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星の彼方 絆の果て  作者: 武石勝義
第二部 魔女 ~星暦六九九年~
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【第一章 覚醒】 第一話 祖霊祭(1)

時代は遡り、第一部「スタージア」よりおよそ百年以上前のお話。

 街中が喧噪に包まれている。


 道行く人々の大半は、白地に金と銀の刺繍で縁取られた長衣に身を包んでいた。メインストリートから裏道までを埋め尽くしている長衣の人々は、そのほとんどがここ、惑星スタージアを訪れた巡礼客だ。銀河系人類の始まりの星とされるスタージアには巡礼に訪れる人々が後を絶たないが、長衣に袖を通す者は稀だ。それが今日に限って多く見受けられるのには理由があった。

 今日は年に一度の祖霊祭の日なのである。


 かつて《星の彼方》から訪れた《原始の民》がこのスタージアに降り立った時から、今の銀河系人類社会の歴史が始まった。そこで《原始の民》降下の日に彼らへの感謝を捧げるようになったのが、祖霊祭の由来である。

 人類が住まう惑星数は今や百を超え、そのどこでも様々な祖霊祭が催されているが、中でも抜きん出た伝統を誇るスタージアでの祖霊祭は、毎年銀河系中から多くの人々が集まる一大イベントだ。しかも二年後には節目の四百年目を迎える。今年からして星中が巡礼客で埋め尽くされているが、記念すべき四百年目はこれ以上の賑わいを見せることは間違いなかった。


 メインストリートをゆっくりと走るオートライドの後部座席で、口の端にベープ管を咥えている男も、そんな巡礼客のひとりである。


「世の中、こんなにも暇人で溢れ返っているもんだとは思わなかったぜ」


 あからさまに退屈そうな顔でそう言うと、ディーゴ・ソーヤはおもむろに水蒸気の煙を吐き出した。


「ご先祖様だって、こう大勢押し寄せられても暑苦しいだけだろうに。だいたい、どいつもこいつも似たような恰好しやがって、味気ないことこの上ない」

「文句ばかり言ってるんじゃない。我々だって向こうに着いたら、あの長衣に着替えるんだ」


 運転席に座るロカ・ベンバが、密閉された車内に漂う白煙を手で払いながら振り返る。彼の前ではスティック状の操作レバーが、誰に握られることなく絶え間ない微細な動きを見せていた。オートライドの自動運転に任せてふたりが向かうのは、あらゆる意味でスタージアの中心であるスタージア博物院だ。時間に余裕を持って訪れたはずなのだが、この混雑だと到着するのは予定ぎりぎりになってしまうかもしれない。

 ロカの言葉に、ディーゴはげんなりした表情で尋ね返した。


「やっぱりあれ、着なくちゃいけないのか。あの古臭さは、俺のセンスが受け付けないんだよ」

「ディーゴ、あなたはテネヴェ市長の代理人としてここに来ているんだ。れっきとした公人だってことを忘れてくれるな」

「市長の代理人ねえ」


 ディーゴは居心地悪そうに肩をすくめた。


「親父の代理なんて、秘書のお前がやれば十分なんじゃないか?」

「市長はあなたに経験を積ませるつもりで、今回の祖霊祭への出席者に任命した。あなたも市長補佐官という立場に就いたんだから、そろそろ自覚を持ってほしい」


 磨き抜かれた黒檀のような漆黒の肌の持ち主であるロカに、しかつめらしい顔で正論を説かれると、言葉以上の説得力がある。ディーゴはそれ以上反論せず、ベープ管を手にしたままに、窓越しに見える人混みを眺めることにした。


 夕刻の街並みには現像機プリンターから手売りの露店までがずらりと並び、巡礼客を呼び掛ける声が飛び交っている。建物の合間に時おり覗く尖塔がゆらりと動いて見えるのは、街区ごとの山車が地元住民に引き回されているのだろう。色とりどりに施された尖塔を載せた山車が、街中をいくつも行き交う光景は、祖霊祭の醍醐味のひとつである。

 祭を楽しむ巡礼客たちを横目で見ながら、ディーゴたちが乗るオートライドはようやく博物院の敷地内へとたどり着いた。定刻間際の車寄せには案の定、彼ら以外にも多くのオートライドがひしめいている。ディーゴは渋滞の最後尾で動きを止めたオートライドから降りると、ロカに急かされながら博物院の来賓用ゲートへと向かった。

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