43
色は、私達三人を見回して、首を傾げた。
「どゆこと?」
「あ、あの、今日は、飛燕くんに案内してもらって、とても楽しかったので、お礼に、大したものは出来ないのですが、手料理でもと思って……。だ、ダメですか?」
私のおどおどしつつ目を見ない発言に、色がちょっと驚いたような顔をした、のがちらっと見えた。
「珠香さん、自分で作りたいんだって」
「ほんまぁ。へ……器用なお嬢さんなんやね。まあ、ええよ、うちの厨房使ってもらって。料理長にも言っておくわ。何か困った事があったら相談してや」
困惑したけれど、快諾してくれた。
とりあえず、そうと決まれば話は早い。
色は丁香を呼んで、厨房まで案内するように言ってくれた。厨房を貸す事と、料理長の手助けもついでに。まあ、慣れた人が居た方が私も助かる。
丁香は驚いたような顔をしていたが、何も言わず、自分の仕事を果たしてくれた。
慶珂と飛燕は、出来上がるまで別室で待機という事になった。
すんなり、厨房も借りる事ができた。
料理長、という年配の男性は、怪訝な顔をしながらも、黙って丁香の話を聞いていた。その後、必要最低限の説明だけしてくれたのだが、職人気質を感じる。
厨房の中は、家と配置こそ違えど、使っている道具とか、作り方とかは、大きく違わなさそうだった。
問題は、調理方法と、調味料、味付けか。
飛燕の買ってくれた食材を、とりあえず、調理台の上に置く。
魚がいくつかと、貝、こんぶっぽいもの。あと、なんかの海藻。出汁を取る分と具材、あと魚の煮つけと、刺身かなあ。貝は酒蒸しにしようかな。海老が食べたかったなぁ…。
とりあえず、魚をさばく事にした。まるっと一匹の姿でいくつも買ってきたから、大変。鱗をとって、まず一匹三枚おろしにしたが、次、どうしよう。他の料理人に三枚おろしだけでも手伝ってもらえると助かるんだけど。そう思って、キョロキョロしていると、察してくれたのか、料理長が近づいてきた。
「これをおろせばええのか」
「は、はい。これと、これは刺身で美味しいと聞いたので、造ってもらえると助かります。こっちは、煮物にしようかと」
「煮物?」
「はい、調味料に浸して火を通し、味を浸透させます」
「ほう、中央にはそんな料理法が……」
「後で、こつとかお教えしますね。こっちは、酒蒸しに」
「ほうほう」
料理の話をしている間に、なんだか料理長と打ち解けられた気がする。
その後、何故か料理長が協力的になってくれたので、その後の工程は楽なものだった。
途中から、他の料理人も手伝いにきてくれて、私の、煮つけと昆布?出汁の鍋の料理方法を聞いてきた。私は逆に、魚醤のような調味料の使い方を聞いたり、なんだかんだ、楽しい時間だった。
味見、と称してみんなで少しずつ食べてみたけど、おおむね評判は良かった。もともと此処で料理していた人に、後半はほぼ助けてもらったのだから、酷くなりようがないか。
うんうん、はじめてにしては上出来じゃないかな。海産物が豊富な前世があって良かった。
できた料理を素で運ぼうとしたら、それは止められた。
そこは素直に引く。
料理長が、使用人の人を呼んでくれて、来たのは丁香だったけど、運んでくれた。その時、何人か女性の使用人がいけど、みんな一定以上の見た目の美しい女性達だった。その女性達に丁香は、女僕長と呼ばれていた。丁香って、この家で結構上の立場の使用人だったのね。
料理が運ばれている間、料理長が話しかけてきた。
「お嬢さん。アンタ、凄いな。最初は、どうせ俺たちが下ごしらえから何から全部すんだろって思っとったけど、自分でやりだしたときは驚いたぜ。しかも、結構上手いじゃねえか。見直したぜ」
おお、そんな風に見られてたとは。しかも、見直してくれたなんて、嬉しい。それもこれも、瑞の家の料理長のおかげね。
「ありがとうございます。むこうの家で、料理長に教えてもらってたんです」
「ほほう、どっかの家で習ってたんだな。どうだい、良かったらここで働かんか。アンタ筋が良い」
「あー、いやぁ、ははは」
ここの料理長が、善意で提案してくれる。純粋に、認めてくれた事が、とても嬉しい。
だがここで働く気は、無い。私には、やる事あるし。
案外向いてる職場なのかもしれないので、未来の落ちぶれた時の候補に入れておこうと思う。
「その方は、お客様ですよ、尽料理長。むやみに勧誘しないように。あと、敬語を使いなさい」
料理を運び終わった丁香が、声をかけながら入ってくる。その声は、威厳すら感じさせる。メイドさん達だけではなく、全体の長なんだろうか。
料理長は驚いたように私を見て、頭を下げた。
「もっ、申し訳ありません!」
「あの、頭を上げてください。気にしないでください。ここでは、私は招かれざる客です。しかも、ここを貸してもらっている身です。教わりたい事もありますし、そんな、恐縮しないでもらえると、助かります」
思ったままを、素直に口にする。
戴でも、尹でも、下手したら環でも、私はお荷物だ。そんなに、恐縮されたり敬われたりする人物ではない。あと前世の記憶の庶民の記憶のせいで、そういう扱いに、慣れない。ウチでなら、だいぶ受け入れる事が出来たのだけど。
料理長どころか、丁香すらも驚いた顔をして、私を見る。な、何か変な事言ったかな。
丁香が仕切り直すように、咳払いを一つした。
「とにかく。お嬢様。支度が終わりましたので、お戻りください」
「わかりました。それでは、手伝っていただいてありがとうございました」
丁香に促され厨房を出る時、料理長を振り返りお辞儀をする。料理長も頭を下げ返してくれた。
それを見て、私は丁香の後ろを歩き出した。
にょぼく、って言い難いから勝手に脳内でメイドっていう言葉に置き換えた珠香ちゃん。




