ。客人とはライオットのことか」

「ライオット殿はおまけです。話があるのはこちら。ハイドレンジアから送られてきた、薬師歴二ヶ月の、イチノーク・ラサーラサ殿」

 一度でサラの名前を憶えていたところはすごいと思う。そしてライオットをおまけだと言うあたりも。そして少しだけ見直した。さっきの会話だけで、ライオットはサラの後押しに過ぎないと理解し、それをちゃんと示してくれたのだ。

「そして招かれ人だそうです」

「招かれ人。ローザで招かれて、今はハイドレンジアにいるという。そうか、君が……」

 やはり、貴族階級の人にはサラのことは知られているのだろう。

「テッド、ローザということは、君ともつながりが?」

「はい」

 テッドが素直に頷いたので、冷静なはずのアレンがびくっとしたのをサラは感じ取った。正直なところサラも驚いた。だって、最初のつながりはテッドがサラたちを不当に扱ったことだからだ。

「ローザではいろいろありましたが、サラは私の妹弟子にあたります。カメリアでは薬師見習いとして修業をしていました」

 サラは今度こそ目が飛び出るかと思った。テッドの言うことは何も間違っていないのだが、そういう言い方をすると、サラがまるで綿密な計画でテッドと一緒に修行していたように聞こえるではないか。

「というと?」

「サラはクリス様の弟子ですから」

 今度こそおおっという声が響いた。サラはこの時点で覚悟を決めた。招かれ人、テッドの知り合い、そしてクリスの弟子。もうサラには隠していることは何もない。

 チェスターは頭が痛いというようにかすかに首を横に振った。

「そうか、ハイドレンジア。クリスと同じところから来た薬師。クリスも一言言い置いてくれればいいのに」

「クリス様はひいきとかはしない人です」

「というよりクリスは誰にも関心はないというのが正しかろう。テッドは相変わらずあいつに心酔しているな」

 苦笑いでテッドをあしらっているあたり、そしてクリスのことをちゃんとわかっているあたり、チェスターという人はすごい人なのかもしれない。だがそのチェスターは、厳しい目でサラのことを見た。

「招かれ人がハンターではなく薬師を目指してくれたことはありがたく思う。だが薬師としてはまだ新人だ。ヨゼフの言うことに従って、新人らしい仕事をすべきだと思うが」

 まったくの正論である。だがサラは言うべきことは言わなければならなかった。

「その通りだと思うし、ヨゼフの指示に従うことに異存はありません」

「それならなぜここに来た」

 眉をひそめるギルド長をサラはまっすぐに見上げた。

「私は薬師になる前、三年間薬草採取で生計を立ててきました。今でも時間があれば採取をします」

「ローザでやっていたのか。あそこは町の外は危険だろう」

 サラは首をふるふると横に振った。

「ローザでもやっていましたが、その前二年間は魔の山に住んでいたので、そこで。それからいろいろな場所で採取をしてきました。ローザは、草原に出なくても町の結界内にけっこう薬草が生えているんです」

「魔の山。それに生計を立てていた?」

 遅れて疑問が出てきたのだろう。その二つを聞き返された。

「そこらへんの事情はおいおいお話します。つまり、私は薬師であるより先に薬草採取が仕事だったし、ローザの町の結界の中でさえ薬草を見つけることができるほど優秀だということをわかっていただければそれでいいです」

 サラはそこを謙遜しても仕方がないと思ったのではっきりとそう言った。

「だから、昨日も東の草原で麻痺草を見つけてくることができました」

「昨日の報告の麻痺草は君か。なるほど。だが同時に危険なので今はやめた方がいいという報告も来ている」

「その報告をするように言ったのは俺です。仕事はハンターで、今は招かれ人のサラの護衛をしていますが、昨日の草原の状態は、なんの対策もなしに薬草採取できる状況ではありませんでした」

 アレンが昨日の状況をきちんと説明してくれた。

「アレンの言う通り、身を守るすべのない人は行くべきではないと思います。でも私には、自分の力で結界を張れるという力があります」

「魔の山に住んでいた時は、ワイバーンをも弾いたという、絶対防御だ。私も一度見てみたいものだが、サラはなかなかダンジョンには行かないようでな」

 ライが気軽に口を挟んできたので、サラは思わず言い返していた。

「ワイバーンは大きくて怖いんですよ。それに虫は嫌いなんです。でも今はその話ではなく」

「すまない」

 だがおそらく、これでライがサラのことをかわいがっていることは伝わっただろう。

「私はローザでもカメリアでもハイドレンジアでも、いつでも薬草類が不足していると薬師ギルドに言われて納めてきましたが、王都に来てみれば王都でも同じです。これはおかしいと思うんです」

 おかしいと言われて、話を聞いていた後ろの薬師たちが身じろいだ。

「それぞれの薬師ギルドの地元で、もっと薬草類を確保できたら困らないと思うんです。納入が多くても収納ポーチを使えばいいし」

 サラは腰のポーチに手をやった。サラの収納ポーチにはいつでも薬草がかごごとおさめられているのだ。

「薬師が薬草採取をするのが嫌だというなら、採取する専門の人を雇ってもいいし、育ててもいい。でも、それは先のこととして」

 サラは採取の話を長々としたいわけではない。

「私の絶対防御は、私だけではなく、他の人も守ることができます」

 本当はバリアと言いたいが、ここはかっこよさそうな技名を使うことにした。ハルトに笑われそうだなと思うと、絶対にこのことは内緒にしておこうと思う。

「手の空いた、採取に興味と意欲のある薬師を私に預けてください。王都の植生は知らないので確約はできませんが、少なくとも薬草は採ってこられると思います」

 意外な提案に即答できずにいるチェスターだが、ライオットがサラの後押しをしてくれた。

「サラも、こちらのアレンも、まだ年端も行かないように見えるが、ハイドレンジアのダンジョンの深層階まで行ける力を持つ」

 ほうっと感心したような気配がする。

「アレンは基本的にはサラの護衛だが、サラと共に採取に出る者の護衛も受け持たせよう。まあ、サラだけで大丈夫だとは思うが」

 チェスターは腕を組んでサラのことをじっと観察している。やがて答えが出たようだ。

「君は女性だ。招かれ人なら、本来は守られて穏やかに暮らすのが普通なんだが」

やはり貴族なので、招かれ人については詳しいのだろう。誰に確認するというわけでもなく、考えたことがそのまま口からこぼれ出たようだ。

「つまり、招かれ人としては、ブラッドリーやハルトと同じと考えていいということなんだな」

 あのハルトと同じと言われると微妙だが、この口ぶりから行くと、少なくともブラッドリーもハルトのこともギルド長は知っていて、その力を認めていたということなのだろう。

「はい」

 サラはそのつぶやきにしっかりと頷いた。

 サラだって守られるのは単純に嬉しい。だが、やりたいことを自由にやりたいのなら、守られているだけでは駄目なのだ。

 そこで驚いたことにテッドが後押ししてくれた。

「ローザでは、町の結界内ですが、薬師を付き添いにしながら安全に薬草採取する試みを一年ほど前から始めているはずです。ですから、少なくとも薬草に関しては王都に不足の要請が来なくなったと思いますが」

 チェスターは今気がついたというように片方の眉を上げた。

「確かにそうだ。さすがクリスと言いたいところだが、もしかして違うのか」

「クリス様は確かに素晴らしい人ですが、これに関してはきっかけはサラです。サラがいつも良質の薬草を採取してくるので、結界内であれば町の人もできるかと思い、始めました」

 そういえばテッドが町の人と薬草採取していたのを見たことがあるなと思い出した。気まぐれではなく、それをちゃんと仕組みにしていたとまでは思わなかったし、サラがきっかけだとしても、それをテッドが認めるとも思わなかったから本当に驚いた。

「本来なら、安全だという君の口約束だけで、行きたくもない薬師を行かせるわけにはいかないのだが。麻痺草どころか薬草類が不足しているのは事実だからな。とりあえず少人数、希望者だけを募ってやってみるか」

 頭が固いと言われていたチェスターは、意外と柔軟にサラの提案を受け入れてくれた。ライオットのおかげもあるだろうし、テッドと知り合いだったというのも大きいかもしれない。

 これで受け身ではなく仕事ができると一安心したサラだったが、一通り声をかけてもらっても、怪しんだのかプライドに触ったのか、集まったのは三人だった。地方から呼ばれてきた薬師はそれなりに使える人だったようで、やってきたのはモナとヘザーのように王都の若い薬師である。

「こんなところだろうと思ったよ」

 ゼロでなければ良しとするべきだろう。人数が多すぎてもサラとアレンだけでは守り切れない。だが、その中にモナとヘザーはいなかった。

「三人でもぜんぜんかまいませんし、参加してくれてとてもありがたいのですが、モナとヘザーはどこでしょう。昨日一緒に採取に行って勉強してくれたので、すでに重要な戦力なんですが」

 今日は顔を合わせてはいないが、サラのことを招かれ人と知っている二人なら、護衛付き薬草採取に行けるとなったら喜んで参加してくれるはずである。

 サラの質問にチェスターがすぐ確認を取ってくれた。

「モナとヘザー? ああ、うちの新人か。ヨゼフ?」

「すべての部屋に声をかけさせたはずです」

 だから来ないのは自分たちの意思だとでも言いたげなヨゼフだったが、サラはおかしいと思った。

「ちょっと昨日の部屋に行ってみてきます」

 サラは大きな作業部屋から昨日連れていかれた部屋に行ってみた。しかし部屋の中はがらんとして誰も来た様子がなかった。


9月25日、書籍5巻発売です。

書影、活動報告に上げてあります!

それから、発売日に間に合うよう、これから10日くらい、

ほぼ毎日更新になります。

ちょっと大変ですがお付き合いくださいませ!

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― 新着の感想 ―
「ライオット殿はおまけです」 普通にやばくないか???笑 貴族として大丈夫そう?処世術学び直した方がいいよ。 ヨゼフの指示がクソだったことも報告しないと。新人任せられないけど? 危険な場所に新人だけ…
[一言] 「招かれ人がハンターではなく薬師を目指してくれたことはありがたく思う。だが薬師としてはまだ新人だ。ヨゼフの言うことに従って、新人らしい仕事をすべきだと思うが」 新人は、いらないといっている…
[良い点] 王都でも これから毎日更新楽しみです! [気になる点] モナとヘザーの安否 ライとチェスターの関係 ヨゼフには是非 痛い目にあっていただきたいと思ってしまいました [一言] 久しぶりに…
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