表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/152

39

 とりあえず恥ずかしさは置いておいて。

 改めて、今自分が着ている物を確認するように、触ってみる。


「ここで借りてる服も、だいぶ肌触りが良いから、高いんだと思うんだけど、これ以上厄介になって良いものかな……」

「何言ってんだお嬢さん。俺たち今、一欠片も金持ってないぜ。気づいてたか? 俺が持ち出した荷物、全部没収されてるんだぜ」

「はあ?! なんで、没収?」

「知らねぇ。お嬢さんの着替えと、財布と、賄賂用の環木。それぐらいしか入ってなかったんだけどなぁ」

「うっそぉ……。自力で、帰るのを、防ぐため、とか?」

「さぁなぁ。そこまで考えてるのかわからんが、荷物については教えてくれないんだ」


 もう一回、仕方ないとでもいうように肩を竦める慶珂。

 戴で合流した時には、確かに荷物を持っていたから、最近どうしたんだろうとはうっすら思っていたけど、まさか没収になっていたとは……。みんなへのお土産も買えないのかあ、残念だな。


 そんな話をしていたら、いきなりガラッと戸が開いた。ビクッとして振り返ると、眠たそうな目の飛燕がいた。


「……なに?」

「いえ……。あの、入る時は、戸を叩いてもらっても良いですか? 驚いてしまうので」

「ああ、なるほど。ごめんね」


 素直に謝れるのは、美徳だと思う。誰かさんに見習わせてやりたい。


「失礼いたします」


 そんな飛燕の後ろから、さらに女性の声が聞こえた。

 丁香だ。

 手に、おそらくたたまれた服を持っている。心なしか、布の厚みが、薄い、ような。


「こっちの服は勝手が違うだろうから、丁香さんに着替えを頼んだんだ。じゃあ、僕たちは出ていようか」


 私の躊躇ちゅうちょなど知る由もなく、飛燕は慶珂を伴って、さっさと部屋を出て行ってしまった。すれ違った時、慶珂が少し心配そうにしていたので、大丈夫と頷いてしまったが、早計だったかもしれない。

 彼女が広げた衣服は、そう、薄かったのだ。生地の厚みもだが、こう、透け感みたいなのを大事にしたひらひらした服、って感じで。環では、見ないタイプの服。戴のあの舟乗り場で、着飾った女性たちが着ていたような服。

 ちょっと後ずさりすると、丁香はその倍、こちらに詰めてきた。怖っ。


「いっ、嫌、です」

「なぜですか? 生地も高級品で、今、若い方の間で流行の形ですよ。ああ、中央の方にしてみれば、薄く見えるのですね? 大丈夫です。生地が良いので実際そこまで透けませんし、何より涼しいですから。みな、このような服を着ております、すぐ見慣れますよ」

「そ、それでもっ。似合わない、というかっ」

「大丈夫です。紅維様がお選びになったのですから、似合わないわけがありません。さあ」


 壁際まで追い詰められてしまった。


「いつまでも駄々っ子のように逃げないでくださいませ。すぐ終わります」

「で、でもっ……あー!!」


 私の拒否はすげなくあしらわれ、まっぱにひん剥かれてしまったのだった。









「うぅ……」

「さ、終わりましたよ。どこか苦しい所はありませんか。大丈夫ですね。では、行ってらっしゃいませ」


 傷心の私をさっさと戸の外にほっぽり出すと、丁香は掃除をするとかで、無常に戸は閉められてしまった。

 心の中で、半ベソをかいていた。もう、私、あの人、丁香さんのお嫁さんになるしか無いのでは……? などと支離滅裂な思考をしてしまうぐらいには、恥ずかしかった。同じ女性で、向こうは着付けを仕事でやってるとわかっているけど、もうちょっと、こうさあ、手心というか、優しさというかさぁ。


 一人で半ベソかいてて忘れてたけど、外には、慶珂と飛燕が待っていたのだった。そういえば。


「終わった? 何か、悲鳴のような声が聞こえたけど」

「大丈夫……気にしないで…」

「おいおい、大丈夫か?」

「うん……」


 私がしょんぼりしているのが伝わってしまったのか、二人とも心配そうに声をかけてくれる。や、優しい。こんなに優しい子は、うちの大天使ぎょくうん以来久しぶりだなあ。玉雲に、ううん、瑞の家族に会いたいなあ。先延ばしにしてるのは、私自身なんだけど。


「私、変じゃない? 大丈夫?」


 丁香は綺麗に着付けてくれたけど、心配になってもう一度二人に聞いてみる。こ、この、デコルテラインと足下の布の薄さは、慣れないせいか、不安になってくる。

 飛燕は、少しにこっとしてくれて、


「大丈夫だよ。みんなそんな感じの服と髪形だから」


 そう、肯定的に言ってくれた。この言葉が、今は一番有難い。実は、髪も丁香に軽く結い上げてもらった。首がスースーして、確かに涼しい。

 次に慶珂を見ると、何故かそっぽを向いていた。


「どうしたの? 慶珂」

「いや……」

「あんまり可愛くて、驚いちゃったんだよね」


 サラッと何てこと言うのこの子?! みたいな感じで二人して同時に飛燕を見たものだから、飛燕がビックリした顔をした。なんだ、そこまでちゃんと目は開くんじゃないか、とかなんとか的外れな事が浮かんでしまった、ついつい。


「あのなっ! いやっ、その……変じゃ、無い」


 慶珂は一人、顔を赤くしながら慌てふためいた後、何やらフォローのような言葉をつぶやいた。私が、あの言葉が嫌いだという事を気にして、言葉を選んでくれたんだろう。その気遣いが、嬉しい。でもちょっと、コッチまで恥ずかしくなってきちゃったので、さっと飛燕の方を見た。


「それなら、良かった。じゃあ、案内宜しくお願いしますね」

「うん。まかせて。こっち」


 こうして、ようやく私達は館の外に出る事が出来たのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ