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もう三泊までできる異世界生活

 その日はそのまま、初めてのキャンプとなった。


 まずは結界箱を二メートル四方になるよう配置する。


 三つ目を置いた時点で、ホワンと結界が立ち上がった。そして四つ目を置くと、その結界が明らかに強固なものになった。


 これで自分の結界を解いても大丈夫だ。


 もっとも、すぐ目の前までオオカミが寄ってきたりするから、安全だと思っても怖いものは怖い。


 それでも結界の中なら安心して調理ができる。


 本当は野菜を切るところから料理をしてみたいが、それは楽しみのためのキャンプだからできること。しかしサラが目標としているキャンプは、長距離を移動するため、あるいは狩りについていくためのものなのだから、なるべく手間をかけず、疲れないようにしなければならない。


 それでもせっかく買ってもらった、いや、自分で買ったキャンプ道具を使ってみたいではないか。


 サラは携帯コンロと小さい鍋を出し、カチッと火をつけた。


 湯が沸いたら、町で買ってきてもらった茶葉を入れ、火を止める。


 携帯ランプの明かりで、茶葉が膨らんで鍋の底に沈んでいくのを見極める。それから、上澄みだけをカップに注ぐ。


「私はそのまま。ネリーはお砂糖。はい」

「うむ」


 ネリーが満足そうにお茶を受け取るのを見て、サラはお弁当の蓋を開けた。


「これがギルドのお弁当なんだ」

「そうだ。久しぶりだな」


 少しずつ備蓄していたギルドのお弁当を、今日初めて実食するのである。


「パン、はいつものパンと同じだね」


 サラはお弁当の一隅にあったパンを取り上げてしげしげと眺める。


「肉、は何の肉だろう」

「オークだな」

「オーク?」

「地下ダンジョンにいる魔物だ。魔の山にはいない。焼きたてはおいしいぞ」

「焼きたては?」


 不吉な言葉を聞いた。


 とりあえず、あと一つ。大ぶりな陶器のカップにしっかり蓋がしてある。


「お野菜のスープ、かな?」


 ランプの明かりにかざしてみるスープは冷えて油が固まっていた。


「腹はいっぱいになる」

「確かに量は多いね」


 パンはおいしかったけれど、肉は固かったし、スープは冷えて脂っこかった。


「みんな収納袋を持ってダンジョンに入るんでしょ」

「買えるようになったら即買うな」

「じゃあ、作り立てを収納袋に入れて売って、買った人がその場で自分の収納袋に入れたら、熱いままなんじゃないの?」

「……冷たいまま売ってるから、そのまま買ってる」


 ネリーは思ってもみなかったという顔をした。


 そもそもお茶を沸かして入れている段階でなんなのだが、魔法は自由に使えるのだから、食べ物の中身だけとか温められないのだろうか。そもそも何もないところから水や火を出すことができる世界の人たちなのに。


 サラはふとそう思いつき、一口飲んだスープに手をかざしてみた。


こんな時こそ魔法の教本を思い出すのだ。


 魔力は自分の思い描いた通りの力になる。自分の魔力量に応じて、無理せず、自由に。


「温かくなれ」


 ふわんとカップから湯気が立ち上った。スープに浮いていた油はなくなり、おいしそうなにおいが漂っている。サラは口をつけてみた。


「おいしい」


 そして、ネリーのスープのカップも温めてみる。


「おお! これはうまい」


 どうやら簡単にできるようだ。


 では、肉やパンはどうか。アツアツだと怖いので、やはりほんのり温める程度に魔法をかけてみる。


「ジューシーじゃないけど、少なくとも少しは柔らかくなったよ! ネリーのも温めてあげる!」

「いや、わたしのは」


 ネリーの肉はもうなかった。


「ま、まあいいや。これでいつでもおいしいご飯が食べられることがわかって収穫だったよね!」

「そうだな。携帯コンロなどいらなかったか」

「あ」


 きっと楽しみだけのキャンプもあるに違いない。うん。



 鍋を軽く洗い、からのお弁当箱とともに収納ポーチにしまうと、サラは今度はマットを出してきて敷いた。ネリーも自分のマットを出して、隣に並べて敷く。


「並んで寝ると嬉しいね」

「そうだな」


 それから、サラは毛布も引っ張り出す。秋の外気は冷たいのだ。特に夜には。


 しかし、隣を見るとネリーは何もかけずに横になっている。筋肉か。筋肉のおかげで寒くないのだろうか。


「ネリー、寒くないの」

「寒くないぞ」

「筋肉があるから?」

「何のことだ? 身体強化の応用で、体の表面を覆うように暖かい層を作っているだけだぞ」


 サラはその常識だろうという言い方にイラっと来た。なんでも身体強化で済ませているところも何となく腹が立つ。


「ということは、私だってバリアを張る応用で、体の周りを暖かくすればいいわけよね」


 サラの負けず嫌いの血がそういうことを言わせてしまった。


「暖かい層を作って、こう」


 いや、顔が息苦しいな。顔は避けてと、温度をもう少し下げて。


「できた」


 なかなか快適である。


「魔法、便利よね」

「普通もう少しかかる。これだから招かれ人は」


 ネリーが少し悔しそうだった。


「ただし、慣れないうちは寝ている間に魔法が切れてしまうから、毛布は掛けておいたほうがいい」

「うん、わかった」


 ネリーの言うとおり、いつの間にか魔法は切れていて、朝のひんやりした空気で目が覚めた。


「ガウッ」


目を開けたらオオカミと目が合った。最悪だ。


「オオカミは、いらない」 

「ん、サラも起きたか」

「ネリー、起こしちゃった?」

「ちょうど起きようと思っていたところだ。おお」


 ネリーは眠そうながらもすっと体を起こすと、町のほうを見て感嘆の声を上げた。


「久しぶりに見る。朝焼けだ」

「きれい」


 この日をはじめに、サラとネリーの外出修業が始まった。


 最初は一泊ずつ。一泊して、次の一日は休んで、荷物の整理をし、新しい携帯食を作って。道沿いから距離を伸ばし、小屋の右手や左手に、そして山の上のほうに向かって。


 湧き水があり、そこから沢が流れ、時には淵となって魔物が住み着いているところもあった。


 険しい岩山があり、その隙間を抜けると花畑になっているところもあった。もちろん、そこここに強い魔物がいた。


 時には身を守るために魔物を倒すこともあり、ワイバーン三頭分の袋など、もう一年もたつ頃にはいっぱいになってしまい、結局はネリーに売ってきてもらうしかない状態になった。


「最大の収納袋を買えば」

「一億も払えないよ」


 ネリーがまるで、ローンで縛り付けておく悪徳業者のようなことを言うので、ネリーのものにしていいから売ってくれと押し付けたのだ。魔物を売ったお金は、


「サラがギルドの会員になったら戻せるよう、別にしておくな」


 と、母親のように大事に取っておいてくれているらしい。


 そして二年たつ頃には、一日中歩きながら三泊するくらいの脚力はついていた。


 最初の一年は10日に一度町に行っていたネリーも、収納袋をもう一つ買い、備蓄を多めに買っておくことで、20日に一度と間をあけるようになった。


 サラはネリーがいてくれることが嬉しいので、それは大歓迎だった。しかし、深まる二年目の秋に比例して、ネリーの顔も浮かないものに変わっていくのが気になってもいたのだった。


筆者の別の作品、「転生幼女はあきらめない」3巻1月15日 発売です!


この機会に、幼児が奮闘する物語を「なろう」で読んでみませんか?


下の作者のマイページからいけます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 双脚豚、双脚羊は食べ物、仕方ないね。
[一言] 最初キマシタワーかと思ったけど、ネリーさんはどうも母親気質のようだね。オカンだ(๑╹ω╹๑)
[一言] 二足歩行で武器を使えるのオークは豚じゃない。安易に真似をして喰うなよ。
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