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設定厨の設定大☆公☆開☆なので読まなくても問題ないですw
そんな、どうでも良い色んな考え事で、自分をごまかしながら部屋に入った。
中は、灯りがともされていたが、無人だった。まあ、個人の秘密なんて無いに等しいよねこの時代。招かれざる客だし、私。
でもそうしたら、この本どうやって隠そう。そんな、男子中学生みたいな悩みをすることになろうとは思いもよらなかった。
ちょっとだけ溜息を吐きながら、荷物の中から見つけ出してきた本を卓子の上に置き、灯り皿を一つ持ってきて、文字が読めるようにした。
先生に貸してもらった時、しおり代わりに挟んだ扇子がそのままだった。うう、先生せっかく貸してくれたのに、思い出すの遅れてごめんなさい。色々あって……。
と、心の中で先生に謝りながら、とりあえず扇子を挟んだ項から開く。
戴の条、と書かれているので、他の所の記述もあるかもしれない。
ちなみに戴の記述は、先生が教えてくれた以上の事は書いてなかった。
紙をめくり、次の項を開く。
次は、廿と虞の条と書かれていた。小国なのでまとめて書かれたのだろう。二つとも、戴と尹の間にあるそうだ。が、特に気になる文章は無い。
また紙をめくり、次の項を開く。
すると、尹の条、と書かれていた。もしかして、とは思っていたが、本当にあるとは思わなくてドキドキしながらも急いで読んでみる。
中身は、大河の長永江と大海に接して漁をしている国。ぐらいの事しか書かれてなかった。
この本の著者が来た事ないのか、興味が無いのか。実際に目にしたら、この漁師国の活気や市場の喧騒、そして、倭都達のような海寇すら受け入れて交易する狡猾さを感じるだろうに。
そんな事はどうでも良いんだった。
尹の後ろの方をめくってみたが、後は、特に重要そうな事は書かれてなかった。
ので、一回本を閉じ、改めて表紙を目にした。
そこには、『博望記』と書かれていた。はて、博望とはなんだろう? 博識を望むという事なのかな?
首を傾げながらとりあえず表紙をめくると、そこには、怒涛のように、著者自身の苦労話がつづられていた。
どうも、当時の帝に命じられて、広くなっていく一方の王朝に従う周辺国の様子を調べてこい、と言われたらしい。左遷くさいな。この、恨み節のきいた前書きを、そのまま提出したとは考えられないけど、調査自体はやり遂げたらしい。この、いわば周辺国マップを書くのに、何十年も費やしたそうだ。まあ、平和な統一王朝ならではの事業よね。
とにもかくにも、恨み言の前置きは読み飛ばし、各地の事が書かれているであろう、項を探す為に紙をめくる。
先生、もしかしてこんな事もあろうかと、この本を貸してくれたのかな……まさかね。そこまでカンでわかるなら、それはもう予言の類だものね。
一番最初に出て来たのは、もちろん、舜王朝の王都だった。
活気が溢れた最先端の都会で、雅な場所。そんな自負が透けてみえる描写だった。
その次は、巴の条だった。
今では、中堅国家の一つに成り下がったが、昔は盟主にもなった事がある国だ。当時は一番栄えていたんだろう、という描写が多かった。人口の多さや、道の広さが誇張されて書かれてる。環の北に位置する国だが、今ではあまり親交は無く空気のような国だ。
という事は、これ、舜王朝の後期が始まってすぐぐらいに書かれたのかな。巴が活躍したの、それぐらいだったはず。結構前の時代だけど、参考ぐらいにはなるかな?
次は、綜の条だった。
いきなり北西から東に行ったけど、これ、勢力順に書かれてるのかな。それとも、当時は綜と隣り合うぐらい巴が巨大だったのかしら。信じられないな。
まあ、とりあえず綜も、今よりは小さいけどそれりに有力だ、と当時から思われていたらしい。学問に力を入れており、若者を厚遇していたようだ。
そんなに昔からやっていたのか、その政策。
綜は、確かに大国で有名だが、もう一つ、有名な事がある。
綜都に学者を集め、学んだり討論したりする場所を幾つか作ったのだ。学問都市とでもいうのか。
綜や各国の官僚になる人もいるらしいが、どうも大学みたいに、学問や思想、哲学を研究したり発表したりする場らしい。
良いなあ、行ってみたいなあと思っていたが、もしかしたら見るぐらいはできるかもしれない。でも、絶対奇人変人多い。それだけはなんとなくわかる。優秀な人ってそういう所あるよね。
とにもかくにも、そんなに昔から行っている政策は、いま存分に花開き、大国の綜を支えている、そうだ。
この人達のおかげで、便利になった事や明らかになった事も結構多いそうだ。平和、大国、バンザイ。
他国も真似してそういった大学のようなものを開いたが、綜が有名すぎてあんまり優秀な人は集まらないらしい。一極化ってやつね。どこでも起こるのは仕方ないんだろう。
また、紙をめくる。祢の条と書かれていた。
綜のすぐ北に位置する小国みたいだった。おそらく、倭都ちゃんが言った漁村というのは、綜の国の中にないなら、この国の中にあるんじゃないかな。今でもあるなら。
祢は、どうも王都にも近いようだ。綜に行って王都に行くよりも、近道できるかもしれない。代々、帝が使用する食器を奉納する国のようだ。陶器が有名なのかな。環までは名前聞こえてこないけど。……環って、中央の一部だって自負しているけど、もしかしたら結構な田舎だったのかも……。うう。でも、怖いもの見たさも相まって、環がどう書かれてるのか、知りたい。
ちょっと、文化的衝撃を受けながら、ペラペラ紙をめくる。北方の国がいくつか書かれたあと、中央に降りてくる。中央は、昔から知ってる場所だからか、内容はどれも簡素だった。
ふと、ある項が勝手に開いた。
なんだろうと思って見ると、一枚の紙きれが挟まっていた。これの厚みのせいで、近づいたら勝手に開いたようだ。
挟まっていた項は、環の条だった。
ラッキーと思ったが、一瞬でハッとした。これ、先生から借りた本だ。先生のしおりだとしたら、無くしたらまずい。そう思って、白いその紙きれを持ち上げる。と、どうやら裏面だったみたいで、表に何か書いてあるようだった。
「……あれ。これって、獣避けの護符?」
そう。表に返してみると、直線や曲線の複雑な模様がびっしりと描かれていたのだ。
実物を見る機会というのは少ないが、こんなにも異様なのは、一度見たらなかなか忘れられない。一度きりの消耗品なのに、やけに高価なこの護符は、効果だけは証明されている。
それが、この本に入っているという事は、先生なりの気遣いや優しさだったのだろうか。ただの忘れ物だろうか。
どちらかはわからないが、とりあえず、環の項に戻しておく。
もしもの時は、使わせてもらおう。
ありがとう、先生。先生の知らない所で、ずいぶん助けられています。……いっそ怖いぐらいに。
とにもかくにも、環の条だ。
目を落とすと、まあ、他の国と同じぐらいに簡素に書かれていた。が、一点、環木という最高級の香の産地、というのはちゃんと書かれていた。当時から有名だったみたい。ちょっと嬉しい。
その環木が、ほぼ手つかずで荷物の中に入っているのを、さっき確認した。良かった。
環の項を確認しおえたら、急に眠気が襲ってきた。
欠伸をしながら、夜着に着替え、灯りを消す。
ふかふかの被褥に、倒れ込むようにダイブした。少し行儀悪いが、そのまま眠気に抗わず、眠りに落ちたのだった。




