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番外編 若い燕には翼が無い

暗い上に長いので、飛燕に興味なければ読み飛ばしてもらって大丈夫ですが、読んでもらえると作者が嬉しいです


 そう 飛燕ひえん

 産まれた時の名を、 美燕びえんという。

 、という性は、しゅん王家に連なる者しか許されない性である。

 彼は、生まれた時から自分、というものを持てなかった。








 薄暗い、月の明かりだけがさす土の床の上で、飛燕はうたたねをしていたらしい。

 ぼんやりした頭で上体を起こし、ようやくここが、煌びやかでよどみ切った女のそのではなく、暖かな空気が周りを包む田舎いんの国である事を、思い出した。

 そして、あの人達に手を貸し、逃がした罪で、ここに居る事も。


 ひとつ欠伸をして、飛燕は土の壁に背中を預け、座った。ここからなら、小さな採光窓から月が見える。

 牢屋の扉は固く閉じられ、もはや棒や武器になりそうなものもない。

 大人しくしているしか無さそうだ。まあ、最早何もする気は起きないけれど。


 昔々の夢を見ていたようだ。

 飛燕は、夢を見た流れのまま、つらつらと昔の事を思い出していた。暇、というのは、ろくな事を思い起こさせないようだ。




 自意識、というのがいつ芽生えたのか、よくわからない。

 ただ、いつも違和感があった事だけは、覚えている。

 女であれ。

 女でなければ価値が無いと言われ、女性を強制させられたあのみじめな日々。みじめだった、と思えるようになったのも最近だけれど。


 実の母に、女であれ、と言われるたびに、自分は女という生き物ではなく、男という生き物であると、男という生き物は母にとって不都合であるのだと、感じ生きていた。

 母の言いつけ通りに、母の教える通りに、そして、母の指示通りに、自分で考える事が許されない環境で育った。


「女性はそんな風にはしない。もう一度やり直しなさい」

「お前が本当に女の子だったら、こんな苦労しなくてすんだのに」

「なんで女に生まれてこなかったの。せっかく見た目よく産んでやったのに」

「お前を産んだせいで、私はもっと不幸になった。せいぜい良い所に輿入れして、私に恩返しするのよ」


 飛燕が思い出せるのは、精神的に不安定な美しい母の、狂気じみたその甲高い声。優しく頭を撫でてくれたり、抱きしめられた記憶は無い。そういった人間的な交流は、すべてへや付きの侍女たちから教わった気がする。

 そして、父、というと恐れ多いが、は顔すら知らない。生まれた時に一度会いに来たというがそれきりだ。それ以降は、常に段の上にいる近づきがたい高位の存在、であった。


 産まれた時に自分がいた所、というのを飛燕は尹に来て改めて認識した。

 いわゆる、王都の後宮の中。

 母は、みかどの何十人といるつまの内の一人だったそうだ。その中でも、立場が低い妃だったらしい。確かに、ドロドロとよどんだ嫉妬と虐めが蔓延はびこる檻は、高位の者しか、いや高位の者でも快適に生きてはいけないような所だった。


 一見、外向きは煌びやかで華やかな、この国中の女が憧れるような場所。

 そこで女であれと育てられたが、身体はどんどん男性になっていった。どこまでごまかせるか本人たちですらわからず、母はどんどん些細な事で発狂するようになっていった。言葉遣い、所作の一つ一つそんな細かい事で怒られる日々。

 飛燕に心休まる時は無かった。

 だがそんな時に、事件が起きた。

 他の妃の、手下の男達に襲われ男だとバレた。それとほぼ時を同じくして、父である前帝が崩御した。

 そのどさくさに紛れて(あと母の執念で)男とバレる事なく、降嫁こうかという形で後宮を出た。母と一緒に。

 だがその降嫁先が、因縁ある戴侯たいこうで後妻の一人という事が、また母の逆鱗に触れた。

 母は様々な手を尽くし、生家の色家と交流があった異国の民、海寇かいこうの一団と連絡をとり、護衛の船を襲わせた。見事海寇は護衛達を壊滅させた。

 その海寇の首領が、倭都の父親だった。凄い人だった。海の男であり、器の大きな優しい人だった。


 王家からみて消息不明にできたとはいえ、そのまま尹に逃げてはバレる恐れがあるという事で、一旦陸地に戻り、たいと仲の悪い、現在の盟主であるそうに、尹へ送り届けてもらった。もちろん、戴侯に嫁入りする予定だったのは内緒にして。海寇に襲われた尹の貴族だから助けてくれとかなんとか母が言っていた気がする。

 その時に送り届ける役目を担ったのが、尹侯に唯一認められた綜の商人、 起宣きせんだった。

 倭都たち海寇をけなし対立したので、飛燕は嫌いになった。


 海寇である、倭都や倭都の父と過ごしたのはわずかな間だったが、ドロドロとした人間関係しか知らなかった飛燕には、新鮮で眩しかった。きっぷのいい性格や仲間思いのところなど、飛燕が見たことの無い気持ちの良い人達。そして何より、女でも男でも飛燕を拒否しなかった。

 その人達に心を寄せるのに、時間はかからなかった。


 綜の手助けで尹に戻った後は、色家の当主となっていた母の弟、紅維こういのもとで保護を受けながら暮らすことになった。

 紅維おじは、生活の保証だけでなく、美燕びえんに男として生きれるように、飛燕ひえん、という名前をくれた。感謝してもしきれないが、すぐに女癖の悪さを見て、軽蔑した。女の園で暮らし、一人の男性を奪い合う女性の中で生きてきた美燕には、その女性達の辛さや恨みが痛いほどわかるからだ。よく刺されないなと、常々思っている。


 紅維がくれたのは名前と、中途半端な立場だったがそれ以上は望まなかった。なぜなら、自分を助けてくれた海寇達が、普通に交易をしに来ていたから。

 彼らとの交流は、飛燕の心を救い明るくしていった。

 そんな中、首領の一人娘の子守をお願いされた時の、飛燕の嬉しさなど、飛燕以外には誰がわかるだろう。

 その一人娘が、倭都わとであった。

 当時から聡明だった幼女は、おそらくこの国で偉い身分の人間だったであろう飛燕を、同等に扱った。それもまた、飛燕には嬉しかった。かしずくか、かしずかれるか。それしか無かった。同等なんて無かった。


 倭都の父が、異国の民達の間で起こった争いに巻き込まれ亡くなった時も、倭都は気丈だった。自分が、父の志を継ぐと宣言し、実際に首領になったのだ。

 その時飛燕は、かなわないと思った。この子についていきたい。この子の為に、何かしたい。この人達の役に立ちたい。

 そう決意し、飛燕は倭都に告げた。

 許す、と返された日から、飛燕は倭都の事を様とつけて呼ぶようになった。


 そして、不安定ながらも、幸せな日々が続いた。

 尹国内で高位の色家きぞくの保護下にあるが、公式には居ない者とされている飛燕と母。海寇達と親しくしていても、咎める者はいない。なぜなら、正確には色家きぞくじゃないから。飛燕はそれで良かった。

 色家の本宅にはいつまでもいられないので、別宅を借り母や使用人たちと暮らしているが、不自由はない。

 女の恰好をしている時に男達に性的に襲われたのが癪で、でも人を傷つけるのも嫌だったので、護身術として棒術も教わった。才能があったようで、だんだん上手くなっていくのも楽しかった。そのうち、その棒術の腕前と、叔父である紅維の勧めもあり、尹の軍に入った。実際は、貴族の子弟が一時的に鍛える為のゆるい部隊だったが、はじめて、飛燕は尹の中で居場所をもらった気がした。


 そんなある日。

 戴が、尹侯の溺愛していた妹が嫁いだという小国を攻め落として、情勢が一気に不安定になった。それをうけ尹国内では、戴を討ち巍から離れようという動きが活発になった。だが、戴が虞を攻めたのだって、前々年に尹が戴の属国の街を攻めて虞に与えたからというのがあって、まあ、そういう間柄なのだ。隣国同士、決して相容れない。

 それで、戴に戦を仕掛けるのに際して、どうも戦上手の若い武将がいるらしいので、まずそいつを排除しようと動きはじめた人達がいた。だがそうしたら、綜と仲の良い、環という国から有力な貴族の娘が戴に遊びに行っているという話が入り、綜と手を組みたい尹はうかつに動けないようにされた。

 ならば、その娘を環に戻そうとなるのは、自然な動きなのだろうか。飛燕にはわからない。

 その作戦をわざわざ叔父きぞくが実行しに行くと聞いた時も、ふーん、で終わった。叔父には、仲の良い尹軍の司馬しばが居て、その人の頼みもあって行くのだという。だが叔父は、どこか人を心から信用していないように見える。その将軍だって、便利だから仲良くしているのではないだろうか。一番近くに置いている有能な女性すら、何年も自分の屋敷で女僕長として使い側室にする気配もないのが、その証拠に見える。

 危険な任務だと言われても、気をつけてね、ぐらいしか言葉が思いつかなかった。遺言でも無かったし。

 考えないように教育されてきた名残り、というのはあるかもしれないし、性格かもしれない。

 

 そして叔父達は、その危険な任務をやり遂げた、らしい。

 帰ってきた事すらその女僕長の知らせで知ったので、とりあえず挨拶をしに行った。ら、夜に見たことない女の子がいた。あの子が、無理矢理連れ去られた子か。だけど、関係ない。そう思ってその日は帰った。


 数日後、珍しく叔父の本宅に呼ばれた。

 叔父が言うには、環の貴族の娘を捕えて帰ってきたは良いが、何故か娘が尹都の中を観光したいと言う。尹侯の許可が降りたので、逃げないように見張れ、との事だった。

 何故、自分なのか聞くと、娘は非公式に此処にいるので、正規の軍から人が割当られない。その点、身内である飛燕は腕も確かで都合が良い、と言うのだ。軍を辞めて口を閉ざせ、と言われた時も、せっかくできた居場所を手放すチクリとした痛みだけで、素直に頷いた。

 軍を辞める代わりに、その娘の見張りという役目を与えられた事の方が、飛燕の心を満たしたのだ。何も求められていない、男の自分が、はじめて期待されたのだ。その環から連れ去られた娘には悪いが、飛燕は、嬉しかったのだと思う。


 そして、はじめて会ったその人は、中央の貴族の娘と聞いていたが、腰の低い普通の少女だった。どこか大人びた発言もあるが、基本的に可愛らしい行動をする、珠香。それと、一緒に居たどこにでもいそうな普通の少年、慶珂。印象が薄いが、良く気が付く出来た使用人、といった風だった。

 珠香は後宮にいた貴族の妃達とは違った、変な人だった。

 市場を見に行きたいって言うし、実際目をキラキラさせて楽しそうだし、そこで買ったものを自分で料理したいと言い出す。実際、見た事ないような料理を出されて、美味しかったので驚いた。

 そして、叔父が気まぐれで言った料理番を、嬉しそうに引き受けたのだ。

 ああ、と飛燕はふと思った。

 自分と同じで、居場所が無いから、やりたい事を自分で作りだしたんだ、と。 

 急に、親近感がわいた。一方的にだが。


 料理をごちそうしてもらった日に、倭都についうっかり言ってしまったら、倭都も会いたいと言い出した。

 予想外の事だったが、何とか都合をつけ、叔父にバレずに会わせてあげられた。二人は驚いていたようだが、拒否はしなかったのでホッとした。

 和やかに市場に着いたのだが、急に倭都が我儘を言い、癇癪を起こして走り出した。いつもの事と放っておいたら、倭都が走り出したのを心配して、珠香が探しに行って、行方不明になってしまった。

 一気に、血の気が引いた。


 どうしよう。

 どうしよう。どうしたら良い?

 倭都は慣れているから勝手に戻るだろう。

 だが、珠香は? このままどこかへ逃げたら? 慶珂をおいて?

まさか。でも、本当に逃げて、見つからなかったら?

 自分の役目は、終わる。

 また尹の中で、役立たずの透明人間に、戻る。

 自分の価値が、また、無くなる。


 自分の、その身勝手な考えに、自己嫌悪した。

 その考えを振り払うように、近くを呼びながら探した。でも、探しても探しても、見つけられない。居ない。

 それが身に沁みて遂に動けずにいると、落ち着き払った慶珂が、とりあえず入り口に戻ろうと提案してくれた。

 もう、人混みの中では見つからないだろうから、と。

 素直に従い入り口に戻ったが、一向に事態は良くならない。

 いても立ってもいられず、叔父に指示を仰ぎ、大人数で探せばすぐ見つかるかと思い、屋敷に戻ろうとすると、慶珂に止められた。騒ぎを大きくするより、信じて待っていてくれ、と。

 その真剣な眼差しに、スッと、何かが冷静になった。

 そう。

 ここで大騒ぎせず、何事も無く戻ってくるなら、全て元通りだ。

 本当なら、やはり叔父に報告に行くべきなのだろう。だけど、迷子になっているだけだ。逃げたわけではない。戻ってくる。

 そう、自分に言い聞かせて、待った。落ち着き払った慶珂と共に。不思議と、慶珂といると自分も落ち着いていられた。昔もこんな事があったと、慶珂とちらほら話しながら、待った。

 途中で、倭都が入り口に戻ってきた。

 自分を探して、珠香が迷子になった事を聞くと驚いていたが、自分に出来る事は無いと、先に帰って行った。確かにそうだが、そういうサバサバした所が、羨ましい。


 それからまた、しばらく待った。

 日が落ち始め、海が夕陽色に染まる頃。またしても不安で、慶珂に戻ろうと提案していた時。

 本当に、珠香が戻ってきた。自分から、自分の足で。

 その時の飛燕の、安堵と自己嫌悪は、何とも言い難い。珠香に対して、恥ずかしくて、当たりがキツクなったのは申し訳なかったと思う。申し訳ない気持ち自己保身と、自己嫌悪で複雑な気持ちだったけど。

 無事に帰ったら帰ったで珠香は、倭都をわざわざ呼び出し、食事を出したいと言い出した。最初意味がわからなかったが、何かを決意したような顔をしていたので、あとは倭都の判断と思い、そのまま帰って、倭都に告げた。

 倭都は、別に構わない、と言ってそれを承諾した。自分のせいで、珠香が迷ってしまった事に、少しだけ、罪悪感を抱いていたようだ。ちょっとは大人になっているみたいだ。


 その日は、自分の中の自己嫌悪と、どうしたら良かったのかの反省と、昔の事を思い出して中々眠れなかった。

 次の日。

 珠香は、外で食事を出したいと言い出した。意味が分からなかったけど、とりあえず変な道具を買って一旦別れた。

 倭都達に、珠香の意向を伝えると、倭都の後見人であるおじいさんは渋っていた。だけど、若いのを数人見張りにつけ、何か変な動きがあったら駆け付けられるようにするのを条件で、最終的には了承してくれた。

 海寇はこの国では野蛮人の扱いを受けているが、倭都は彼らの国では重要人物だ。その申し出を受け入れ、場所を決めた。


 そしてそこで、珠香から衝撃的な提案をされた。

 海寇の船に乗り、綜に行きたいのだという。

 尹から、逃げ出したいのだという。

 倭都はその提案に、乗った。


 あぁ、終わりかぁ。


 今度は、素直に受け入れられた。

 自分がこの人を引き留めたいのは、自分の為だから。自分の為に他人に犠牲を強いるようなやり方は、嫌悪すべき事だ。あの母が自分にしたような事は、人にはしたくない。

 自分の事を知らず、好意的に、普通の男の子として接してくれた珠香。すごいすごいと何度も手放しで褒め、頼ってくれた。価値を認めてくれた、倭都たち以外のはじめての人。

 この人を、裏切りたくないな。

 珠香の、見逃して欲しいとの提案を、素直に受け入れた。

 倭都が、良いのかと目で問いかけてくるが、母と同じ事をしたくない、ただその意地で良いのだと言った。

 もともと、どこに居ても価値の無い中途半端な自分。そんな自分に、貫きたい信念ができたのだ。一度くらい貫いてみたいじゃないか。たとえそれが、自分の身をほろぼすとしても。


 珠香はそこから、テキパキと段取りを決め、倭都もそれを了承した。

 倭都も、珠香も、己のやりたい事ややるべき事の為に、動いている。珠香に一緒に行く? と聞かれた時、凄く心が動いた。でも自分は、彼女達を邪魔しない事だけしかできない。何も、出来ない。だから、断った。


 準備しているその中で、一日だけ、慶珂と普通に遊びに行った。

 はじめて、同世代の友達との遊び、を経験した気がする。何か凄い事があったわけじゃないけど、楽しかった。

 それだけで、良かった。

 慶珂は心配してくれたけど、お礼も言ってくれた。珠香の事が好きで、大事にしたいから、その珠香が信念を貫くなら力になってやりたい。だから自分は頑張ってるんだって、教えてくれた。それだけで、良かった。


 僕はどうなっても良い。

 そんな大事な信念のある人達の為に、役に立とう。

 それが、僕、の価値。

 そう、決めた。


 だから決行の日、運悪くあの商人の手下たちが絡んできた時も、どうせ警備兵が呼ばれると思ったから、先に行かせて、時間を稼いだ。中途半端な自分は、最悪、彼らに切られて殺されても文句が言えない。文句を言う人も居ないだろう。

 でも、そんな事どうでも良かった。


 船が、出た音がした。

 ああ、無事に、逃げ出せたんだ。良かった。

 これで、僕の役目は、お終い。

 すぐに追えないように更に時間稼ぎして、ある程度の所で降伏しようと思っていた。

 そしたら、煌びやかで悪趣味な鎧をつけた、叔父が出て来た。騒ぎを聞きつけて、直接来たらしい。

 ちょうど良いので、そのまま、叔父に無抵抗で捕まった。








 そして、今、ここに居る。

 つらつら思い出している間に、月は窓から見えなくなっていた。そんなに長く思い出していたのかと、飛燕はちょっと驚いていた。

 後宮では、良い事は一つもなかった。

 でも、尹に来て倭都達に会い、自分の信念を貫けた。


 飛燕は、満足していた。




 それからまた、どれだけ時間が経っただろう。

 採光窓から赤い日が差し込む頃。

 牢屋の鍵が開く、重い音がした。

 叔父だった。


「飛燕」


 重苦しい声。苦悩の混じった、辛そうな声だった。そんな声も出せたんだなあと、どこか他人事のように考える。


「なあに」


 つとめて、いつも通りに返事する。叔父は、ぐっと何かをこらえ、


「牢を、出なさい。勅命がある」


 そう、言い放った。

 飛燕は素直に頷いた。


「わかった。なんなりと、拝命いたします」


 叔父は、ついに顔を歪めた。




 わかっている。

 中途半端な位置にいる自分の行く末など。

 命が助かれば儲けものだが、もう色家には頼れない。最悪処刑、最善追放だろうか。

 母は、男になった自分に全く興味がないし、叔父が面倒みるだろう。


 ぼんやりしながら、飛燕は指示を聞いた。

 軍に改めて入り、戴との戦の最前線に行け、とのことだった。


「謹んで、拝命いたします」


 自分の声が、遠かった。








 地を這い続けた若い燕は、ついに速度を上げて逃げ出すことも、大空に羽ばたくこともできず、血に伏した。


 おわり

ママン、女に夢見すぎ説

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