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不思議な腕輪

「そ、それこそハヤトが残した腕輪で間違いないじゃろう! 師匠に聞いていたものと、特徴が同じだ!」


 興奮した師匠の声を聞きながら、フォーテは腕輪を観察していた。


 ファナから受け取ったその金の腕輪は、実際奇妙なものだった。


 まず、どうしてファナが? という疑問が当然フォーテの頭に浮かんだが、受け取ったその感触に驚き、ファナへの疑問は後回しにした。


 腕輪は不思議な光沢で、金あるいは金メッキされたものではない。同じようなものは見たことがないが、美術品として見たことのある、東国から伝わった漆器に近い光沢だ。


 触れた感触も、金属特有の冷たさは感じられず、またその軽さからこれが普段見たことがない素材であることは理解できた。


 まず、見た目から想像するより、ずっと軽い。木製かと思わせるような軽さだが、それとも違う。


 中央にあしらわれた赤い宝石も、フォーテが知らないものだった。


 指先で宝石、腕輪の金の部分と順番に叩いてみる。


「コンコン」と音を立てて返ってくるその感覚は、それぞれが別の素材だが、何か共通なものを感じさせる軽さがあった。


「お父様の部屋で昔見つけて、コッソリ持ってたんです。不思議な腕輪で気になって……」


 ファナの言葉で、フォーテは思い出した。三年ほど前、父が「ない! ない!」と叫びながら家中何か探したことがあった。恐らくこの腕輪を探していたのだろう。


「怒られると思って言い出せなかったんです……ごめんなさい」


「僕に謝っても、しょうがないだろう? 父さんには一緒に謝ってあげるから」


 励ますようにフォーテが言うと、ファナが申し訳なさそうに頭を下げる。


 フォーテは父について考える。


 もし父がこの腕輪の由来を知っているなら、当然心氣についても知っているだろう。もしかしたら父がフォーテに魔力がないことを責めたりしないのも、フォーテに心氣を覚えさせたかったのかもしれない。


「フォーテよ、その腕輪をつけてみろ」


 ゴーダにかけられた声によって一旦考えは中断される。フォーテはゴーダに言われるがまま、左腕にその腕輪をつけた。


 つけた後で、なぜ右ではないのだろうと自問したが、装着した感覚から、それが正しいことだと自然と理解できた。


「よし、フォーテよ、呪文を唱えよ! 『バーニングソウル! チェンジマギレス!』と!」


「えっ」


 よくわからないが、何か恥ずかしいぞ、フォーテは少し躊躇う気持ちになるが……


「愚図愚図するな! はようせい!」


 ゴーダに急かされ、フォーテは叫んだ。


「バーニングソウル! チェンジマギレス!」


 すると──


 腕輪の宝石が発光し、光の粒子がフォーテの全身を包み込む。その粒子が体の各部位に集まり──


 赤と青の装飾が施された、金色のフルアーマーの姿へと変身していた。


「やはり間違いない! それは『マギレスチェンジャー』という、ハヤトが残した腕輪だ! フォーテよ、体に心氣を巡らせてみろ!」


 フォーテから見ると、ゴーダはまるで少年のようにはしゃいでいる。言われるがまま、心氣を巡らせてみると──


「これは……」


 思わずフォーテがつぶやく。先程心氣を使った時とは違い、心氣が上手く体の中を循環するように、効率よく使用できる。


「その鎧には、体外への無駄な心氣の流出を防ぐ効果がある。しかも自分の意思で、相手に心氣を叩き込んだり、放出することもできると言われておる」


「おお! 凄いですね!」


「しかも、今後お主が心氣を使用するなら、正体を隠す必要がある。その鎧ならお主とはわからんから一石二鳥ということだ!」


「確かに!」


 ゴーダに答えてから、フォーテは体を動かしてみる。


 突きや蹴りといった動作、走る、飛ぶ、全ての動きが今までとは違い、速度も、精度も上がっていた。


 しかも鎧は、まるでフォーテのために造られたように一体感を発揮し、それらの動きを一切阻害せず、むしろ補助するように、動きを高めてくれる感覚さえ覚えた。


 フォーテが色々と試している中、ゴーダは先程フォーテとファナが使っていた木刀を拾い上げた。そして自らの心氣を極限まで高め──


 フォーテの動きから、丁度死角になった瞬間に、木刀を全力で投げた。


 ゴーダが木刀を投げた瞬間をファナは見ていたが、それでも何をやったのか、一瞬理解できないほどの速さだった。


 投げられた木刀が回転しながら、フォーテへと向かう。


 次の瞬間、フォーテは振り向き、飛んでくる木刀を見た。回転する木刀を見定め──


 木刀が地面と平行になった瞬間にパンチを繰り出した。ほんの僅かな、瞬きすら短いと思える時間が過ぎた。にも関わらず、まるで時間が止まったように感じる。


 地面と平行になっていた木刀は、フォーテのパンチを先端に受け、「パン」と安物の火薬のオモチャが爆発するような音を立てて、その刀身を粉々の木屑へと姿を変えた。


 ファナがその凄さに言葉と表情を失うのと対照的に、ゴーダは満足げに笑顔を浮かべた。


 その拳を突き出したまま、フォーテはゴーダへと、興奮を伝えた。


「師匠、これは凄いです! あまりに凄くて目立つので、使いどころは考えないといけないと思いますが。

 では一旦脱ごうと思うので、外す呪文を教えてください!」


 フォーテの言葉に、ゴーダの笑顔は失われ、静かに、短く。


「……えっ?」


 と言った。


「いや、『……えっ?』 じゃなくて外す呪文です」


「……」


「……」


 フォーテ達が鎧を脱ぐ呪文「マギレス、オフ」を発見したのは、日が暮れたあとだった。


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