プロローグ 異世界の女神に泣きつかれる
「……ここはどこなんだ」
目が覚めたら、何故か白い空間にいた。
おかしい、俺は昨日自分の部屋で寝ていたはずなのに。いつの間に拉致られてしまったんだ。
でも、なんか変だぞこの空間。ふわふわしているというか、時間が止まっているような、まるで夢の中にいるみたいだ。
「はい、仰る通りここはあなたの夢の中ですよ」
「うおッ!?」
突然背後から声が聞こえたので驚いてしまった。振り返れば、目にした事が無いような美人のねーちゃんがニコニコしている。
余りの美しさに、ゴクッと唾を飲み込んだ。
肩よりも長い桜色のふんわり綺麗な髪に、白雪の如く透き通った玉のような肌。
吸い込まれそうなサファイアブルーの瞳、メロン級のおっぱいに、女優顔負けの……以下略。
凛と立つその姿は神々しく、まるで女神みたいだ、と思ってしまった。
「はい、女神ですよ」
「ッ!?」
あれ、考えていたのが口に出ちゃっていただろうか。うわ、俺恥ずかしい奴じゃん。
「いえ、口に出していませんよ。あなたの心を読んだだけです」
「……」
俺の夢の女神ハイスペックだな。その前に、夢の中に女神呼び出しちゃった俺ってもう末期なんじゃないだろうか。頭沸いちゃってるじゃん、どうしよう遂に厨二病になってしまったのだろうか。
「安心して下さい、ここはあなたの夢の中ですが、私は本当の女神ですから。私はあなたの意識の中に介入しているのです」
「ああ、うん」
とりあえず頷いておこう。もう設定出た時点で諦めたわ、はいはい認めます、俺は厨二です。
「まぁ、あなたがそう思うのならそれでいいでしょう」
投げやりだな。否定しなさいよ。
「おほん、時間が限られているので早速話をしましょう。私は異世界『アステリア』の女神、セレスティナです。セレナと呼んで下さい」
「はぁ」
やっべー、とうとう異世界出ちゃったよ。
「異世界『地球』の人類の中で一番強い能力者である平坂 平太さん、あなたに折り入ってお願いがあります」
真剣な表情で唐突に話しを切り出してきたセレスティナとかいう女神は、深々と頭を下げてこう告げてきた。
「どうか、アステリアを救って下さい」
「……」
困ったな、妄想の割には真に迫っている気がする。この夢早く終わってくれねーかな、と思いながら、とりあえず訳を聴いてみる事にした。
セレスティナ--セレナは悲しみに打ちひしがれた顔で、分かりやすく要点を纏めて語ってくれた。
一向に夢が覚める気配がないので、流石に妄想の類じゃねーなと確信し、俺も真面目に話しを聞く。
セレナの話を要約すると、こんな感じだった。
一つ、女神セレナが管理するアステリアには、人類その他種族と四人の魔王率いる魔物の二つが対立している。
一つ、今までは何とかパワーバランスが保たれていたが、遥か昔に封印された邪神とやらが近々復活するという。
一つ、邪神が復活されたら百パー人類が滅び、このままではアステリアが邪神に支配されてしまう。
一つ、アステリアで邪神を倒せる者がいないので、他の異世界の強い者に協力を求めようとした。
一つ、それで白羽の矢が立ったのが、地球の平坂 平太、つまり俺らしい。
はぁ……と一つため息を吐いて、セレナに問いかける。
「つまるところ、あんたは俺に世界を救って欲しいという事だな」
「はい」
俺の質問に短く返すセレナ。相当切羽詰まっている状況のようだ、今にも泣きそうである。しかし残念ながら返事はもう決まっていた。
「断る」
「え"」
俺の返事に驚愕するセレナ。まさか断られるとは思ってもいなかったのだろう。可哀想ではあるが、手を貸す気はこれっぽっちもない。
「な、何でですか!?」
「いや、俺なんも関係無いじゃん。他の世界がどうなろうと知ったこっちゃないし」
地球がピンチというのならまだしも、行ったことも無ければ知り合いも居ないのに、何故わざわざ俺が手間をかけなければならないのか。
そっちの世界の事なら、そっちの人間がなんとかするってのが筋ってもんだろ。仮に邪神が復活して世界が支配されたとしても、それはそれで仕方が無いんじゃないだろうか。
「お、鬼です!あなたには良心というものがないんですか!?」
「って言われても、本当に俺関係無いじゃん」
セレナが怒鳴ってくるが、何を言われても考えは変わらない。話しも終わったことだし、早く解放してくれないかな。
「うわぁぁぁああああああん!!お願いしますぅ、助けて下さいよおおおッ!!」
「うお!?」
頑なに拒否し続けていたら、突然セレナが俺の腰にしがみついてきて、赤ん坊のように泣きじゃくってくる。
「お前キャラ変わってんぞ」
今まで儚い女神のような振る舞いをしていたのに、急にポンコツ臭が漂ってきたぞ。
「キャラだって変わりますよぉ。本当に世界がやばいんですぅ、もう必死なんですよぉ!!」
懇願してくるセレナはポロポロと大粒の涙を流しながら見上げてくる。
くっ、顔だけは良いセレナの涙目且つ上目遣いは結構破壊力があるな。
童貞の俺には効果抜群だ、急所に当たっているかもしれない。
「つーかお前女神なんだろ、邪神ぐらい何とか出来ないのか」
「無理なんですよぉ、私に邪神をどうにかする力なんて無いんですぅ!」
「はあ!?じゃあ一体誰が邪神を封印したってんだよ」
「凄い昔、前任の女神が当時の勇者達と協力して封印したんです」
じゃあお前も今の勇者と協力すればいいじゃねえか。
「それが出来ないから困っているんですよぉ!そもそも私の力なんか前任の女神と比べたら月とスッポンですし、今の人類も昔より力が格段に下がっていて瞬殺されちゃいます」
詰みじゃん、もう諦めちまえよ。
「嫌ですぅ。平太さぁぁん助けて下さいよぉ」
腹に頭をこすりつけてくるセレナ。
くそ、女の涙は卑怯だよな、つい助けてやりたくなる。いいや待て童貞よ、先走るんじゃない。
「そもそも、俺が異世界に行ってどうなる。土地も文化も言葉も分からない、邪神に辿り着く前に野垂れ死ぬぞ」
思ったことを口にしたらセレナは俺から離れて、そのたゆんたゆんな胸を張ると、自信満々に口を開いた。
「それは大丈夫です、私が一緒ですから。平太さんがアステリアで困らないように、私がサポートするので!」
「……」
じとー、と俺は訝し気な視線をセレナに送った。
「な、なんですかその疑った目は」
「いや、お前って役に立つのかなーと思って」
どう見てもセレナはポンコツにしか思えない。役に立つどころか、足を引っ張られそうだ。
「もう、失礼しちゃうです。これでも私は女神なんですよぉ」
さいですか。
はぁ、とため息をつく。もう一つ聴いておくか。重要な事だし。
「俺が異世界に行って、帰って来られる保証はあるのか?」
問題はそこだ。今までの話を振り返ればアステリアはゴテゴテのファンタジー世界なのだろう。
コンビニも無ければ、携帯もテレビも無い。娯楽だって少ないだろう。そんな世界に永住する気なんてない。
全てが終わった後、やっぱり地球に帰れませんじゃ全裸で泣くぞ。
「安心して下さい、邪神を倒して下さったら、いつでも地球にお帰し出来ます。それにアステリアで何年過ごしても、地球にお帰しする時は同じ時間軸にしますので」
ああ、それならまだマシか。
「私も女神の端くれです。そんな無責任な事は致しません」
「……そうか」
そこまで言うのなら、協力してやってもいいかもしれない。要は邪神とやらを倒せばいいだけの話しだろ。サクッとぶち殺してサクッと帰ってくればいいか。
「え、来てくれるんですか!?」
期待した表情でセレナが見つめてくる。俺はしぶしぶ「ああ」と頷いた。
するとセレナは「いよっしゃあああああああああ!」と喜び飛び跳ねている。おっぱいも飛び跳ねていた。
了承してしまったが、仕方ない。どこの世も女の涙に勝てる男などいないのだ。
でも、そう簡単にはいかせない。
「ただし、条件がある」
「え"」
俺の言葉に、子供のようにはしゃいでいたセレナの動きが止まる。おっぱいも止まる。
「無償な訳が無いだろう、俺は聖人君子じゃないぞ」
ただで世界救うとか、割に合わねーよ。それなりの報酬を貰わないとな。モチベーションにも関わるし。
「そ、そうですよねぇ、無条件なんて虫が良すぎますよねぇ。いいでしょう、私が出来る範囲なら、可能な限り"なんでもします"」
ん?今なんでもって言ったか?
よし、言質は取ったぞ。
「じゃあ邪神を倒したらお前のおっぱいを俺の気が済むまで揉ませてもらう」
「え……ええええええええええ!?」
俺が告げた条件を聞いたセレナは、驚愕し絶叫を上げる。顔を真っ赤に染め、胸を隠すように両手で覆った。
「な、なんですかそのハレンチな条件は!?」
「だってな、欲しい物なんて特にねーんだよ。けどタダでするのも癪だし割に合わないから、どうせならそのおっぱいを揉みたいと思っただけだ」
特に他意は無い。だからそんなケダモノを見るような目をしないで頂きたい。なんか目覚めそうだから。
「うぅーエッチですぅ。まさか平太さんがそんな変態さんだとは思いませんでしたぁ」
変態じゃない、欲望に忠実なだけだ。
「別にいいんだぜ断っても。その方が俺も助かる。まあ、その場合は協力しないけど」
なんだかこれじゃあ脅してるみたいだな、同じようなもんか。
うんと悩んでいたセレナは意を決したように頷く。どうやら答えは出たようだ。
「うぅ、分かりましたぁ。平太さんの条件を呑みますぅ」
「ああ、そう」
「鬼畜ですぅ」
恨みがましく涙目で睨んでくる。俺としては断ってくれた方が良かったんだけどな。
「交渉成立っつー事で、どうすんの?異世界とやらにはどうやって行くんだ」
「これから私が平太さんをアステリアに転移させます。目が覚めたら、もうアステリアにいますよ」
「ああ、そう」
意外とお手軽なんだな、異世界転移って。
「ではいきます!ちちんぷいぷいのぷーい!」
何だその昭和の呪文は。
セレナの古臭い呪文によって、俺の意識が段々と薄れてゆく。
嬉しそうにしているセレナの表情を最後に眺めていた俺は、もしかしたら泥船に乗ってしまったかもしれないと、少しだけ後悔したのだった。
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