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 飛燕が案内してくれたのは、旅の道具も扱っている、食器屋兼道具屋さんだった。道具類をどう簡略化して持ち運ぶか。考えられたそれらを見るのは楽しかったが、目的の物がさっさと見つかってしまった為、慶珂に促され、渋々店を出る事になった。ああ、もっと見たかったなあ。


 とにもかくにも、蔦で編んだバスケットのような、籠、が見つかった。

 元は、海辺でとれる海産物を運搬するために深く作られているそうだが、食器類を入れてみるとピッタリだった。こっちで、そういう風に使う人は居ないそうなので、怪訝な目で見られた。

 い、いいの。流行は、自分で作るものって、誰かが言ってた気がするし。


 とりあえず、その後は普通に市で買い物を済ませ、迷子やはぐれる事もなく、無事に過ごせた。

 帰る頃には、だいぶ飛燕の雰囲気も和らいでいた。怒りや不安というのは、あまり長続きしない感情らしい。ぶり返したりはあると思うけど。

 飛燕が、そこまで怒っていたわけじゃないようで、本当に良かった。


 この日も、馬車で屋敷に戻った。馬車の中で、飛燕もちょっとだけ口をきいてくれた。


「それじゃあ、夕方また迎えに来るから。それまで、おとなしくしててね」

「大丈夫よ。それじゃあ、よろしくね」


 愛想良く飛燕に手を振ると、呆れたように肩を竦めて、飛燕はそのまま馬車に乗って去って行った。なんだろう。打ち解けてきているような、ないがしろにされてきているような…。

 ま、まあ、とりあえず、私は私のできることをするだけ、よね。





 屋敷に入り、出迎えてくれた丁香に挨拶をし、もはや顔なじみになった、厨房へ向かう。

 厨房長達はさっそく集まってきてくれて、今回は、昼の分と、夕方出かける時に持ち運ぶ為の分を、手伝ってほしい事を告げる。


「持ち運ぶ?」

「はい。お外で、食べようと思って。何か良い案ありませんか?」


 私が聞くと、料理人達は怪訝そうに、顔を見合わせていた。

 仕出し、という文化はあるみたいなんだけど、それでも家の中で食べる事を想定されている。外は暑いから、仕方ないのかもだけど。

 一応、肉まんみたいに、皮で包んだものは考えているが、それだけだとつまらない気がする。ビックリもさせられないだろう。

 ざわざわしていた料理人達だが、一人が声を上げた。


「それやったら、竹串にさしたらどうやろ」

「ああ、それ良さそうですね!

 

 串は良い考え。バラバラになりにくいしね。ここでは、主に橋のように使われたり、炙る時に持ち手として使われるから、在庫もあるしね。焼き鳥みたいで美味しくできそう。


「せや、皮に包むとかどうや?」


 また、別の人が声を上げる。その声の主を探し、見る。


「それも、良いと思います。だけど、私だけだとレパー……種類が思い付かなくて。なるべくたくさん種類を作りたいなって」

「そんなら、皮だけ作っといて、あとは勝手に色んなもん自分で包んだらええんちゃう?」

「さすが料理長!」


 それは、凄く良い考えかも。手巻き寿司みたいに、自分で自分の好きなものを巻いて、食べる。倭都の好みもわからないし、正解かも!


「それ、良いですね!そしたら……」


 その後は、中に詰める具材や皮の大きさを話しあって、作業にとりかかった。

 馴染み深い膾、肉も魚も野菜も細切りにして、ほかにも炒めた魚とか、そぼろにした肉とか、ふわふわ卵とか、とりあえず何種類か作って、仕上げに春巻きみたいに真ん丸に広げた皮を作った。

 そして、昨日のリベンジの、つみれ汁。……合うかなぁ。まあ、今日はわりといい線いった気がするし、持って行ってみよう。

 焼き鳥もどきは、焼き加減が難しくて、失敗した。残念。だけど、手応えはあった。みんな、加減がわからないから失敗しただけだ。次に期待しよう。

 そうこうしていると、とっくにお昼の時間になっていた。丁香が、厨房に入ってくる。


「ご主人様がお戻りです」

「もうそんな時間ですか。わかりました、とりあえず、持っていってください」


 もちろん、ピクニック用と、色用はわけてる。色用は、色好みに味付けされてるみたいだから、気に入ってくれるといいんだけど。

 説明をしないといけないだろうから、今回は私も早めに厨房を出る。後ろをチラリと振り返ると、彼らがちょっと不安そうな面持ちをしていたので、大丈夫という気持ちを込めて、サムズアップして厨房を出た。意味は、わからないだろうなぁ。


 少し急いで、色が待ついつもの部屋に入ると、目の前にいくつもならべられた小皿に、小首を傾げていた。目の前には、皮だけが置かれているのだから、なおさらだろう。

 慶珂はいつも通り、澄まして様子を見ていた。


「色さん。お帰りなさい」

「あ、ああ。珠香ちゃん、ただいまやで。で、これは、なんなん?」


 私の前にも、皮が用意されている。椅子に座りながら、説明する。


「これは、自分の好きなものを選んで、こうやって皮に乗せて、くるくる~っとして、食べます」


 真ん中に寄るように、いくつか具材を乗せて、半分に折り、クレープみたいに折りたたんで巻いて、持ち上げた。いける、これはいけるぞ。

 が、色を見ていたら、怪訝そうな顔をしたままだった。


「なんでまたそないな面倒な事を……」


 あれっ? 楽しくない? こういうの、私、結構楽しいんだけど……。

 しょんぼりしてしまった私に、慌てたように色が笑いかけてく?。


「ま、まあ、珍しいっちゃ珍しいし、やってみよか」

「ご主人様。恐れながら、わたくしがお取りいたしましょうか」

「ああ、丁香。せやな、そうして」


 私達の会話を同じ部屋の中で、待機して聞いていた丁香が、すかさず助け船を出してくれる。くぅ~! 頼れるメイドさん本当にありがと~!

 感謝の目で見つめると、丁香は色に言われた具材を取っていた。私の目力は、いつも不発だ。ちぇ。 

 慶珂の方を見ると、慶珂は戸惑いながらも、私がしてみせたように具材を取って、巻いていた。器用だから、はじめてでも綺麗に巻けている。よしよし。丁香もわりと器用なようで、くるくると難なく巻いていた。


 一個食べ終えた後、色はわりと気に入ってくれたようで、その後も丁香に巻いてもらいながら、結局、三本たいらげていた。


「これはこれで、結構ええな。巻くんは面倒やけど。まあ、なんにせよ今日もごちそーさん。俺は仕事に戻るわ」


 そう言って、まあまあ機嫌良く部屋を出て行った。

 その後、後片付けをしている丁香に、声をかける。


「あの、丁香さん。ありがとうございました」


 丁香は驚いたように私を見た後、片付ける手を止めた。


「とんでもございません……お礼を言うのは、私の方です。主人が、こんな時間に屋敷に戻る事など、しばらく無い事でしたから」


 そう言うと、私に向かって頭を下げた。慌てて、手を振る。


「わ、私は、なにもっ」


 私の否定を、微笑んで受け流すと、丁香はまた後片付けに戻った。

 ちょっとだけ、丁香とも打ち解けられたんだろうか。だったら、嬉しいな。

 出ていく丁香を微笑ましい気持ちで見送っていると、


「あの人、ここの主人の良い人、らしいな」


 同じく、部屋を出て行く丁香を見送っていた、慶珂がぼそりと呟いた。


「良い人って?」


 言葉の意味がわからなくて、思わず聞き返してしまう。


「……わからないんなら、いいんだ」


 あきれたように言う慶珂に、ちょっと頬を膨らませてしまうが、あんまり聞いて欲しくなさそうだったので、それ以上は聞かない事にした。

 私はそれより、夕方からのイベントの方が、ずっと気がかりなのだ。


 その後は、慶珂と適当にお茶したり、厨房で具材を増やしたり、減らしたりして(中たりたくはないしね)、その時を待っていた。

都合の良い人、という意味も無くはない

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