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 小さな子供の頃には、長兄はくけいに背負われた事はあっても、しゅんようにはなかったから(体格的に無理だし)、なんだか感慨深い。




 倭都の船が着いた桟橋から少し歩き、倭都の船員たちが荷物の木箱を置いた所で、ちょっと横にさせてもらっていた。

 おかげで、だいぶ落ち着いてきた。

 酔いが、本格的に酷くなってそう時間が経っていないので、回復も早い、と思う。

 そこで横になりながら、倭都に挨拶にいった慶珂を待っていると、倭都と慶珂が一緒にこちらに歩いて来た。忙しいだろうに、申し訳ない。

 倭都の姿が見えたので、上体を起こす。ちょっとふらついたが、大丈夫そう。背中で支えてくれている手は、姉のものか。


「なぁに、またあんたふらふらじゃない。軟弱ねえ。あんたの姉を見習いなさいよ」


 倭都の呆れた声と、春陽のドヤ顔が横目で見えて、はははと力なく笑う事しかできなかった。


「倭都ちゃん。ありがとう、ございました」


 頭を下げ過ぎるとまた頭痛が酷くなりそうだったので、あまり下げれなかったけど、気持ちは伝わった、と思いたい。


「言ったでしょ。これは、見返りと労働力を見込んだ取引よ。逸人はやとがなにか渡したみたいだけど、それは、あんたの姉と慶珂の労働にちょっと色をつけて返しただけ。あんたは、ちゃんと綜に私達かいこうを認めさせるのよ、わかった?」


 あれ、ハードルが上がってない?

 でもそんな事口に出せるような雰囲気ではなかったので、曖昧に頷いておいた。倭都は、一応それで満足してくれたみたいだった。なるべく頑張るよ、なるべく……。


「それじゃ、せいぜい頑張ってね。変な所で死ぬんじゃないわよ」


 私達にひらひらと手を振って、去って行こうとする倭都。


「倭都ちゃんも!」


 私の声が聞こえたかどうかわからないが、倭都は振り返らず、自分の船に戻っていった。


 倭都が去って行って、船員たちもまだまだ慌ただしく荷物を運びだしたり、木箱を開けたりしている。いつまでもここにいては、迷惑になってしまうだろう。

 腰かけていた木箱から、立ち上がる。


「大丈夫か、珠香」


 背中を支えてくれている春陽が、心配そうに聞いてきた。頭痛もだいぶ和らいだし、歩くぐらいなら問題ないと思うというか、動かない地面を歩いて平衡感覚を取り戻したい。が、これから訪ねて行く人が用意してくれる移動手段も、おそらく船。

 決断を迫られていた。


「大丈夫よ、姉さん。ありがとう」


 久しぶりの地面。最高。揺れてない。最高。

 私を見る、三対の目を見返す。

 一つ深呼吸して、口を開いた。


「みんな、聞いて欲しい。これからの事なんだけど、二人のおかげで、綜に行く船を、出してくれる人の存在を教えてもらったの。その人に会いに行って、綜都そうとに行こうと思う。そこに、瑞と知り合いの貴族の家があるから、訪ねて、何とか宰相に会わせてもらえるよう、お願いをしてみようと思うの。協力、して欲しいです」


 大まかな道筋は、尹都にいた時から考えていた事だ。二人のおかげで、綜都に早く行ける可能性が高まった。だが、綜都に着いた後は、不確定要素が多すぎるというか、ほぼ不確定要素だというのが、自分でもどうかしてると思う。

 だけど、行くしかない。行きたい。

 私の言葉に、春陽はすぐさま頷き、慶珂は心配そうな顔をし、珊瑚はにまにま笑ったまま、三者三様の反応を返してくれた。……慶珂が居なかったらこのパーティ、崩壊しそう。


「ありがとう。そうしたら……姉さん、あの酔い止めの薬もらえる?」


 私が手を差し出すと、春陽はちょっと怪訝そうな顔をした。


「良いのか? お前を背負うのは別に構わないが、自分が自由に動けないと不便だろう」

「乗り物酔いしてる方が、足手まといかなって。たけど、また動けなくなっても迷惑だから、量を半分にしてみようと思うの」


 効き目が半分なら、副作用も半分、になるのかわからないけど、今考えつく手段はこれだけだった。

 春陽は信じてなさそうだったが、何も言わずに例の薬が入った袋を渡してくれた。慶珂が気を効かせて、荷物の中から水筒を渡してくれた。珊瑚がぬす……持ってきてくれた荷物は、今慶珂が持ってくれている。

 一包の粉末を、気持ち半分より少なめに口の中に含む。そして、苦みを感じるより早く、水筒の中の水を口に含む。気持ち悪さが残っていたので、すぐに喉に押し込めなかったが、なんとか飲み込む。しかし努力虚しく、苦みが口の中いっぱいに広がった。半分量だけど、苦みは関係なく強かった。これ、子供なら絶対拒否するだろうなぁ。


「そしたら、あたしこの人探してくるな。坊ちゃん、一緒に行こか。お姉さんはついててあげてくれる?」


 苦みに耐えている私を見ながら、珊瑚が建設的な事を提案してくれた。

 慶珂の方を連れて行くのは、私が倒れた時の為だろう。何考えてるか読めない所も多いけど、気が利く人だ。たまに怖いけど。


「お願いします」

「ほな行こか」

「はい」

「頼んだ」


 慶珂と珊瑚は連れ立って村の方に歩いて行った。

 私達は荷物置き場を離れて、漁村の入り口で二人を待つことにした。

 丁度いい木が倒れていたので、そこに姉と二人で座って待つ。

 あの親子ほども年が離れた二人は、上手いこと村の人に話しを聞いているようだった。


 しばらく、姉妹並んで座る。

 沈黙が続く。

 昔は、横に並んでいるのが正直嫌だった。何度も思い返してしまうけれど。

 春陽はこんなザ・武人って感じの性格だけど、顔は整っている。イケメン方面で。

 幼い頃、並んで父母を待っていると、親戚や知らない大人から、憐憫を含んだ言葉や視線を投げかけられた。幼い春陽は何を言われているかわかってなかったと思うけど、前世を思い出す前の私ですら、大人達のその態度には違和感を感じていた。

 だが、今はその劣等感も、あんまり感じない(全くないといったらウソになる)

 なんでだろうと考えているけど、答えはぼんやりして見つからない。だけど、それでも別に構わなかった。

 横にいる春陽も、リラックスした顔というか何も考えてなさそうな横顔で、海を見ていた。さっきまでいた海。はじめて見た上に、船の仕事手伝って、どうやら倭都達に褒められたみたいだから、本当に凄いと思う。


 穏やかな時間が流れる。

 薬の作用も、まだ本格的には効いてきていない。


「姉さん、ありがとうね」

「なんだ、いきなり」

「お礼、いくら言っても足りないなって、思って」

「なんだそれ。もう充分足りてるよ」


 春陽が笑う。

 本当に、この人が、人達が、私の家族であってくれて、良かった。心の底から、思う。

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