表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/152

74




 また、ウトウトしていたらしい。

 ハッと気が付いた時には、部屋の中が暗くなっていた。辺りを見回すが、闇に眼が慣れなくて何も見えない。

 何とはなしに、腕に力を入れて、上体を起こした。

 起きれた。

 ハッとその事に気づいた、ら、急にまた重力が私を下に引っ張り始めた。だが、最初よりは全然弱くなっており、上体を起こしているぐらいなら、できそうだ。


「あー、あ、あー」


 喉に手を当て、声を出してみる。声は、出る。口は、回るかな。


「わとちゃん。けいか、ねえさん、さんごさん」


 ゆっくり喋れば、いけそう。うんうん、床が揺れているのを感じるのに、吐き気も頭痛もしないし、この変な感覚だけだ。高価たかい薬だけあるわ。


 ギィイ。


「失礼するえ」

「あいっ」


 急に入口の扉が開いたので、ビックリして口が回らなかった。そんな私に気づいた侵入者、珊瑚は驚いたような声を出した。


「あらぁ、お嬢さん、起きれたん。良かったねえ」


 顔が良く見えないけど、まあ、微笑んでいるようだ。目が覚めてなかったら、どうするつもりだったんだろうか、とちょっとドキドキする。


「あい、ぼちぼちと、よくなってる、みたいです」


 珊瑚が、机の上にある提灯に火をつけてくれたので、部屋がぼんやり明るくなった。火を付けると珊瑚は、近寄ってきて寝床の横の椅子に座った。


「もう大丈夫? 副作用が出るんは結構珍しいみたいやし、災難やったねえ」

「いいえ。それより、すみません。あたし、ひとりねてて」

「ええんちゃう? お姉さんと坊ちゃんが、張り切って手伝ってはるわ。あたしも、なーんもやる事ないから、お見舞いにきてん」

「そうなんですか。ありがとうございます」


 ちょっとの静寂が流れる。

 珊瑚が、ニヤニヤというかニマニマしながら私を見てる。


「あの?」

「ああ、ごめんなあ。つい、若い子見てると、うちの子思い出して」

「おこさんは、わたしぐらいの、としなんですか?」

「んー、もうちょっと小さいかなあ。珠香ちゃんみたいに、素直でもないし、やんちゃばっかりで、困ったもんや」


 そういう珊瑚の顔は、薄明かりの中でも、お母さん、の顔に見えた。


「きっと、ふたりのこどもだから、かわいいんでしょうね」

「めっちゃ可愛いでぇ。でも、二人とも活発でなあ、手を焼いてんねん」

「そうなんですか。でも、かっぱつなほうがいいのでは」

「それがなあ。旦那は、二人とも任務につかせたいみたいやねんけど、あたしは反対やねん。別の道があっても良いと思わへん?」


 そうですね、と答えようとして、ハッとした。前世と違って、ここでは簡単に身分を変えられない。安易に答えて良いものだろうか。


「おこさんの、やりたいことが、できるといいですね」


 ちょっとだけ考えて、逃げの反応を返した。すると、珊瑚はハッとしたような顔をして、苦笑した。はじめて見る表情だった。


「せやなぁ。あの子らが何したいか、それ聞いてからでも夫婦喧嘩はええかな」


 さらっと喧嘩する事前提で話す珊瑚。強い。

 などと思っていたその時、


「わっ」

「なんえ?」


 グラっと、船体が大きく傾いたようだった。起こしていた上半身がぐらぐら揺れて、珊瑚に咄嗟に支えられる。

 船が、転覆するのを一瞬恐れたが、そうはならなさそうだった。

 珊瑚に支えられながら、外の様子に聞き耳を立てる。騒がしい。何があったのだろう。

 あんまりにも、不安そうに珊瑚を見ていたのだろう。珊瑚は苦笑して、


「ちょっと様子見てくるわ。大人しく寝ててな」


 そう言って、私をまた寝かせると、出て行った。





 ……暇、だな。

 さっき揺れた時は、外も騒がしかったけど、今はそうでもない。尹か海賊かの攻撃かなとも思ったけど、そうでもなさそう。

 だって、今は、おそらく夜だ。

 夜は、ケモノの時間。人知を超えた、人類に害成すモノたちの総称、獣。

 人知を超えたモノなので、夜闇の中煙のように沸き立ち、減る事は無いのだという。

 そんな事あるのかなあと思うんだけど、あるのかもしれないと思わせる不思議さがこの世界にはある。

 獣避けの札、が効くのもその不思議さの一つだ。嫌がる匂いとか、音とかで遠ざけられそうだけど、そうもいかないみたい。


 などと、つらつら考えていたら、扉がノックされた。どうぞ、と返事をすると、入ってきたのはやっぱり珊瑚だった。


「どう、でした」


 珊瑚はニマニマ笑ったまま、また私の横にある椅子に座った。


「海の獣、っちゅうんは、あんなにでかいモノなんやなあ。驚いたわ」

「けものでしたか。ふだは?」

「ああ。それでな、倭都ちゃんがどっかから札だして、退しりぞけてはったわ。あれ持ってたから、夜も移動するなんて言うてたんやなぁ」


 珊瑚が感心したように言った。

 良かった、札が効いて。……獣避けっていうから、てっきり蚊取り線香のように、近寄らせないものだと思ってたら、どうも撃退する方らしい。春陽も居たけど寄ってくるってことは、双子はやっぱり二人居ないと駄目みたい。


「ぶじで、よかった」

「せやねえ。この分なら、明け方には北の村に着くらしいえ」

「よかったです」

「ただ、その先に行く道はわからんのやって。着いたら探さなねえ」

「はい」

「せやから、今晩はゆっくり寝とき。お姉さんと坊ちゃんが張り切ってはるし、心配せんでもええで」

「ありがとう、ございます。でも、わとちゃんは」

「勝手に寝るから、気にせず寝てろ、やってぇ。男前やなあ」


 けらけらと珊瑚が笑う。倭都の口調が簡単に思い出される。つい私も苦笑してしまった。

 色んな人に、助けられて、迷惑をかけてる。なんとかして恩を返したいけどなあ。


「したら、あたしそろそろ行くわ。おやすみ」

「はい。おやすみなさい」


 ひらひらと手を振って、珊瑚は優雅に出て行った。その時に、危なくないように明かりも消していってくれた。


 真っ暗になった、見知らぬ部屋。


 ゆらゆらと、ゆりかごのように揺れる身体。不快じゃないのは、はじめてかもしれない。


 そんな、慣れない環境の中で、私はゆっくりと眠りという舟に身を任せたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ