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 黄さんが案内してくれたのは、茶館カフェだった。入ってみると、色んな人や会話であふれていた。

 一言でいうと、雑多。なかなかこういうお店も来れないから、新鮮は新鮮だ。ちょうど四人、腰かけられそうな卓子と椅子があったので、そこ座る。


「すみませんね、お嬢さん方。高い店より、こういった店の方が人に紛れるもので」

「どこでも、気にしないぞ」

「ええ。なんだか新鮮です」


 私達姉妹の言葉に、ふと微笑むと、黄さんは適当に注文してくれた。

 注文したお茶と甘味はすぐ運ばれてきたので、有難くいただく。出て来たのは四角い寒天、みたいな? プルプルしてるのに、甘い蜜がかかってる。素朴な甘さ。美味しい。見た目も涼やかだ。


 ひとしきり食べ終わり、みんなでお茶をすする。黄さん、甘いものいけるのね。逆に、珊瑚って言ったっけ、奥さんの方は、お茶しか飲んでない。甘いの苦手なのかな。

 とか、どうでも良いのは置いといて。


「で?」


 一息つき、茶器を卓子の上に戻し、三人を見る。


「はい」


 黄さんが、穏やかに返事をする。


「聞きたい事は、それこそ山のようにあるんですが、とりあえず。どうしてここに? 見つけてもらって、とても嬉しいんですが、まるでジー、魔法みたいですね」


 主に、黄さんを見ながら話す。思わず、GPSでもついてるかのように、とか言いそうになった。魔法、も微妙だったかも。

 とりあえず黄さんは、私が不思議がっている事はわかってくれたようで、穏やかに微笑んだまま答えた。


「ええ。大変でしたが、何とか攫った一団に追いつけましてね。その後は、機会をうかがっていました」

「機会、ですか?」

「ええ。お独りになる、機会を。たまたま珊瑚に見つかってしまって、大変でしたでしょう」


 ははは、とまるで大変とは思ってないような態度で、お茶をすする。……マジでまた攫われる覚悟をしたぐらいですよ、ええそれぐらいですとも。


「荷物などは、あの屋敷にありますか? 可能なら持ち出してもらって、難しいようでしたら、私共が回収しましょう」


 さらっと、今までと同じテンションで黄さんが話す。

 ああ、そうか。

 私、尹の人の手によって環に帰るのを拒む覚悟はしていたが、環から差し出された手を拒む覚悟は、していなかった。

 春陽を見る。

 なんの疑いもなく、私が帰ると思っているので穏やかな顔をしている。

 珊瑚と、黄さん。二人も、当然のように帰る段取りを話そうとしてくれている。

 ああ。

 私は深く溜息を吐き、両手で顔を覆った。


「どうした、珠香? 何か、困る事でもあるのか?」


 春陽が、心配そうに聞いてくる。その優しさすら、今は、心苦しい。でも、言わなきゃ。私の覚悟は、それぐらいだったのかって、慶珂に怒られちゃう。


「……みんな、聞いて欲しいことがあるの」


 私はそう言って、両手を顔から離し、深呼吸した。

 黄さんを見る。


「今、戴と尹は、いくさをしようと、準備しているんですよね」


 黄さんは、私の言動におやっという顔をしたが、答えてくれた。


「ええ。その線が濃厚です。二国の思惑はわかりかねますが、近々開戦するでしょう」


 当たり前のように出てくる言葉に、ズシッと心が重くなる。でも、言わなきゃ。私が、私がするって決めた事だもの。


「……私は、その戦を、止めたいと考えています。正直、どうしたら良いのか、まだわかっていません。でも、二国が私を利用しようとした所に、活路があると思っています。だから、まだ、帰れません」


 いわゆるゲンドウポーズをしながら、真剣な声で、言ってみる。

 一番に反応したのは、やはりというかなんというか、春陽だった。


「はあ?! 何言ってんだ珠香。お前、自分が何言ってるかわかってるのか」


 大きな声を出し、店中の注目を集めてしまったので、さすがの春陽も声のトーンを落とした。


「わかってる、つもりよ、姉さん。だから、出来たら、姉さんにも手伝ってほしい。お願い」


 意図的に、あまり呼ばない姉さん呼びをして、春陽の人情に働きかける。怒った顔をしていた春陽だったが、ちょっとは効いたのか、今度は困った顔をした。そして、珊瑚に顔を向けた。


「さ、珊瑚殿も何か言ってやってくれ。馬鹿げてるって」

「せやねぇ~。でも、なんでいきなりそないな事言いだしたん?

理由でもあるん? あるんやったら、ぜひ聞きたいわぁ」


 優雅にお茶をすすっていた珊瑚は、春陽に泣きつかれ、私に向き直った。

 これ、理由言うの、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……。うう。無言の圧がすごい。


「あの。戴と、尹に、結果的に連れて来られたんですけど、その中で、出会った人達に、死んで欲しくないっていうか。私が、開戦を先延ばす手段みたいに戴で扱われていたそうなので、何か、できないかなって」


 しどろもどろに、ところどころ誤魔化しながら言ったけど、伝わっただろうか。下げていた目線をチラッと珊瑚に向けると、あの、私を騙していた時のような、にんまり目になっていた。こわい。


「ふぅ~ん。関わった人達に死んで欲しくない、ねえ。それ、特定の誰か、やろ。その顔見たらわかるわ。恋の為なら、なんだってしたろって、若いうちは思ってしまうんよなあ。若いってええねえ」


 今度はうっとりしたように私を見る珊瑚の、表情が怖い。じゃなくて!


「ち、ちちちち違います! こ、恋、とかじゃないくて! あのっ」

「うふふ。恥ずかしがらんでもええやん。ええなあ、アタシも若い頃は、それは恋に生きた女やってんで」


 慌てて両手を振るが、私をではなく、チラッと黄さんを見る珊瑚。どこ吹く風ですましてる黄さんが、大人過ぎてヤバい。じゃなくて!


「ほ、本当に違う、んですっ」

「珠香! 私は許さんからな! そんな、どこの馬の骨ともしれない奴!」


 店内中の視線がこっちに集まってきてるのが、わかる。思わず顔を両手でまた隠し、首を振った。


「だから、誤解だってぇ」


 口から絞り出せたのは、それだけ。顔が、めちゃくちゃ熱い。もうやだ。


「若い子をいじめるものじゃないよ、珊瑚。さて、お嬢さん方に置いては、現実的な話をしたいのですが、良いですか?」


 黄さんが、すっごい穏やかで気を使った喋り方をしてくれたので、何回か深呼吸をして、両手を外す。黄さんは相変わらず微笑んでいて、春陽はむすっとして、珊瑚はにんまりしていた。うう。私、この人苦手だなあ!


「はぃ。すみません……どうぞ」


 黄さんが、もう一杯お茶を頼んでくれたので、それをまたすする。


「問題点は、いくつかありますが、まず大きなものは、お嬢さんが居る居ないで、本当に開戦が左右されるのか、ですね」


 黄さんの言葉に、こくりと頷く。


「これは、情報が少なく、推測が難しい。ですが、過去の例においても、婦女子が開戦のきっかけはあれど、止めたきっかけになった、というのは聞いたことがありません。また、両国そのつもりで準備しているでしょうから、両公に直談判するぐらいしないと、無理でしょう。つまり、無理です」


 なんの感慨も無く、私の希望をへし折ってくる黄さんに、本気を感じる。そうよね、表ではにこにこしてても、隠密だもの。表情ぐらい、つくれるよね。それに、私が帰らないと、黄さんの任務も終らない。わかってる。わかってるけど。

 私はグッと黄さんを見つめた。


「わ、わかってます。私一人が、ここで、どんなに望んでも、そんな事できないって」

「なら」

「でも私はっ。戴と、尹が、どうしても環を、そしてその後ろにいる盟主めいしゅそうを、気にしているようにしか思えないんです。綜は、盟主でしょう? なんとか、綜を説得し動かす事ができたら、止められるんじゃないかって、思ってます」


 私がここ数日でずっと考えていた事を、ここぞとばかりに吐き出す。慶珂と連れてこられた時に話した事を、ずっと考えてた。

 黄さんが、ちょっと眉を寄せた。

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