エピローグ
一学期最大のイベントである体育祭は無事に終わった。
数百人の男子生徒に交じって小さい女の子が一人でウロチョロしていた様子はさぞ滑稽だったろうが、もう終わった事だからどうでも良い。
平穏な日々が戻って来たのだから。
また、私が椎名くんの性別をバラしたんじゃないかって言う誤解も解けた。
噂の元凶は、会計の相原くんだった。
思い出してみると、椎名くんが貧血で倒れた時、執行部室内に相原くんも居た。
騒ぎの流れを見て『女の子みたいだな』と思ったんだそうだ。
その時の事を友人と談笑したので、そこから他に漏れたらしい。
悪意が無かったとは言え、不注意で椎名くんの立場を悪くしてしまった事を本人が反省し、その問題は解決した。
色々有ったお陰で椎名くんの態度も柔らかくなり、その後の勉強会は滞りなくこなせた。
そして迎える期末試験。
これで悪い点を取ったら、夏休み中も勉強会をしなければならない。
さすがに休み中は生徒会のみなさんを頼る訳にはいかないので、家庭教師を雇う事になる。
そうなると、お金持ちの夏休みと言う美味しいシチュエーションを勉強で潰してしまう。
それだけは絶対に嫌だ。
だから必死で勉強をしたのだが、本気で勉強した事が今まで無かったので、どうにも自信が無い。
テストが終わってからも不安でイライラしていたので、夏休み中に着る予定の服を買って鬱憤を晴らした。
もしも結果が悪かったら、買った服のほとんどが無駄になるぞアッハッハー。
って思いながら訪れた今日はテストの返却日。
足取り重く自宅を出て、目と鼻の先に有る校舎へ登校する。
そして帰って来るテスト用紙達。
気になる結果を自分で計算してみたら、平均80点弱だった。
これは悪くない?
むしろ良い方?
放課後、ドキドキしながら理事長室で待つ松永にテストの結果を見せる。
「どう? 松永」
訊いても無言の松永は、電卓を使って平均点を正確に割り出した。
「どうですか? って訊いてるの。私は不安なんですから、何か言ってください」
「失礼しました。正直に申しますと、一歩足りない、と言うのが感想です」
冷たく言った松永は、この世の終わりみたいな顔になっている私を見てからメガネを指で押し上げた。
「ですが、神様はとても頑張っていましたし、今回はこれで良しと致しましょう」
「え?」
「お勉強に気を取られて理事長修行が疎かになるのも問題ですし。勿論、二学期の中間テストの結果が下がった場合は、分かっていますね?」
「って事は、夏休みは普通に遊んでも良い、って事ですか?」
恐る恐る訊くと、松永は真顔で頷いた。
「やったー!」
嬉しさの余り、両手を上に突き出して喜ぶ私。
一学期は本当に辛かったので、思いっ切り遊んでやる!
「その前に。終業式では、ちゃんとスピーチしてくださいね。入学式の時みたいに、勝手に省略しない様に」
「いや、ですから、式のスピーチなんて誰も聞いてませんってば。今度の原稿は始めから短くしてくださいよ。それなら読めますから」
私は間違った事を言ったつもりはなかったのだが、松永の顔が強張ったので身を縮めた。
「それはつまり、夏休み中も毎日理事長修行がしたいって事ですか?」
「え? どうしてそうなるんですか」
「理事長としての自覚が足りないのなら仕方が無いでしょう?」
松永は、メガネを光らせながら「どうしますか?」と訊いて来る。
「ぐぬぬ……。わ、分かりました。ちゃんと読みます……」
これからも私は楽が出来ない様だ。
だけど、それなりに楽しい事も有るから、まぁ良いか。
中学校卒業まで、まだまだ先は長い。
周りの人に殺されない様に、私らしく可愛らしく生きますか。




