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 次の朝。


 潜り込むようにして埋もれていた被褥ふとんの中で、目が覚めた。いつの間にか、ちゃんと被褥を被って寝ていたようだ。私の寝相凄過ぎない??

 とかどうでも良い事を考えながら、欠伸をする。軽く伸びをして、被褥から抜け出す。

 本を確認すると、ちゃんと昨日のまま、卓子の上にあった。とりあえずだが、ベッドの下の敷物と板に潜り込ませるように、本を隠した。……今の丁香なら、もしかしたらかばってくれるかもしれないけど、くれないかもしれない。不確定要素なので、用心するに越した事は無いと思う。


 とりあえず、もぞもぞしていたらいつも通り丁香が朝食を持ってきてくれた。ので、食べ終わったあと、いつも通り市場に行きたいので飛燕に知らせて欲しい旨を伝える。

 もう何度もしたやり取りだ。不信には思われないはずだ。丁香も、いつも通り返事をして、食器を下げてくれた。


 その後、いつも通り飛燕が迎えに来てくれて、いつも通り市場に出かけた。今日は馬車だ。


 ……気疲れした。

 いつも通りの事を、いつも通りこなす。これを意識的にするのって、しかもこちらは秘密がありそれを隠して不信に思われないようにしないといけない、なんて。こんなちょっとした事だけでこんなに気疲れするのだから、あんまりこういうのはしたくないなあ。まあ、最低でもあと二回しないといけないんだけど。


「それで、今日はどのお店に寄るの?」


 考え事をしているうちに、馬車はつき、市場の入り口に立っていた。集中力が切れると、途端に少し気持ち悪くなる私の身体の正直さよ。

 そういえば、飛燕に春陽達を紹介するのは、どうなんだろう、大丈夫なんだろうか。いつも通り、一緒に来た慶珂を見ると、肩を竦めていた。うう。ここまできて仲間外れも良くない気がするんだよね。ちらりと、慶珂の言ってた裏切る可能性、も頭をよぎったが、ここまできたら、腹をくくるしかない。

 

「今日は、お店に寄る前に、行きたいところがあるの。飛燕、案内してくれる?」

「良いけど……良いの? 僕がいて」


 飛燕が、こてんと首を傾げる。飛燕の遠慮と気遣いを、ゆっくり頷いて否定した。


「良いの。ここまできたら、私達は一蓮托生よ」

「いちれん?」

「運命共同体ってこと。一緒にきて。私達の協力者を紹介するわ」


 飛燕に二人を紹介する事に、不安はない。だが、春陽に飛燕を紹介するのは、ちょっと不安……色んな意味で。

 飛燕はきょとんとしていたが、私の言葉には、素直に頷いてくれた。それと、倭都にも紹介したいけど、船の出航の事で忙しいだろうから、飛燕からも伝えて欲しい、とお願いすると、それは快く頷いてくれた。良い子だなあ。あんまり人に利用されないように生きて欲しい。……うん。


「で、どこに案内したら良いの?」


 飛燕の言葉に、昨日みんなでお茶をした茶館の名前を出す。ちょっと考えた後、ああ、と声を上げて、思い出してくれたらしい。


「お客さんが結構入る、繁盛してるお店だよね。こっち」


 そういうと、いつも通り茫洋とした顔で、行く先を指さし歩き出した。その横に立ち、一緒に歩く。慶珂は、一歩後ろを歩く。市場は、人が多くて三人並んで歩けないのだ。


「あのね、飛燕。一個だけ、お願いがあるの」

「なあに? その人達の事なら、倭都さま以外には誰にも言わないよ」

「確かにそれもお願いしたいけど、飛燕を信じてるから大丈夫。……それよりも」


 意味が分からないのだろう。不思議そうな顔をしている飛燕。の恰好を見る。

 飛燕は、普通の少年のような恰好をしているが、実は一緒に居る時は背中に棒を背負っている。一見、ただの長い棒だ。

 だが飛燕は、この棒を使った武術、棒術ぼうじゅつが得意なのだそうだ。前に、色から教えてもらった。

 棒を紐でくくって背中に背負ってるって、明らかに見慣れない。腰に剣を下げている人は偶にいるけど。うちの春陽とか。

 そう尋ねると、尹でも結構珍しい武術なんだけど、本人も言ってた通り、結構強い使い手らしい。突く、叩く、払う、なんでもできるから、使えれば強い、との事だった。いざという時は、その辺の物が武器になるから、それも強みだって言ってたっけ。


 とにかく、そんな強い飛燕を見て、春陽がうずうずしないハズがないのだ。あの脳筋姉には、強い人と戦いたがる少年漫画の主人公のような厄介な癖がある。実際、それで割りと勝ってしまうから、鬼子とか天才とか戦闘狂とかさんざん言われるのだ。ちなみに、悠揚はそんな事しない。普通そうだと思うけど。


「協力者の内の一人は、私の姉なの。春陽って言うんだけど、強い人を見ると戦いたくなるって言う変人でね。相手にしないでほしいのよ」


 飛燕の頭の上に、はてなが三つぐらい見える。こてんと首を傾げる。


「えっと?」

大姐たいしお嬢さんは、特殊なんだ。瑞ってのは、ずっと環で武官ぶじんを輩出してる一族でな。その中でも希代の天才と言われてる人だ。天才と変人は紙一重って言うだろ。そういうことだ」


 慶珂が、フォローになってないフォローと説明をする。慶珂、わりと私達兄妹に対して毒舌よね。まあ、兄弟っぽくて良いけど。

 飛燕は、ますます困惑したような顔をしたが、とりあえず、と言って頷いた。


「その人と、手合わせしなければ良い、んだよね」

「そうそう。この大切な時に、どっちにも怪我して欲しくないのよ」


 頷いた飛燕に、私も頷く。

 飛燕は苦笑したが、話の通じる子で良かった。

 強い人は強い人を惹きつける法則、とでもいうのか、春陽が誘うと結構提案にのってくる人が多い。野蛮だなあ、と思いながらも、強い人に勝ってしまう春陽を見るのは、ちょっと好きだった。そんな事より。


「着いたみたいね」


 前方に、昨日見た建物が見えた。あの時は、人波に押され、さらに正体不明の人物に手を掴まれて絶望の中歩いていたから、そうとう遠くに感じていたが、なんてことはない距離にあった。心理的な距離のイメージってあるよね。

 私の言葉に、飛燕と慶珂がその建物を見上げた。二階建てだが周りが屋台形式なので、もっと高く見える。


「さ、入ろう」


 先導するようにその茶館カフェに私が入ると、二人も後からついて入ってきた。

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