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お金持ちの神さま  作者: 宗園やや
6/13

5

それでは、甘衣神の新生活を紹介しよう。


朝は六時前に目覚める。

少し早いが、髪が長いので手入れの時間が必要なのだ。

私は毛染めをしないので、濡れた様なツヤを出して美しさを維持しなければならない。

誰かに見せる為とかではなく、女の子としての当然の嗜みだ。

自宅の二階部分の全てが私の居住スペースで、お風呂等の水周りは全て揃っている。

小さなキッチンも有り、買い物をラッキーに頼めば自分で料理も出来る。

だけどラッキーの方が料理の腕が上なので、三食全てを彼女に任せている。

執事の遊坂が私の部屋に運んで来てくれる朝食は軽め。

引っ越して来てからそれなりの日数が経ったので、ラッキーは私の好みを大まかに把握してくれた。

だから、食事は基本的に和食である。

私は生野菜が苦手なので、洋食の時でもサラダは出ない。

でも野菜は絶対入れて来る。

予鈴が鳴ってから登校しても余裕で間に合うので、慌てず騒がずTVを見たり新聞を読んだりする。

別に新聞を読みたい訳ではないが、理事長は世の中の流れを知っておかなければならないと松永が言うので、仕方なく。

八時を適当に過ぎたところで制服を着る。

ラッキーが毎日アイロンを掛けてくれるので、ワイシャツとキュロットスカートはパリっとしている。

一階に降りると真句郎が待っていて、鞄を持ってくれる。

真句郎とラッキーと遊坂は一階部分で暮らしていて、いつでも待機してくれている。

不意のお願いにも即座に対応すると言ってくれているが、今のところは身勝手なワガママを頼んだ事は無い。

そして登校。

ボディーガードの真句郎を廊下に残し、教室に入る。

唯一の女子である私は腫れ物を扱う様にされていたが、最近は普通のクラスメイトとして溶け込んでいる。

ただ、同年代の女子の平均から見ても背が低い方なので、成長期まっただ中の男子しか居ない教室内では一番のチビだ。

そのせいで子供扱いされている気がしないでもない。

嫌われるよりはマシだが、同い年に年下に見られるとちょっとイラっとする。

それ以外はごく平凡な中学生の学生生活、授業風景で、特に語る事は無い。

お昼休み。

風紅学園には給食、食堂、食料品の購買が無い為、お弁当を持参しなければならない。

ごく一部のお金持ちな家の生徒のみ、メイドや爺やさんが出来立てを持って校内に入って来る。

なので、ずっと廊下で控えている真句郎の存在も、慣れてしまえば誰も気にしなくなった。

入学初日のアレは、大人が教室内に入って来たので驚いただけらしい。

その時に絡んで来た茶髪の不良くんも、実は爺やがお弁当を持って来てくれるタイプの人間だった。

本人は家の人間が来る事を嫌がって何やらブツブツと文句を言っていたが、今では無言でお弁当を受け取っている。

私は自宅に帰り、ラッキーが作ってくれる出来立てで美味しい昼食をゆっくりと取る。

この時ばかりは一階のキッチンで食べる。

時間に余裕が有るとは言え、わざわざ二階に上がる手間が勿体無いからだ。

放課後。

中学生なので部活は必須なのだが、私には理事長になる為の勉強が有るので免除されている。

掛け持ちと言う形でなら入っても良いと言われたが、無駄にやる事を増やしても疲れるだけなので何もしていない。

余裕とチャンスが有れば、何らかの部活動を経験したいとは思っている。

理事長室で松永からの教育を受けた後、夕方六時半に下校。

夕飯までの空き時間を使い、インターネットの動物動画を見て癒されるのが最近のマイブームだ。

貧乏だった頃は高価なパソコンを持てなかったので興味は無かったのだが、備え付けてあったから触ってみたのだ。

使ってみると、これはヤバイ。

パソコンが有ると、好きな動画を好きなだけ見られる。

そんな生活に慣れ、ネットに没頭するのも危険な予感がするので、実際にペットを飼って良いかとラッキーに訊いてみた。

すると、ふたつ返事で飼っても良いと言われた。

自分で世話が出来るのなら、と言う条件付きだが、どんな動物でも買って良いそうだ。

折角の一軒家暮らしなんだから、大型犬とか良いかも。

そう思いながら、早速次の休日にペットショップに行ってみた。

喜び勇んで出掛けたのだが、可愛らしい子犬や子猫を見たら、急に萎えた。

運転手をしてくれた真句郎にも不思議がられた。

スキップする勢いで店内に入り、鳥、爬虫類、熱帯魚、そして犬猫を輝く瞳で見詰めた後、突然素に戻って帰ると言い出したんだから当然だ。

自分でも奇妙な行動だと思うが、なぜ萎えたのかが分からないんだから対処のしようが無い。

どの子も愛くるしくて全員連れて帰りたいと思ったのに、どうしてだろう。

適当な後付だが、これからの世話を想像したら面倒になったのかも知れない。

下の世話、しつけ、そして最後の時からは決して逃れらないのだから。

もしもそうなら、幼い頃からの宝物である『たまごパンダのぬいぐるみ』を抱っこしていれば十分って事か。

話が逸れた。

動物動画で癒されたらお風呂に入り、夕食。

その後、就寝まで読書やゲーム。

小学生の頃はお小遣いが無かったのでゲームと言う物に縁が無かったが、やってみると凄く面白い。

ネットと同じく、やり過ぎると寝不足になる。

授業はともかく、理事長としての勉強が辛くなるので時間を決めてキッチリ止める。

読書は、基本的にマンガ。

小説はゲームと同じく長いので、止め時が難しいから苦手だ。

就寝は大体十時を過ぎた辺り。



「ちょっと待ってください」


私の一日の過ごし方を聞いていた松永が、引き攣り笑顔でメガネを指で押し上げた。


「いつお勉強をなさっているんですか?」


「授業中ですが?」


私の返事を聞いた松永が、理事長席の上に置いてある紙の束を手の平で叩いた。

その荒々しい行為に驚いた私は目を丸くする。

暴力的な人は嫌いだ。

好きな人なんて居ないだろうが。


「中間テスト平均点が50点。英語に至っては30点。酷過ぎます」


コメカミに血管が浮かんでいる松永を刺激しない様に、私は可愛らしい感じの上目使いになる。

語尾を伸ばすと逆効果になる相手なので口調はしっかりと。


「いやまぁ、確かに良い点じゃないですけど、私はずっとこんな感じでやって来たんですよ」


「どう言う事ですか?」


テスト用紙の束から手を離した松永は腰に手を当てる。


「女の子はちょっとおバカな方が可愛いから、勉強では本気を出すなと母に言われていたので。ただ、本当に成績が悪いのは将来が不安になるので――」


私は上目使いを止め、今日帰って来た採点済みのテスト用紙の束に視線を落とす。


「半分くらいの点数で良いかな、って感じで」


「つまり、お母さんの言い付けを守り、ワザと50点を取ったと言う事ですか?」


「はい」


頷いた私は、真句郎が淹れてくれたカフェオレを飲む。

そんな私を軽く睨んだ松永は、少し間を開けてから口を開く。


「では、本気を出せばもっと良い点数を取れる、と?」


「え? いや、そこまでは言いませんけど。でもまぁ、10点くらいは上がる、かな?」


「そうですか」


松永は改めてテスト用紙の束を手に取る。

今度は点数を見ず、じっくりと問題と答えを見比べる。


「……確かに、国語のテストは無記入が目立ちますね。書いてある部分は正解。点数調整の跡が見えます。しかし、英語はこれが本気の点数みたいですね」


「そうですね。英語に縁が有りませんでしたし。アルファベットの並びをド忘れしたのが痛かったです」


「分かりました。テストについては後で考えます。今日も理事長修行に励みましょう」


「はい」


理事長席に二人で座り、仕事の書類を広げる。

修行に慣れるまで理事長と校長の区別が付かなかったが、最近、やっと分かって来た。

校長は学校で一番偉い人で、理事長は学校の持ち主、と言う事らしい。

だから、私の仕事は学校の経営になる。

人事に口出しも出来るみたいなので、先生達は勿論、校長さえもクビに出来る様だ。

つまり、この風紅学園で一番偉い校長より上の立場に居る。

その分責任は重く、失敗は許されない。

なので現在の経営は全て松永が取り仕切っている。

彼女の仕事ぶりを解説付きで見て、それを覚えるのが今の仕事だ。

正直言って松永が何をしているのかはチンプンカンプンだが、三年後にはその全てを私一人で出来る様になっていなければならない。

先は長く険しいが、修行に成功しなければ多蛇宮の家に入れないので頑張ろう。



そして翌日。

今日も放課後に理事長室へと向かう。

しかし、部屋の中に松永の姿が無かった。


「あれ? 誰も居ない。真句郎、何か聞いてますか?」


一歩後ろに控えている執事服のボディーガードは首を横に振る。


「いいえ。連絡は何も受けておりません」


「そう……。どうしたら、良いのかな」


初めての事なので、私は思いっ切り戸惑う。

見兼ねた真句郎が私の前に出てから口を開く。


「お手洗いかも知れませんし、しばらく待ってみましょう。少し早いですが、お飲み物を用意致します」


「そうですね。お願いします」


私は理事長席に座り、真句郎は流しの方に行った。

このままお茶をして終わりになれば楽なのだが、残念ながら数分後に松永が戻って来た。


「お待たせして申し訳ありませんでした。今日は理事長修行をお休みにします。真句郎くん、お茶を淹れているのなら中止です」


「はい」


真句郎が奥の方から返事を返す。

松永は、その返事を聞きながら理事長席の前まで来る。

厳しい表情をしているので嫌な予感がする。


「先日のテストの結果を受けて、スケジュールの変更をします」


「変更、ですか? 急ですね。何か有ったんですか?」


「理事長修行のせいで成績が悪いと会長に判断されたら、私の評価も神様の評価も下がります。お勉強しましょう」


「えー……。お勉強ですかぁ? うーん……」


私が不満の声を出すのを予想していたのか、松永はそれを無視して話を続ける。


「では、生徒会室に移動します。詳しい説明は、そこでします」


「生徒会室? どうして?」


「移動すれば分かります。ちなみに拒否は不可ですよ。生徒会の皆さんの前で無様な姿を晒さない様に」


「はーい……」


渋々立ち上がった私は、松永と共に理事長室を出る。

真句郎は一歩遅れて付いて来る。

生徒会執行部室は二階の一番奥に有り、理事長室周辺より人の気配が少ない。

そんな部屋のドアをノックする松永。

どうぞと返事が有り、私達三人は執行部室に入る。

中は理事長室とほぼ同じ様な風景だった。

生徒会長の席に、応接セット。

ただ、それらは物凄く安っぽい。

絨毯も無い。


「ようこそ、生徒会室へ。理事長」


二人の男子生徒が私達を出迎えてくれた。

両方共、月曜朝の全校集会で良く見る顔だ。

生徒会長の保谷家勇一郎くんと、副会長の上原仁くん。


「突然の申し出を受けて頂き、感謝します。調整はどの様にされましたか?」


松永の声が弾んでいる。

なぜ上機嫌になっているんだろうか。


「ええと、我々が理事長に数学と英語の特別講師をする、との事ですが、そのふたつだけで宜しいのですか?」


身長が高くてスマートなイケメン生徒会長が言う。

事態が飲み込めないので無言で松永を見上げてみると、心成しか顔が赤くて鼻息が荒い。

まさかこの人、中学三年の男子に興奮しているのか?

良い年して何考えているんだか。


「はい。時間は有限ですので、それだけでお願いします。まだ一年の一学期ですので、そのふたつが何とかなれば後々楽になると思いますし」


松永は、そう言いながら私の肩に手を置く。

あれ?

何で私の肩に指が食い込んでるの?

痛いんですけど。

前々から思ってたんだけど、松永は私の思考を読んでいるんじゃないのか?


「なるほど」


生徒会長と副会長が目で会話する。

その後、私を見てから頷く生徒会長。


「では、火曜と木曜、放課後にこの執行部室で勉強会を開きましょう。数学は私が教えます」


「今はまだ来ていませんが、英語は書記の椎名に任せます。彼は帰国子女で英語に堪能なので適任でしょう。ただ――」


続いて副会長が言う。

彼は少し神経質っぽくて、性格が厳しそう。


「理事長もでしょうが、私共にも忙しい場合が有ります。その時は予告も無しにお断りさせて頂きますが、宜しいでしょうか」


私の肩から手を外した松永は、上機嫌で頷く。


「勿論です。生徒会運営を優先してください。――では神様。なぜ彼等に特別講師をお願いするのか。その説明をしましょう」


「はい」


「私が勉強を教えられれば良いのですが、さすがにそこまでは手が回りません。そこで成績優秀な生徒会の皆さんに特別講師をお願いしました」


メガネを押し上げる松永。


「ただの講師なら一般生徒でも良いのですが、理事長の成績が良くないと言う噂が漏れては本末転倒です。その点、彼等の口の堅さは信用出来ます」


「口の堅さ、ですか。なら、普通に家庭教師を雇えば良いのではないでしょうか」


私がそう言うと、松永は一瞬だけ固まった。

しかしすぐに立ち直り、中腰になって私の耳元で囁く。


「家庭教師は、期末テストの結果を見てから考えます。外部の者を招くには、会長の、神様のお爺様の許可が必要ですから」


成績を上げるのは私と松永の評価の下落を防ぐ為なので、多蛇宮に家庭教師派遣の申請をするのはリスクが高い。

だから出来るだけ学校内で解決したい、と松永は言う。

何だか言い訳臭いが、まぁ良い。

勉強しなければ私の立場が悪くなるのだったら、勉強しなければならないだろう。

その為に彼等の協力を受け入れるのは私の得になる。

正直面倒臭いが、お金持ちになる為に我慢しよう。


「分かりました。宜しくお願いします」


私は最高の笑顔を生徒会の二人に向け、頭を下げた。

それにより、生徒会室での勉強会開催が決定した。



そして、次の火曜。

勉強を教えて貰いに執行部室に行くと、生徒会長が一人で待っていた。


「お待ちしておりました」


「宜しくお願いします」


生徒会長に向けて深く頭を下げた私は、一呼吸置いてから振り向く。

ボディーガードの真句郎が生徒会室内に入るのは仕方ないとして、なぜ松永まで付いて来ているのだろうか。

仕事から手が離せないから生徒会の人に特別講師を頼んだのではないのか。


「まぁ、今日は初回ですから。神様がちゃんと勉強をなさっているかを確認したら退散します」


そう言う松永の視線は生徒会長の方に向いている。

この女、何が目当てだ。


「では始めましょうか」


私達の心を知らずに安物のソファーに座る生徒会長。


「はい」


松永を気にしても始まらないので、私も生徒会長の隣に座る。


「まずは中間テストで出題された問題の復習から」


私が持参した勉強道具を広げると、すぐに最初の勉強会が始まった。

中学で最初のテストは小学校で習った物の復習みたいな感じなので、内容自体はそんなに難しくはない。

なので、約一時間の勉強会の内に全ての問題を理解する事が出来た。


「今日はこれで終わりにしましょう。お疲れさまでした」


「ありがとうございました」


私は教材を片付け、真句郎は空になったふたつのコーヒーカップを片付ける。

松永はいつの間にか居なくなっていた。


「テストの点数が芳しくないからと始めた勉強会ですが、理事長の理解力はかなり優秀だと思います」


「生徒会長の教え方が丁寧で分かり易かったからですわ」


得意のスマイルで生徒会長を持ち上げる。

実際に分かり易くて集中出来たからこそ、松永の退室に気付かなかった訳だし。


「この調子なら期末テストは期待出来ますね。頑張りましょう」


「はい。今後も宜しくお願いします」



その二日後の木曜日。

二回目の勉強会の日だ。

執行部室で待っていたのは、私よりちょっと背が高い位の小柄な生徒だった。


「俺は一年三組、椎名光です。書記を務めています。宜しく」


なるほど、だから松永は付いて来なかったのか。

彼女の好みは生徒会長だけで、美少年なら誰でも良い訳じゃないらしい。


「宜しくお願いします。えっと、貴方は英語を教えてくださるのかしら」


「はい。ただ、俺が行っていたのはイギリスだったので、テストに役立つかは分かりません」


何か言い方が冷たいな。

初対面なのに私が嫌いなんだろうか。

まぁ、一目見ただけでどうしてもウマが合わないと分かる人が居るのも事実だから気にしないでおこう。


「イギリスだと何か問題が有るんですか?」


「日本のテストはアメリカ英語が基礎みたいですから」


「イギリスの英語とアメリカの英語は違うんですか?」


「基本は同じですが、物の名前とかが微妙に違うんです。英語の先生がそれをご存知なら問題はありませんけど」


「へぇ……そうなんですか。知りませんでした。やはり英語は難しいんですね」


笑顔で言うと、椎名くんは私を鼻で笑った。


「理事長と言う立場の人は、人事権も持っているんですよね? 英語の先生が語学に堪能かどうか、知っていますよね?」


ああ、やっぱり。

コイツ、私が嫌いなんだ。

この学校に来てから嫌われまくりだな、私。

でもケンカ腰にカチンと来るほど私は短気ではない。


「いえ、知りません。恥ずかしながら、私はまだまだ未熟なんです。その判断は、帰国子女の椎名くんの方が得意でしょうね」


笑みを絶やさずに返すと、椎名くんはハトが豆鉄砲を食らった様な顔をした。

私が素直に非を認めるとは思っていなかったんだろう。


「なので、気になる事が有りましたら、ぜひ私に教えてください。とても助かります」


「わ、分かりました。では勉強を始めましょう」


椎名くんは、バツが悪そうに応接セットを進めて来る。

勝った。

しかし勝ち誇ったりせず、平静を装う。

自分のプライドを保っても腹の足しにもならない、が母の口癖だった。

椎名くんの鼻っ柱を折ってやるのは気分が良いだろうが、それこそ何の得も無い。

今後ギスギスするだろうから、むしろ損しかない。

なので、一定の距離を保った人間関係を作るのがこの場のベストだろう。


「お願いします」


向かい合ってソファーに座ると、椎名くんは一冊の絵本をテーブルに置いた。


「言葉と言う物は、覚える物でも習う物でもありません。生活の一部です。日頃から聞いて話さなければ身に付きません」


私の目を見て言う椎名くん。

母に似て小学生中学年並みの体格しかない私が抱く感想ではないと思うが、椎名くんって頭が小さいな。

顔も可愛い。

ここが共学校ならモテモテだったろうに。

そんな私の視線を全く気にせずに絵本を開く椎名くん。


「ですが、最初は子供向けの教材の内容を丸暗記する事から始めます」


「丸暗記? 覚える物じゃないって、今……」


椎名くんは私の言葉を遮る。


「テストの点数を稼ぐ勉強は、話せる事とはまた別の技術です。俺自身、その違いを把握していません」


絵本を私の方に向ける椎名くん。

外国の絵本らしく、文化の違い丸出しの絵がそこに有る。


「ですから、分かりやすく基礎から始めましょう。子供の本が読める様になれば、紙でのテストも何とかなると思います」


「そう言う物でしょうか……? まぁ、基礎は大切ですよね。分かりました、頑張ります」


とは言ってみた物の、外国語をすんなり習得出来るはずもなく、初日は何の成果も無く終わった。

椎名くんの教え方がつっけんどんなのも相まって、勉強会が終わる頃にはヘトヘトに疲れていた。


「まぁ、最初はこんなところでしょう。英語の授業も有りますし、ジックリと英語に慣れて行きましょう」


「はい……」


私は力無く頷く。


「字幕の海外映画を、どう翻訳しているかを意識しながら見るのも良いですね。では、俺はこれで帰ります」


「ありがとうございました……」


本気で疲れた私は脇目も振らずに自宅に戻り、制服のまま一階のキッチンに入る。


「後先考えずにケーキをホールで食べたい気分なんです、私。脳が糖分を要求しているんです。お願い出来ますか?」


わがままを言ってみたら、釣り目のメイドは申し訳なさそうな顔になった。


「ホールのケーキですか? 買わないと有りませんねぇ。作るにしても材料が有りませんし、夕食の準備も有りますから……」


ラッキーの視線が真句郎に向く。

私も真句郎を見る。

すると、真句郎はやれやれと言った感じで車のキーを私に見せた。


「ボディーガードが神様から離れるのは良くないのですが、今日は本当に頑張っていらっしゃいましたので、特別に買いに行きましょう」


「やった! ありがとう、真句郎!」


両手を上げて喜ぶ私。

こんなわがまま、普通なら絶対に通らないと思う。

だけど今の私には聞いてくれる人達が居る。

お金持ちって素晴らしい。


「どの様なケーキを御所望ですか?」


「甘い物を食べたいだけなので、何でも良いです。あ、本当にはホール丸ごとは食べられないので、真句郎達も食べる事を考えてください」


「分かりました。では、行って参ります。私が留守の間は、特に戸締りに注意してくださいね」


「はーい。いってらっしゃーい」


上機嫌で手を振って真句郎を見送った私は、ラッキーにも手を振ってから二階に上がった。

勉強や修行が辛くても、こう言う楽しみが有ると乗り切れる気がする。

うふふ。

さて、着替えて動物動画でも見るか。

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