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 おじいさんの船が、ゆっくり港に近づいて行く。

 どうやら此処も、ちゃんとした暗黙のルールによって、船がとまる場所が違うらしい。

 都会の街並みを横目に見ながら、どんどん港の湾の端に向かう。途中で、いくつもの大きな船とすれ違った。だが、倭都達の船のように海を渡るというより、漁をしにいく漁船のようだった。漁船もデカいなんて、凄いなあ。


 私達の船が、ようやく陸地の桟橋に着いたのは、それからもうちょっと漕いでからだった。端の方だが、綜都までは十分徒歩で行けそうな距離だった。良い場所に泊まった船なら、すぐ綜都に入れるんだと思う。


 ひとつぐらりと揺れて、船が着いたようだった。

 おじいさん達は、荷物を下ろしたり点検したり、忙しそうに動き出した。

 私も、邪魔になるので早く舟を降りたいのだが、今ここで、自立二足歩行をするとそのまま無抵抗で海に落ちていきそうだったので、素直に姉に助けを求めた。

 春陽は、わかっているという風に頷き私の背後にまわり、何をするのかと思えば脇の下に両手を差し込み、そのまま持ち上げられた。……犬とか猫とかって、こんな気持ちなのかな。

 立った私の片方の腕を自分の肩に回し、半分担いでいるような体制になって、平然と春陽は歩き出した。私は、歩くというより半ば引きずられながら、なんとか船を降りる事が出来た。

 こんな不安定な船の上にあって、自分より少しは小さいといえ同等程度の人間を担いで平然としているなんて、相変わらず春陽は凄いなあ。

 無事、陸の上に降ろされ、邪魔にならなさそうな所で体育座りでちょっと休ませてもらった。揺れない地面、サイコー。


「大丈夫ですか、二姐お嬢さん」

「あらぁ、半分でも結構な効き目やったねえ」


 少し遠い所から、慶珂と珊瑚の声が聞こえてきた。二人は、定員オーバーで別の船に乗っていたので、降りてこちらに来てくれたのだろう。腕に頭を埋めていたが、ゆっくり顔を上げる。

 周りで忙しそうに荷ほどきをしている漁村の人達と、近づいてくる二人。慶珂は心配そうな顔をしているが、珊瑚はちょっと笑ってる。


「なん、とか」


 二人に声をかけると、まだ声が出る方ではあるが、しっかり薬の副作用が効いていた。困るなあ。


「そったらお嬢さん達、さっさと移動すっぺよ。一日はすぐ終わっちまう」


 荷物の点検が終わったらしいおじいさんが、私達に話しかけてきた。


「すみ、ま、せん」


 急いで立ち上がろうとしたら、立ち上がる前に、ふらっとした。

 すかさず、横に居た春陽が背中を支えてくれた。そのまま私が立ち上がったら、春陽は私の腕を大きく動かすと脇の下から頭を出して、より私を支えやすいような体勢をとった。

 鮮やかな一連の動き。明らかに手慣れてる。やっぱり、軍に入ると怪我人と接する事が多いからだろうか。私は怪我したわけじゃないんだけど。傍から見たら怪我人も酔っぱらいも私も、等しく同じように見える事だろう。恥ずかしい。

 素直に、肩を貸してくれた姉と一緒に、歩く。足は、動くは動くみたい。千鳥足だけど。やっぱり酔っ払いじゃないか私。


「あ、り、がと」

「気にするな。軽いものだ」


 にかっと笑う春陽あねに、申し訳ないやら感謝やらいろんな気持ちがうずまいたが、感謝以外何も口からでなかった。




 私が春陽に肩を貸してもらって歩く様をみて、おじいさんが心配そうに覗き込んできた。


「ありゃ、あんた大丈夫かね」

「酔い止めの副作用らしいんだ。しばらくしたらなおるよ。あなた方に迷惑はかけないから、安心してくれ」


 私の代わりに、春陽が答えてくれた。

 おじいさんはちょっとホッとしたように頷いた。こんな出稼ぎ先で、厄介事は困るだろう。

 他の村の人達は、長い竿の両端に広いザルを吊したものを担いで、こちらの様子をうかがっていた。確か、棒手振ぼてふりと言い、庶民の人達相手の商売方法で、前世でいう、訪問販売のようなものだったと思う。

 私達の答えを聞いて、おじいさんが様子をうかがっていた村の人達に、手を振って合図した。村の人達はその合図に手を振り返し、綜都そうとに入っていないというのに、それぞれてんでバラバラの方向に歩き出して行った。それで意思の疎通が取れるのだから、売りに来るに慣れているんだろうなと思った。凄いなぁ。

 そして、その人達の様子を、物珍しそうに春陽が見ていた。

 そうか。春陽、生粋のお嬢様だもんね、見た事ないハズだ。下町にもあんまり興味なかったし。まあ、生粋のお嬢様が手にマ血メ作って剣を振ったり、腹筋を六つに割ったりしないと思うけど。そういう意味では、春陽も変なお嬢さん仲間だ。やったね。




 村の人達を見送って、おじいさんが歩き出した。ので、私達も後ろに続く。

 荷物は、慶珂と渋々珊瑚が持った。慶珂は私の荷物もあるから、重たいだろうに申し訳ない。春陽が、一番重い私という荷物を背負ってるから、しょうがないのだ。


「おじいさん。この荷物、全部棒手振りで売りに行くんですか? 俺たち、全く土地勘が無いんですが、迷惑じゃないですか?」


 慶珂が、後ろからおじいさんに声をかける。そうよね、もし歩いて売りに行くなら、私本当にただの足手まといになっちゃう。

 おじいさんは私達を振り返って、ニカッと笑って禿頭とくとうを撫でた。


「あんたらに棒手振りしろとは言わねっぺよ。おい達の店を手伝ってもらうつもりだ」


 そう言って、おじいさんはまた前を向いて歩き出した。

 ……店? 他所の土地の人が、よりにもよって中心地の綜都に、お店を持てるものなのだろうか。屋台とか、テントのようなものかな?




 綜都は、いろいろなモノの中心地だ。

 商売も、学問も、そして政治も。

 その分、色々な儲け話やうまい話しがあるが、そんな話は失敗するのが、庶民の噂のオチだ。

 環都ですら、屋台の間をふらふら歩いているだけで、色んな綜都の話が入ってくる。それぐらい都会で、様々な耳目を集める中心地なのだ。

 その、話しに聞くだけだった綜都に、間もなく到着する。

 少しぐらい、都会にワクワクしたって、良いよね。

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