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 想像していた尹都いんと、とはだいぶかけ離れていた。良い意味で、予想を裏切られた。

 しきがあんな言い方をするものだから、ちょっとさびれた、家と城しか無いような田舎を想像していたのだが、全く違った。


「へい、らっしゃい!」

「こっちの魚も安いよ! 揚げたてや!」

「これ、奥さんにおまけな! またうてやー」


 活気。

 そう。この街を一言で言い表すなら、漁師町の活気。

 確か尹は、綜と同じく、外海そとうみに国の大部分が面していて、豊富な魚介類が売りだそうだ。

 尹の中心都市だけあって、国中の魚や産物が集まっている。どこの国でもそうだけど、その国の首都では、大きないちができる。それが尹では、魚介類に特化しているようだ。


 凄い。

 純粋に、そう思った。

 陽に焼けた肌色の人達が、薄い布をまとい、元気よく行きかっている。周りは声と音に溢れている。私にしてみれば、異国情緒あふれる街だった。


「どうしたの?」


 飛燕が、不思議そうに私を見て、首を傾げた。

 今、私達は、尹都の中心的な大市の入り口に来ていた。

 飛燕には見慣れた風景だろうが、私にはすべてが物珍しく映る。環にも鮮魚を扱う店はあったが、こんな大規模な魚市場見た事無い。環は海に面してないから仕方ないんだけど。


 道の両脇にある店々が、これでもかとカラフルな魚を並べ立てている。客寄せする女性、男性、子供、老人。そんなお店と通路が、見渡す限りいっぱいあった。まるで、縁日の屋台がどこまでも続いているかのような、ワクワク感。


「凄いわ! 飛燕、連れてきてくれてありがとう!」

「楽しい?」

「とっても!」

「なら、良かった」


 どこか安堵するようにつぶやく飛燕に、興奮冷めやらぬまま、私は、好奇心のままに質問を投げかけていた。


「あれは、何ていう魚? 赤身? 白身?」

「白身。脂がのってて、美味しいよ」

「あれは?」

「あの貝は、美味しいけど高いんだ。だから、みんな祝い事のごちそうに使うよ」

「へえ! ねえ、あっちのは、出汁を取るのかしら?」

「だし? ううん、あれは、蒸してそのまま食べるよ」

「たぶん、あれで出汁を取ったら、美味しいわ。見てわかる」

「お嬢さん」

「あ! あの、スープ良い匂い。具材は何かしら?」

「あれは、蟹だね」

「蟹がいるの!」

「お嬢さん」

「今度食べたいわ。美味しいのの見分け方とか、教えてくれるかしら。あと」

「お嬢さん!!」


 いきなり、耳元で慶珂の大声が聞こえた。周りの雑踏の中でも十分聞こえるぐらい、大きく。


「な、なに? 慶珂」


 慶珂はこれ見よがしに溜息を吐き、ビシッと飛燕を指さした。正しくは、飛燕の下げてる籠の中を、だ。


「お嬢さんが、心弾むのはわかる。だが! 飛燕は、お嬢さんが興味持ったもの全部買ってるんだぞっ。気づいてるか? どうすんだよ、この食材の山」


 ハッとして籠の中を見ると、確かに、私が指さし、近寄り、飛燕に尋ねたものばかりが入っていた。い、いつの間に買ってたの??


「ひ、飛燕、これ」

「え? これ、気になったんでしょう?」


 私が恐る恐る聞くと、何でも無い事のように言ってのけ、首を傾げる飛燕。


「そ、そうだけど。悪いわ」

「いいよ、気にしないで。おじさんからも、たんまり案内料貰ったし。次は何が気になる?」


 き、貴族ー! 生粋きっすいの貴族ー!!


「飛燕、お嬢さんは気が赴くままに喋ってるだけだから、全部相手にしなくて良いんだぜ。買ったものはしょうがないけど、今度からはお嬢さんの確認を取ってから、買ってもらっても良いか?」


 いつの間にか仲良くなっていた慶珂がそう言うと、飛燕は少し考えこんでいたようだが、小さく頷いた。その後に、不思議そうに小首を傾げた。


「不思議。買ってと言われた事はあるけど、買うなって言われたのは、はじめて」

「そりゃ、付き合った女が悪かったな」

「そんな事無いよ……あっと。そういえば、さっきの蟹の羹の所で、三つ頼んだんだった。どこかで食べようよ」


 飛燕は自分の言った言葉を誤魔化すように、私達をさっきの良い匂いのする店の前まで誘導した。


 どうしよう、ちょっとニヤニヤが止まらないんだけど。ほんやりした雰囲気だが、彼、結構モテるのだろうか? いったい、彼女は、どんな女の子なんだろう。興味が尽きない。

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