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こうして、私達は晴れて、自由の身となった。
久しぶりの自由! 素晴らしい、万歳!
しかもここは綜都。遊びたい放題観光し放題! と、いきたい所だが、私にはやるべき事がある。
遊びにきたわけでは無いのだ。
そう、心に強く言い聞かせて私達は、珍しい小物や調味料、建物を素通りしていった。
がんばれ、私。
一生懸命、誘惑に耐えながら向かったのは、綜都の中の、さらに中心に続く城壁の門の前。橋が架かっていたので、その手前で少し立ち止まった。
あの向こうが、おそらく貴族区画。瑞家の知り合いの貴族、劉氏がいるハズだ。
門の横には高い城壁と、手前にご丁寧に広い水堀まであった。その堀の上にかかった橋を渡らないと、貴族区画にはいけない仕組みだ。環にもあるが、やはり綜は規模が違うな。
「凄いな」
横で、春陽がつぶやく。私と同じように水堀を見ていての感想だろう。
「綜を落とすのは大変そうだ」
さらになんでもない事のように口に出した言葉。一瞬スルーしかけたが、ちょっと待って?!
いくら武人だからって、同盟国でありさらにこの王朝の諸侯をまとめている、宗主国の首都で呟いていい言葉なのだろうか。ちょっとビビって辺りを見回したが、大丈夫そうだ。というか、賑わいが凄いので、誰にも聞こえないか。
「さて。珠香ちゃん、どうやってあの向こうに行くん?知り合いがおるって言ってたけど」
珊瑚が、相変わらずのんきな声で尋ねる。
私は一つ頷いて、慶珂を見た。この場で唯一の男手という事で、ずっと私の荷物を持ってくれていた。
慶珂は私の視線に気づくと、荷物を私の方に差し出した。中に、環木があるのを確認する。
「まず、門番に賄賂として環木を渡し、知り合いの、劉家の当主に面会を申し出ます。おそらく、春陽の事は有名だから知ってると思うし、そんなに怪しまれないと思う。で、残りの環木を使って、何とかここの宰相に会えないか相談してみます。その後は……がんばります」
言葉が尻つぼみになってしまったが、仕方ないのだ。そこから先の不確定要素と乗り越えないといけない壁が高すぎるのだ。
珊瑚は、私の作戦には何も突っ込まず、笑うだけだった。うう、何も言われないのも逆に辛いな。
何とか平静を装って、皆を促す。
「ここにいてもどうにもなりませんし、行きましょうか」
「なぁ、珠香ちゃん。賄賂は、環木より金の方がええんちゃう?」
行くか、と決心したとたんに珊瑚が口をはさむ。一気に気が削そがれてしまった。珊瑚を見ると、ニヤニヤしている。
「えっと、そうですね。でも、金なんて持ってないです……」
「あるえ。はい、コレ。環公から預かった分な」
そう言って、珊瑚は私に重たい小袋を渡してきた。ずっしりしている。なかなか持ち歩かない量だけど、こんなの持ってずっと旅してたの珊瑚? 凄すぎるでしょ。
「でもそれは、姉さんと珊瑚さんに渡されたものだから、私には」
「ええのええの。アタシも、貴族さんたちのお屋敷見てみたいんやわ」
「え?」
「深い意味は無いえ?」
……本当に? ねえ、本当にこの人貴族区画に入れて大丈夫??
そういえば珊瑚も、隠密の人だった。なんかこう、外交にヒビ入ったりしないだろうか大丈夫だろうか。
私が固まって悩んでいると、春陽が横からのんきな声をかけてきた。
「別に良いんじゃないか? それより珠香。私達、門番に不審に思われているようだぞ」
ハッと門番達の方を見ると、確かに私達を見て、ひそひそ話ししている。
やばい、こんな所で引っかかってる場合じゃなかった。
仕方なく、珊瑚から小袋を受け取る。
「ありがとうございます。いつか、お返しします」
「ええよ。あたしも貰っただけやし。帰ったらお礼言っとき」
そんな、親戚のおばちゃんにお年玉もらったみたいなテンションで良いのだろうか。それは、おいおい後で考えよ。
私は三人を見回す。
三人は、それぞれの表情で見返して、頷いてくれた。
それに勇気をもらって、私は、一歩足を踏み出したのだった。
結論を言うと、何とか無事に知り合いの貴族、劉家の当主、劉 汀桔と面会する約束が取れた。賄賂のおかげで。
さらに彼の屋敷に招かれて、滞在することも許された。
これには、春陽の双子としての知名度、そして珊瑚の美貌が役に立った。美人、得だなって思ってしまっても仕方ないと思う。
劉家の屋敷は、それはそれは宗主国の貴族として、十分な貫禄だった。
それでも劉家は、綜の中では中ぐらいの地位なのだという。それでも、環国の宰相の屋敷より豪華そうだった。
屋敷の中も凄くて、色んな諸侯国から集めた調度品が、品よく並んでいた。
綜都は、昔はただの漁師町だったそうだ。そこに、舜王国の建国の立役者である綜氏が封ぜられ、栄えていったのだという。だからかな、魚をモチーフにした意匠があちこちに見えた。
家具を見ると、綜は割と中央好みの、直線を基盤とした家具が多いようだった。
そんな屋敷の中を物珍しそうに見ながら私達は、劉家の侍女に、それぞれに割り振られた房へと案内されてた。当主と面会するのは、夜になるそうだ。
あの、貴族区画に入ろうとしていた時。
本当にたまたま、賄賂を渡した門番の一人が、この劉家の侍女の兄だったらしく、彼女を通じて、これまたたまたま近くにいた劉家の当主に、私達は直接会う事が出来たのだった。
この劉 汀桔という人物は、城壁の修理や修復を担当する、司徒という部署にいるので、本当にたまたま仕事でその辺に居たそうだ。
幸運だった。
確かに幸運だったが、こんなに幸運づいてると、反動で何かしら起きそうで、怖い。
だけど、今は考えないでおこうと思う。他にも怖い事色々あるし。起こってない不幸を考える暇なんて無いよね。




