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とりあえず恥ずかしさは置いておいて。
改めて、今自分が着ている物を確認するように、触ってみる。
「ここで借りてる服も、だいぶ肌触りが良いから、高いんだと思うんだけど、これ以上厄介になって良いものかな……」
「何言ってんだお嬢さん。俺たち今、一欠片も金持ってないぜ。気づいてたか? 俺が持ち出した荷物、全部没収されてるんだぜ」
「はあ?! なんで、没収?」
「知らねぇ。お嬢さんの着替えと、財布と、賄賂用の環木。それぐらいしか入ってなかったんだけどなぁ」
「うっそぉ……。自力で、帰るのを、防ぐため、とか?」
「さぁなぁ。そこまで考えてるのかわからんが、荷物については教えてくれないんだ」
もう一回、仕方ないとでもいうように肩を竦める慶珂。
戴で合流した時には、確かに荷物を持っていたから、最近どうしたんだろうとはうっすら思っていたけど、まさか没収になっていたとは……。みんなへのお土産も買えないのかあ、残念だな。
そんな話をしていたら、いきなりガラッと戸が開いた。ビクッとして振り返ると、眠たそうな目の飛燕がいた。
「……なに?」
「いえ……。あの、入る時は、戸を叩いてもらっても良いですか? 驚いてしまうので」
「ああ、なるほど。ごめんね」
素直に謝れるのは、美徳だと思う。誰かさんに見習わせてやりたい。
「失礼いたします」
そんな飛燕の後ろから、さらに女性の声が聞こえた。
丁香だ。
手に、おそらくたたまれた服を持っている。心なしか、布の厚みが、薄い、ような。
「こっちの服は勝手が違うだろうから、丁香さんに着替えを頼んだんだ。じゃあ、僕たちは出ていようか」
私の躊躇など知る由もなく、飛燕は慶珂を伴って、さっさと部屋を出て行ってしまった。すれ違った時、慶珂が少し心配そうにしていたので、大丈夫と頷いてしまったが、早計だったかもしれない。
彼女が広げた衣服は、そう、薄かったのだ。生地の厚みもだが、こう、透け感みたいなのを大事にしたひらひらした服、って感じで。環では、見ないタイプの服。戴のあの舟乗り場で、着飾った女性たちが着ていたような服。
ちょっと後ずさりすると、丁香はその倍、こちらに詰めてきた。怖っ。
「いっ、嫌、です」
「なぜですか? 生地も高級品で、今、若い方の間で流行の形ですよ。ああ、中央の方にしてみれば、薄く見えるのですね? 大丈夫です。生地が良いので実際そこまで透けませんし、何より涼しいですから。みな、このような服を着ております、すぐ見慣れますよ」
「そ、それでもっ。似合わない、というかっ」
「大丈夫です。紅維様がお選びになったのですから、似合わないわけがありません。さあ」
壁際まで追い詰められてしまった。
「いつまでも駄々っ子のように逃げないでくださいませ。すぐ終わります」
「で、でもっ……あー!!」
私の拒否はすげなくあしらわれ、まっぱにひん剥かれてしまったのだった。
「うぅ……」
「さ、終わりましたよ。どこか苦しい所はありませんか。大丈夫ですね。では、行ってらっしゃいませ」
傷心の私をさっさと戸の外にほっぽり出すと、丁香は掃除をするとかで、無常に戸は閉められてしまった。
心の中で、半ベソをかいていた。もう、私、あの人、丁香さんのお嫁さんになるしか無いのでは……? などと支離滅裂な思考をしてしまうぐらいには、恥ずかしかった。同じ女性で、向こうは着付けを仕事でやってるとわかっているけど、もうちょっと、こうさあ、手心というか、優しさというかさぁ。
一人で半ベソかいてて忘れてたけど、外には、慶珂と飛燕が待っていたのだった。そういえば。
「終わった? 何か、悲鳴のような声が聞こえたけど」
「大丈夫……気にしないで…」
「おいおい、大丈夫か?」
「うん……」
私がしょんぼりしているのが伝わってしまったのか、二人とも心配そうに声をかけてくれる。や、優しい。こんなに優しい子は、うちの大天使以来久しぶりだなあ。玉雲に、ううん、瑞の家族に会いたいなあ。先延ばしにしてるのは、私自身なんだけど。
「私、変じゃない? 大丈夫?」
丁香は綺麗に着付けてくれたけど、心配になってもう一度二人に聞いてみる。こ、この、デコルテラインと足下の布の薄さは、慣れないせいか、不安になってくる。
飛燕は、少しにこっとしてくれて、
「大丈夫だよ。みんなそんな感じの服と髪形だから」
そう、肯定的に言ってくれた。この言葉が、今は一番有難い。実は、髪も丁香に軽く結い上げてもらった。首がスースーして、確かに涼しい。
次に慶珂を見ると、何故かそっぽを向いていた。
「どうしたの? 慶珂」
「いや……」
「あんまり可愛くて、驚いちゃったんだよね」
サラッと何てこと言うのこの子?! みたいな感じで二人して同時に飛燕を見たものだから、飛燕がビックリした顔をした。なんだ、そこまでちゃんと目は開くんじゃないか、とかなんとか的外れな事が浮かんでしまった、ついつい。
「あのなっ! いやっ、その……変じゃ、無い」
慶珂は一人、顔を赤くしながら慌てふためいた後、何やらフォローのような言葉をつぶやいた。私が、あの言葉が嫌いだという事を気にして、言葉を選んでくれたんだろう。その気遣いが、嬉しい。でもちょっと、コッチまで恥ずかしくなってきちゃったので、さっと飛燕の方を見た。
「それなら、良かった。じゃあ、案内宜しくお願いしますね」
「うん。まかせて。こっち」
こうして、ようやく私達は館の外に出る事が出来たのだった。




