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色は自分の部屋に戻り、残った私達には食後のお茶が運ばれてくる。二人ともそれを飲んで、一息ついていた。
使用人の人達も、片付けや自分たちの食事で、今、この部屋には誰もいない。
私達も、この屋敷でだいぶ信用されたようだ。
食事の後、黙ってお茶を飲んでいた慶珂に、今日の感想を聞いてみる。すると、慶珂は少し考えるそぶりを見せたあと、
「そうだなあ。確かに奇抜だし、目を引く。味も悪くなかった。でもお嬢さんなら、もっと美味くできそう、っていうのが俺の感想かな」
そう考えながら言った。さすが、同じ釜の飯を食べた人間だ、わかってる。その解答に、満足そうに私は笑っていたのだろう、
「正解だろ?」
そう言って、慶珂が笑っていた。
「その通り。もっと、適した魚がいるそうなのよ。次は、それで調整してみたいと思ってるの」
「熱心なことで。……で、本題はそれじゃないんだろ」
そういうと、慶珂はお茶を置いて私を見た。私も、お茶を卓子に戻し、椅子を慶珂に近づけた。そして、はじめてこの屋敷に来た時のように、ひそひそ話す。
「春陽と、会ったわ」
「大姐お嬢さんと?!」
思わず大声を上げた慶珂が、ハッとして口を手で覆った。慶珂もヒソヒソと話し出す。
「な、なんで大姐お嬢さんが出てくるんだ?」
「私もびっくりしたんだけど、どうやら黄さんが私を見つけて、ここまで探しに来てくれたらしいの。それについて来たんだって」
「はぁ~。すっげえな、黄さん」
慶珂が、感心したように溜息を吐いた。チッチッチと、顔の前で人差し指を振る。
「ここで驚いてちゃダメよ。なんと、私、綜都と舜都に渡る方法を見つけたのよ」
「はあ?」
今度は、呆れたような顔で、私を見る慶珂。
「黄さんの奥さんも隠密で、その人が教えてくれたの。計画としてはね……」
ここで、私はさらに慶珂に顔を近づけて、あの茶館で話し合った計画を教えた。一応、黄さんは反対で、父に報告という告げ口をしに戻ったことも、教えた。
聞き終わった慶珂は、信じられない、という顔をしていた。呆れた、ともとれる。何と言っていいかわからない、という風に私を見ていたが、ようやく口を開いた。
「……本気なのか?」
と、思ったら、心配そうに顔を覗き込まれた。
近い近い。
自分から近づくのは何とも思わないけど、近づけられたら、戸惑っちゃう。顔を引きながら、自信ありげに、
「もちろんよ」
そう言った。勿論、自信は無い。見栄をはって、胸をそらせたが、凄く怪訝そうな目で見られた。……見抜かれてる。
「……そうよ。本当にできるか、ちょっと不安よ。でも、やりたいの。どうしても」
諦めたように溜息を吐いて、そらせた胸を戻す。
慶珂を見つめる。
慶珂は、苦笑していた。
「お嬢さん、知ってるか。俺、お嬢さんのその顔に弱いんだよ。……素直に帰って欲しいんだけどなぁ」
あーあ、と溜息を吐いて、諦めたように笑っていた。
「環に帰るまで、が俺の仕事だからな。もちろん、ついて行くよ」
「ありがとう! 慶珂! 慶珂が居てくれて、本当に心強いわ」
慶珂が賛同してくれた事で(してくれると思ってたけど)、嬉しくて思わず手を取って上下に振る。なされるがままになっていた慶珂だが、私が手を離すと、ちょっと意地悪そうに笑って、
「大姐お嬢さんが居れば、俺は必要なさそうだけど」
そう言った。
無論、慶珂より春陽の方が何倍も強い。だけど、慶珂に一緒に来て欲しいのは、そういう事じゃない。
「春陽は……強いから。逆に、慎重さが足りない。そのへん慶珂は色々気が付くし、信頼してるの」
思ってる事を慶珂にわかってほしくて、真剣に話す。当の慶珂は、苦笑したまま私の言葉を聞いていた。
「評価してくれて有難いが、過大評価だぜ」
慶珂の言葉に即、首を振る。
「そんな事ないわ、正当な評価よ。とりあえず、明日はこの料理を改良して、何とかしてみるね」
私の評価に首を竦め、慶珂がつぶやく。
「何とかなると良いけど」
本当に、私が何とかするしかない。この、考え様によっては強スキルで。




