32
今回と次回は話してるだけ
一人になった部屋の中を、ぼんやり見回す。
何で、私ここに居るんだろう。
生まれた家が良くてイージーモードでスタートしたから、ずっと安穏に生きていけると思ったのに、ここ最近、なんだかハードモードに突入してる感がある。何か良くわからない事に巻き込まれてるし、勘弁して欲しいんだけどなぁ。
ため息を吐きながらも、部屋の中を見回し続ける。
そういえば、お風呂入った後だからなのかわからないけど、空気が暖かい。南の方の国みたい。戴にいた時より、暖かい気がする。
それなのに部屋の中は、戴のように曲線や、蔦などを使った家具が少ない。どちらかというと、中央寄り、直線的な木材を使った家具が多いように見える。卓子も彫られた模様も、見た事があるような感じだ。
なんだろう。この部屋に感じる、ちぐはく感は。
もともと、戴のように曲線を使った、柔らかい印象の家具が多かったのに、後から、中央で作った家具を置いていったような、慣れてない感じ。不思議。
そんな風に部屋を物珍し気に見ていると、ガラッと戸が開いた音がした。
バッと後ろを振り向くと、
「お嬢さん!」
「慶珂! 無事だったのね」
「それはこっちの言葉です!」
こざっぱりとした慶珂が、驚いた顔をして扉の奥に立っていた。あの色男も一緒だ。思わず立ち上がり、近寄る。慶珂も、私に心配そうに近寄ってきた。
「大丈夫ですね? 怪我とかしてないですね?」
「うん、私は大丈夫よ。慶珂も大丈夫?」
「そんなにやわじゃありませんよ。とにかく良かったです」
二人で無事を確かめ合っていると、あの色男が人の良さそうな笑顔で声をかけてきた。
「良かったなぁ、お二人さん。君もこの子の関係者なんやろ? 一緒に環に帰したるな」
「ありがとうございます、色さん。助かります」
慶珂は、屈託なくあの色男を振り返り、頭を下げた。あ、そういえば完全に忘れてた。
「あの、慶珂に会わせてくれて、ありがとうございます。お名前を伺ってもよろしいですか」
「ああ、気にせんでいいのに。俺は、色 紅維。逢瀬の申し込みなら、いつでも大歓迎だよ」
名前を聞いただけなのに、ウインク付きで、メッチャ色気をふりまかれた。ビクッとしてしまったのは、仕方ないと思う。
「そしたら、二人で積もる話もあるやろうし、俺はこれで失礼するわ。何かあったら、外に使用人が居るから、なんでも言ってな」
私の様子を気にする風でもなく、色と名乗った男性は、あっさりと出て行ってしまった。
はぁ、と溜息を吐く。
つと、慶珂を見る。ああ、ホッとした。
「とりあえず、座って、慶珂。いろいろ、聞きたい事があるの」
「なんなりと。でも、その前に休息を取った方が良くないか?」
「大丈夫。……眠ったら、また何か事情が変わってそうで、怖いの。だから、その前にどうするか少しでも固めておきたくて」
弱音を言える相手が、相談ができる相手がいるとは、なんて有り難い事なのだろう。
慶珂は苦笑したが、素直に座ってくれた。先程まで、あの男が座っていた場所。私も、先程まで座っていた所に座る。
そういえば、お茶は無いのかしら? 今からちょっと色々話したいから、お茶でも飲みたいのだけど。
お茶を求めて立ち上がろうとした時、丁度良く扉がノックされた。
どうぞ、と声をかけると、女性がお盆にお茶を乗せて持ってきてくれた。あの、風呂場で洗われた時の、一人だった。マジかー! もう、あんなところこんなところ見られて、女性同士とはいえ恥ずかしいのだけど。
使用人の女性は、何とも思ってないような顔で、私と慶珂の前にお茶を置き、去って行こうとする。
なけなしの勇気を出して、声をかけた。
「あ、ありがとう。あの、ここの色さんという方は、貴族なのですか?
私みたいなのに、こんな部屋を用意してくれて」
引き留めて、話を聞こうとする。が、女性は何か言い含められているのか、私に一礼して、
「ここは、色将軍のお屋敷です。何かありましたら、お申しつけください。それでは、失礼いたします」
素っ気なくそれだけ言って、出て行ってしまった。
「どうしたんだ?」
慶珂が、出されたお茶を飲みながら、私に聞く。私より先に飲んだのは、たぶん毒見のつもりなんだろう。全く、良いって言ってるのに。
「うん……。私が、ここに居る、という事を考えようと思って」
私も、お茶を一口啜る。これ、飲んだことある。綜で大量に売られてる、綜のお茶だ。環で生産されるお茶より、さわやかな味が特徴だ。というのはどうでも良いんだけど、良くないんだけど、とりあえず慶珂を見る。
慶珂は、私が話し出すのを待ってくれている。




