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星の彼方 絆の果て  作者: 武石勝義
第三部 叛逆者たち ~星暦八八〇年~
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Interlude

(《星の彼方》で観測された電波の解析は、九割方済んだわ)

(概ね予想通りで間違いない、といったところだね)

(これから我々が取るべき方策はふたつだ)

(ひとつは連中が我々の存在を発見する時期を見極めること)

(もう一つは連中の干渉を排除する手段の検討及び選定と、その速やかな実施ね)


 青々と茂る木々の下、木漏れ日の差す小径を散策するアンゼロ・ソルナレスの脳裏を、数え切れないほどの思念が口々にさえずるかのようによぎっていく。


 だが個々の思念は好き勝手に言いたいことを言い合うのではなく、それぞれの思念とのコミュニケーションを恐るべき早さで果たしながら、さらに己の味つけを加えて意見を交換している。無論ソルナレスの思念も、これらのコミュニケーションに深く関わっている。


 このやり取りはヒトの脳の神経細胞が互いに作用する様に近い。というよりもヒトとヒトのコミュニケーションとは、突き詰めればそれぞれに集約された脳神経細胞同士の絡み合いと変わらないように思う。スケールの大小の違いはあっても、本質的な部分は不変なのだろう。


 それがソルナレスを始めとする、《スタージアン》の共通認識である。


(この期に及んで、銀河連邦の政情が不安定化しているわ)

(この状況が果たして吉と出るか凶と出るか、いずれにしても我々にはどうしようもないよ)

(今のところ奴らが我々に対して手出し出来ないようにね)

(そもそも私たちがこうして《繋がって》いるのは)

(人類社会に干渉するためじゃない)


 膨大な思念の交換にも、一息つくともいうべき空白がある。散策する足取りはそのままに、ソルナレスはその一瞬の間を推し量ったかのようなタイミングで、声に出して一言呟いた。


「まがりなりにも銀河連邦に属する我々も、この政情不安から無縁では居られないだろう。であれば奴らの排除に当たって、この状況を利用することも考慮するべきではないか」


 覆い被さるように繁る枝葉が通り抜ける風に揺られて、ソルナレスの頭上から擦れ合う音が降り注ぐ。そのざわめきに被せるようにして、再び思念の交換が再燃する。


(確かに、彼らの方から我々に関わってくる分には、お互いに干渉せざるをえないからね)

スタージア(うち)の連邦評議会議員が帰国するのは来月だっけ)

(概ね状況は把握しているけれど、裏付けを取るにはちょうど良い頃合いだ)


 ソルナレスは涼しげな表情を保ったまま、怒濤のように押し寄せる思念の数々の全てに耳を傾けている。


 それぞれの思念がそれぞれの方向性を備えてはいるが、全体的な潮流は定まっている。それは誰が決定するものでもなく、例えれば回遊魚の群れが海中で進む先をごく自然に共有するのと同じことだ。膨大な思念の集合体である《スタージアン》の方向性は、彼らの意志だけが決定づけるものではなく、彼らを取り巻く状況も加味されて、徐々に収斂されていく。


 緑の小径はやがてその先にぽっかりと出口を開けて、ソルナレスが森を抜けるのを待ち構えていた。木陰に遮られていた朝日の光に晒されて、ソルナレスは微かに目を細めた。そこに広がるのは博物院公園と呼ばれる広大な緑地である。緑地の中央に聳えるのは、様々な催しの会場となる屋外ステージだ。その陰に隠れて、スタージア博物院の姿がわずかに覗く。


 彼が散策していた森林も含めて、博物院公園の中にはいくつかの建造物が点在している。緑地の地下にはそれらを結ぶ通路が迷路のように張り巡らされているが、ソルナレスは地上を歩くことを好んだ。今日のように天候に恵まれた日ならなおさらだ。それは彼が《スタージアン》に《繋がる》前からの傾向であり、《繋がって》からもなお彼個人の内に保たれている、数少ない気質である。


 屋外ステージの陰に半分以上隠れていた博物院は、ソルナレスが歩を進めるに従って、やがてその全景を現した。


 南北に横たわる長大な建物は、スタージアに現存するあらゆる建造物の中でも群を抜いて大きい。その長大さゆえに、博物院の姿を視界に認めてからも実際に近づくまでに、なおしばらくの時間を要することになる。《星の彼方》から現れた《原始の民》が、この星に降り立ったときの宇宙船そのままの姿と伝わる博物院は、この銀河系に住まう全ての人々のルーツの象徴であり、また博物院長の肩書きを持つソルナレスの居城でもあった。


 この博物院と同等の宇宙船を作り上げる技術は、今の銀河系人類には不可能だ。スタージアに降り立って以来、人類の知恵と歴史を蓄積し続けてきた《スタージアン》をもってしても、おそらく難しいだろう。果たしてどれだけの技術力・科学力があればこんな宇宙船を建造することが出来るのか、それは《スタージアン》でも想像することは難しい。


 だが、《原始の民》がスタージアに降り立ったという事実それ自体が、《星の彼方》の向こうに居るはずの、高度な科学力を持った存在――()()が実在することを証明している。


 そして()()は長年の時を経て、ついにこの銀河系人類社会に目を向けた。


 ()()――すなわちいにしえから《オーグ》と伝えられてきた存在の、銀河系人類社会への干渉を阻止すること。ソルナレスだけではない、あらゆる《スタージアン》の関心は、その一点に集中していた。

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