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「…珠香?」
「え」
凄い勢いで、抱きしめられた。抱きしめられというより、正面から捕まえられたと言った方が正しい勢いだった。
「心配したぞ! 珠香! バカバカ! 馬鹿妹!」
「し、春陽?!」
まさか、ここで見ることになるとは思わなかった姉の声に、信じられない思いが胸を巡る。だが、この力強い抱擁。お団子から垂れる一房の髪。声。何もかもが、春陽そのものだった。
「そうだぞ、お前の最高の姉だぞ! 馬鹿妹! 一人でいなくなりおって!」
「春陽、本当に春陽なのね! あぁ、信じられない!」
私も、ギュッと抱きしめ返す。すると、もっと抱きしめられる。その腕は、少し震えていた。苦しいけど、ああ、心配かけたのだな、という思いと、身内に会えた嬉しさで、涙が溢れて来た。
「ば、馬鹿とは何よ、姉さん! お互い様でしょ!」
「馬鹿は馬鹿だ! 私も馬鹿だが、お前も馬鹿だ!」
二人して、泣いているのか笑っているのか、良くわからないような状態になった。……道の往来のど真ん中で。
「さてさて、感動の再開は済みましたか、お二人さん」
そこに、常識的に、穏やかに声をかけてきたのは、誰であろう、黄さんであった。
ああ、信じていたわ黄さんっ。私を見つけてくれそうなのはあなただけだって。あなたは救いの隠密よ。五体投地しても良いぐらいの、感謝。圧倒的感謝。
「黄さん!」
「積もる話はあるでしょうが、まずはあちらの茶館にでも行きませんか。あと、ちなみにコレは、私の妻の、珊瑚です。何か、脅されませんでしたか?」
「えっ?!」
すっごい朗らかに、衝撃の事実を明かされたんだけど?!
私のあの、悲壮な覚悟は何だったのか。あ、でも確かに、良い所に、連れて行ってあげる、としか言われて無い…? 私の、早とちり? いや、でも、あんだけ怪しく無理やり連れて行こうとされたら、誰だって警戒するよね?!
私が一人で悶々と頭を抱えていると、
「うふ、可愛らしい反応やったから、つい虐めてしもた。ごめんなあ」
楽しそうに、ちっとも済まなさそうじゃない顔で、女性が頭を下げた。
あの妖艶な雰囲気はどこへやら、ちょっと綺麗などこにでもいるおばちゃん、っていう感じる。す、すごい。
私がポカンと口を開けて固まってしまったので、春陽が私の肩を組み、歩き出した。つられて歩く。
「おっ、そういえば。その服と髪飾り、こっちの国の物か? 良いな、よく似合ってる」
「そ、そうかな」
「うんうん、さすが私の妹だ」
春陽は、満足げに頷く。気づいてくれて嬉しいのと、こんな素直に褒めてきたのが男性だったら危なかった、というドキドキがあった。本っ当になー、双子はなー、性別がなー、逆なんだよなー!
と、ふと、気づいた。
「そういえば、春陽。悠陽は? 今から行く所にいるの? それとも、戴の国にまだいるの?」
そう、悠陽の所在だ。
戴で会った時は、タイミングが悪すぎて聞けずじまいだったけど、この二人が単独行動をするなんて考えられない。キョロキョロ見回した後に春陽の方を振り返ると、バッと顔を逸らされた。……え?
「ま、まさか……一人で来たの?!」
「声が大きい」
「嘘でしょ?! 悠陽はどうしたの? 納得して環に残ってるの?」
私の質問には全て答えず、顔を逸らす春陽。
……呆れた。悠陽が可哀想すぎる。今度家に帰ったら、晩御飯、春陽の分を抜いて全部悠陽にあげよう、そうしよう。
そんな私達を見て、あの、珊瑚とかいう女性が、愉しそうに目を細めて言った。
「ふふ。このお姉さんはねぇ、妹が心配すぎて、環を飛び出して来たんやてぇ。いけない子やねえ」
そんな珊瑚に、呆れたような顔を向ける黄さん。
「そんな子についてきたのは、お前の判断だろ。全く。どうして環公が許可したのやら」
「美しい家族愛、っちゅーやつに、ほだされたんやろうねぇ。アタシも、あのお嬢ちゃんも」
「本当にそれだけか?」
「それだけやで? 何や、信用無いなぁ、悲しいわ」
「おおかた、面白そうとでも思ったんだろう」
「別に、否定はせえへんけど」
あっちの夫婦は、夫婦で楽しそうに会話してるし。もう、なるようになれよ(大の字)
ここで、番外編とちょっとだけ繋がりました




