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星の彼方 絆の果て  作者: 武石勝義
第一部 スタージア ~星暦七八一年~
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第五話 絶景(1)

 太いタイヤを履いた50センチ径の円盤が、垂直に立って自立している。

 円盤自体は接地面を除く大半がカバーに覆われており、その両側には水平に突き出たフットペダルと、円盤の回転軸の片面からは面に沿うようにして、さらに外周部からは天頂方向に向かって突き出した、シートバーと呼ばれる細い円柱が生えている。シートバーは途中で浅く折れ曲がっており、その円盤に近い側に座面が、天頂側に背凭れと先端にはヘッドレストが取りつけられていた。円盤の回転軸の別の片面からも同じように曲がりくねった、こちらはハンドルバーというもう少し短い円柱が生えており、その先端には操縦レバーが設けられている。


自動一輪モトホイールじゃない。どうしたの、これ」


 リュイの質問に、シンタックは胸を張って答えた。


「巡礼研修の学生には無償で貸し出ししてるんだ。知らなかっただろう? 人数分あって良かったよ」


 巡礼研修五日目の朝、博物院北口の正門前の広場でシンタックが右手で指し示した先には、自動一輪モトホイールが四台並んで直立していた。

「人数分ね……」と呟きながら、リュイは白地にライトグリーンの差し色が入った自動一輪モトホイールを手に取った。ヘッドレストを軽く押しやりつつ、操縦レバーを手にしたままシートバーを跨いで座面に腰を下ろす。背凭れに上体を預けるとシートバーがぐっと傾いたが、自動一輪モトホイールに搭載されているジャイロ・スタビライザーのおかげでちょうどリュイの視線が正面を向く位置で釣り合いを取り、それ以上倒れ込まない。自動一輪モトホイールは横から見て、円盤から斜めに伸びたシートバーに仰向け気味に乗るのが、正しい乗車姿勢である。


「街中を見物するには、ちょうどいい足だと思ってね」

「まあ、そうだけどな」


 素っ気なく頷きながら、ヨサンが真っ黒な自動一輪モトホイールに手を伸ばす。だが彼の背後で「あのっ」という声がして、ヨサンは動きを止めた。


「なんだよ」


 無愛想に振り返られて、声の主であるドリーは一瞬、小柄な身体からだをびくっとさせた。


「私、自動一輪モトホイール乗ったことない……」

「なにい?」


 ヨサンが呆れ顔で金髪の少女を見返す。


「じゃあ、どうやって通学してるんだよ」

「寮住まいだから。歩いて行けるし」

「おい、シンタック、これどうすんだ」


 助け船を求めるヨサンに、シンタックは事も無げに答えた。


「ヨサンが乗り方を教えてあげればいい。ホイールボールのエースなんだから、それぐらい簡単だろう?」


 ヨサンは露骨に眉をしかめたが、ドリーがひとりで自動一輪モトホイールに乗ろうとして派手に尻餅をつくと、「ああ、もう見てられねえ!」とぼやきながら彼女の傍らに駆け寄った。


 ヨサンとドリーのやり取りをよそに、辺りを一回りして慣らし運転を終えたリュイが、自動一輪モトホイールをシンタックの横につける。


「ねえ、大丈夫なの、あの子」


 心配そうに尋ねるリュイとは対照的に、シンタックの表情は明るい。


「大丈夫だって。僕も自動一輪モトホイールはヨサンに教わったんだ。あいつ、あれでなかなか人に教えるの上手だよ」

「ヨサンが面倒見いいのは知ってるけど、そういうことじゃなくって」


 リュイは声のトーンを落として、シンタックにだけ聞こえるように囁いた。


「あの子も呼ぶなんて、冗談じゃなかったんだ」

「昨夜ちゃんとお願いしたじゃないか」

「そうだけど。あなたの勢いに押されて頷いちゃったけど、やっぱりちょっと後悔してる」 


 ヨサンの指導の下、自動一輪モトホイールを乗りこなすのに悪戦苦闘しているドリーを、リュイが複雑な感情のこもった目つきで見つめる。


「私、あの子のこと苦手」

「わかってるよ」

「わかってるなら、じゃあどうして呼んだの?」

「今日一日一緒に過ごせば、仲良くなれると思うよ、多分」

「多分って、あなたね……」


 中途半端に楽天的なシンタックの態度に、リュイは額に手を当てながらため息をついた。


 ドリーはやっと自動一輪モトホイールの運転に慣れてきたようで、気がつくと広場を走り回っている。調子に乗ってスピードを出し過ぎるなとヨサンが注意するので渋々ブレーキをかけるが、その勢いが急過ぎた。自動一輪モトホイールは急停止し、円盤を軸にして前転するような格好になって、ドリーを乗せたシートバーだけが跳ね上がる。

 そのまま放り出されたドリーは、慌てて飛び出したヨサンに身体からだごと直撃した。


「急ブレーキは厳禁だと、最初に口酸っぱく言ったろうが!」

「ご、ごめんなさい」


 下敷きになったまま怒鳴るヨサンと、その上で跨がったまま小さくなっているドリーを見て、シンタックは胸を撫で下ろした。どうやらふたりとも怪我はないようだ。その横ではリュイが、自動一輪モトホイールの背凭れに頬杖を突きながら、不安を募らせていることを隠そうともしない。


「本当に大丈夫なの?」

「多分、大丈夫、じゃないかなあ」


 シンタックも、さすがに明言は出来なかった。

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