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「お待たせぇ。ちゃぁんと見つけて、交渉してきたで」


 ちょっとだけ姉妹で話していると、珊瑚達が、見ていた方とは微妙に違う方向から戻ってきた。

 珊瑚の後ろに、見慣れないおじいさんが居るけど、あの人だろうか。

 慌てて立ち上がろうとして、立ち眩みの気配を感じた、ので、ゆっくり頭を上げる。


「お帰りなさい、珊瑚さん。その人ですか」


 まだ、口が回る。まだ大丈夫そう。

 春陽も立ち上がり、珊瑚達を見ていた。


「せや。綜都にちょうど干物を売りにいく時期やから、乗せてってくれるってぇ」


 綜都に物を売りに行くという事は、ここはまだ綜の範囲なのだろうか。何にせよ、ありがたい。後ろにいるおじいさんに、ちょこっと頭を下げる。


「よろしくお願いします」


 頭を上げると、ちょっとフラッとした。これは、酔いの延長だろうか、薬の副作用だろうか。


「あん船には、おいも世話になってっからな。知り合いなら無下にも出来ん」


 おじいさんは、良く焼けた禿頭を撫でながら、笑った。

 倭都達も、最終的には綜に行くつもりだろう。その為の下準備、だろうか。


「ただ、あんた達の素性にゃ興味ねぇけど、綜の役人に目ぇつけられるんは困る。だから、綜都についたらしばらくは干物を売るのを手伝ってくれ」


 それぐらいで良いなら、お安い御用だ。


「わかりました。がんばって、お手伝いします」

「ああ、頼む。そしたら、すぐ準備してくっから、待ってな」


 おじいさんはそう言うと、さっさと踵を返して村の方に戻っていった。


「……大丈夫、なんだよな」


 その後ろ姿を見送りながら、珍しく、春陽が弱気な発言をした。珊瑚は、にまにました顔のまま、頷いた。


「おそらくは。これも使つこぉたし、あっちも変な事して、綜に目を付けられたないと思うぇ」


 珊瑚は、袖の下に手を差し込みながら、言った。つまり、お金をいくらか握らせたようだ。良いなあ、お金持ってて。この漁村で、香の環木の価値が高い気がしない。

 春陽は珊瑚の言葉に、そんなものか、とちょっと納得した顔をしていた。

 ふと、一言も発していない、慶珂の方を見た。ちょっと疲れた顔をしていたから、どうやら珊瑚に振り回されたらしい。


「慶珂も、ありがとう。お疲れ」


 ねぎらいの意味も込めて話しかけると、慶珂は苦笑した。


「知らない間に、息子にされてましたよ。上手くいって良かったです」


 何があったかわからないけど、本当にお疲れ。

 私の同情したような顔に、慶珂は力なく笑ったのだった。 




 その後、おじいさんは数名の村の人達を引き連れて戻ってきた。いつも何隻かで売りに行くらしい。船の漕ぎ手もかねているそうだ。私、役に立てるかな。

 不安に思っていると、だんだん薬が効いてきたようで、ふらふらしだした。すかさず、春陽が支えてくれた。

 そんな私におかまいなく、おじいさんが向かったのは、倭都達の船よりは小さい、小型船だった。漁船よりは大きい、ぐらいの作りだ。

 何隻かあるが、全部人力で漕いでいくらしい。大変だ。

 綜都に行く時は海流の関係で早く行けるが、戻る時は倍の時間かかるそうだ。なので、行きは私一人ぐらい倒れてても問題ない、と言ってもらった。まあ、見るからにオール漕げなさそうだもんね、私。その言葉に甘えさせてもらう事にした。


 いよいよ、船に乗り込むという段になって、だんだん薬の作用が強くなっていくのを感じていた。

 重力がバグり、姉に肩を貸してもらってようよう船に乗り込んだ。流石に横になれるスペースは無いので、後方で蹲るようにして座る。

 舟が揺れているが、揺れているなと思っただけで、気持ち悪くはならなかった。薬、効いてきてるみたい。

 うずくまっているだけだと、落ちそうになった時対処できないので、紐で縛ってもらって、何とか船を出すことができるようになった。


 常に足手まとい過ぎて、もはや何に謝っていないのかわからなくなってきた……。


 船達は、漁村を出航したようだった。

 うずくまって目を閉じているので、周りの様子は全くわからなかった。

 ただ、船を漕ぐ人達の、音頭をとる声とそれに唱和する声だけが聞こえる。







 どれぐらい、時間が経ったのだろう。

 幸い、薬が効いて気持ち悪くならない上に、時間だけはたっぷりあったので、綜都に着いたあと、どうやって知り合いの貴族に頼むかや、宰相に言う言葉をゆっくり考える事ができた。

 綜都が近づいてきて現実味を帯びてきた、と言っても良いかもしれない。どこかで、綜に行けなかったら、と思っていた自分がいたから。


 みんなの声に疲れがみえ、さらにしばらくした頃。


「綜都まであと少しだ! 頑張っぺ!」


 そう、励ますような声が聞こえ、みんなの声に力が戻った。


「珠香、もうすぐ着くみたいだ。大丈夫か」


 前方から声がかけられた。

 春陽の声に、何とか顔を上げてみる。

 目の前に見えたのは、陸地と、この世界で見る事になるとは思わなかった、高層の建物。五階ぐらいはありそうな、派手な建物がうっすらと見えた。その他にも、たくさんの船と建物の影が見える。


 都会だ。

 間違いなく、この時代この地域において、一番の都会が、そこにあった。

 前世なら、おそらくランドマーク的な高層のタワーが立てられていそうな、港町。


 それが、綜都の第一印象だった。

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