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目覚め

 結局初日は心氣が置かれている立場、状況の話で終了したため、フォーテは物足りなかった。


 翌日、フォーテは居ても立ってもいられず、日課の素振りや妹とのトレーニングもせずに、早朝からゴーダの道場へとウキウキとした気持ちで向かった。


 ゴーダも今日からの事を思い、落ち着かない朝を過ごしていたので、フォーテの早い訪問は大歓迎だった。


「おお、早いな……では今日から本格的な訓練を開始しよう」


「はいっ! 師匠!」


「まずは心構えからじゃ! 魔力はこの世界の(ことわり)の追求、心氣はこの世界の理を、精神で越えることへの追求、これはワシの師匠の言葉じゃ」


「ちょっと何言ってるか良くわからないですけど、凄そうですね!」


「ははは、コヤツめ。まあ考えるのではなく、感じろって感じじゃな」


「わかりました! 考えるのやめます!」


「いや、それはそれで問題じゃ、お主極端過ぎるのう……」


 さて、何から教えようか……ゴーダが迷っていると、フォーテが質問してきた。


「ちなみに、心氣の習得にはどれくらいかかるのですか?」


「そうじゃな……コツコツやれば、十年くらいじゃないかな」


「十年ですね! 頑張ります!」


 拳を握りしめて答えるフォーテに、ゴーダはやや呆れたように話す。


「お前、前向きだな。普通なら『え、十年も!』とか言うよ?」


「いや、かかっちゃうものはしょうがないんで!」


「そりゃそうなんだけども。ちょっと危険だがもう少し短い方法もある。そもそもワシが十年生きとるとも限らんしな」


「あ、じゃあそっちで!」


 ゴーダはシンプルに、コイツ浮かれてるな、と思った。ただ魔力が無いというだけで、フォーテが今まで蔑まれていたことは想像に難くなかったので、このテンションにしばらく付き合う事にした。


「よし、まずは上着を……脱げ!」


「はいっ!」


 フォーテは言われるままに、上着を脱いだ。


「よし、後ろを向け!」


「はいっ!」


 ゴーダはフォーテの背中に手のひらを添えた。


「今からお前に、ワシの心氣を送り込む。心氣を感じ、目覚めるきっかけするためだ。とはいえ、一気に入れるとお主が壊れてしまうから、じわじわとな。辛かったら言ってくれ」


「わかりました!」


 フォーテの返事を聞いて、ゴーダは集中した。加減を間違えてしまえばフォーテは廃人になる恐れさえある。


「ふん!」


「うっ!」


 その瞬間、フォーテは背中から熱が伝わるような感覚を覚え、それを口にする。


「し、師匠! なにか、とても、あ、熱いです!」


「もっと感じろ! 今お主とワシは一つとなっておる!」


「しかし……!」


「我慢しろ! 最初は苦しいかもしれん! しかしそれを乗り越えれば、自然と感じることができる!」


「わかりました、くっ、くっ!」


 ゴーダの送り込んできた心氣に最初は慣れないフォーテだったが、次第に自分の中にある、同じ力が感じられるようになってきた。


「し、師匠、感じてきました! 目覚めそうです!」


「おお、ではワシも本気を出すぞ!」


 ──と


 突然、庭に通じる扉がバタンと開いた。


「兄さん! 変なことに目覚めないで!」


 飛び込んできた人影をフォーテが見て、妹のファナだと気がついた瞬間、声に驚いたゴーダが必要以上の心氣を送り込んでしまい、フォーテは気絶してしまった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 ──今朝のこと。


 昨日帰ってきてから、兄の様子がおかしい、ファナはそう感じていた。


 ファナが話しかけても、どこか上の空だった。こんな兄は初めてだった。


 しかも、ファナが物心ついた頃には既に始めていた、毎日一度も欠かしたことのない日課をサボって、ウキウキと出掛けた──ファナにはそう見えた。


 もしかして、マチルダさんに会いに? そう思ったが、それは考えにくい。彼女には兄の良さがわからないだろう、兄はあの女の事なんて忘れるべきだ、とファナは思う。


 あまりにいつもと違う兄の様子が心配になり、ファナは後をつけることにした。


 しばらくすると、兄はボロボロの建物に入っていった。ファナは自分の通う道場で、この建物に住むという怪しい老人の話を聞いたことがあったので、ますます心配だった。


 はしたないとは思いながらも、ファナはなぜか扉が無い建物の入り口からそっと中の様子を伺った。


 老人と、兄が話しているようだが……ここからでは聞こえない。


 ファナは庭へと回り、扉に耳をつけて中の様子を盗み聞きした。断片的ではあるが、二人のやり取りが聞こえてくる。


 「……脱げ!」「後ろを向け」「目覚めるきっかけ」「一気に入れると……壊れてしまう」「じわじわと」「辛かったら言え」「ふん!」「うっ!」「熱いです」「もっと感じろ!」「一つとなっておる」「我慢しろ! 最初は苦しいかもしれん」「それを乗り越えれば」「感じることができる」「わかりました、くっ! くっ!」「し、師匠! 感じてきました! 目覚めそうです!」「おお……出すぞ!」


 ──ファナの焦りは限界だった。よくわからないうえに、なんとなくだけども、このままでは兄はとんでもないことに目覚めてしまう。


 魔力が無いことや、許嫁に蔑ろにされることで、兄は追い込まれ、騙され、変な道へ進もうとしているに違いない。


 手遅れになる前に、いや、すでに手遅れかもしれないが兄を助けなければ。


 ファナは道場へと飛び込んだ。

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